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異世界

奴隷

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「いやー、皆さん!人生って素晴らしいっすね!」

「和久津ウザイ死ね」

「ははは!手厳しいっす!」

髪を取り戻して以来、和久津は毎日ご機嫌だ。何を言われてもニコニコしている。黛の辛辣な返しにも全く堪えていない。

「今日はお三方で何処に行くんすか?」

大して興味もないくせに、調子のいいやつだ。

「フィロメオから帝都には奴隷商会があると聞いてな」

フィロメオが頷いている。

「パイセン!欠損奴隷を購入、回復させたら大活躍のパターンですか!?」

「いや。リリパットが売られていれば買い取って欲しいとマレーンに頼まれていたんだ」

「まさかの普通の理由!!」

「俺がゲンベルク17世に【変身】して奴隷商会へ行けば、実質タダだからな」

「それ、皇族の悪評が立ちません?」

「他人が他人を悪く言うだけだ。俺には一切関係ない」

「いっそ清々しい!」

「サブロー、早く行こ」

黛が会話に飽きて俺を急かした。

「奴隷は異世界ロマンなんで自分も行きたいっす!」

「好きにしろ」

「いやっほいっ!!」

こいつ、髪が生えたからって奴隷ハーレムでも作るつもりか。


######


帝都には奴隷商会が3つあり、それぞれが大通りに店舗を構えているという話だった。奴隷商会ってのは随分と儲かるのだろう。

近い順に店舗をまわると、一軒目にも二軒目にもリリパットは売られていた。ゲンベルク17世に【変身】して入ったので店主は最初から降伏状態だ。結果、全てのリリパットを譲り受け、今はずらずらと引き連れている。

「うー、パイセン。2軒目もキツかったすね。やっぱり奴隷って見てらんないすわ」

最初は威勢の良かった和久津だが、現実をみて凹んでいるようだ。

「勝手についてきたんだろ。それにお前がどう感じたところで奴隷達の境遇は変わらん」

「……その通りっす」

「分かったならさっさと歩け。今日は俺の従者だろ」

最後の奴隷商会の店舗が視界に入ってきた。和久津が従者のフリをして扉を開けると、ゲンベルク17世の格好を見て店員が居住まいを正した。

フィロメオが一番近くにいた丁稚小僧に話しかけると、小僧は飛び上がるように奥へと引っ込んだ。

「いま、商会長を連れて来るそうです」

「そうか。やはりこの姿は効果抜群だな」

小僧と入れ替えにやって来たのはキッチリした格好の優男だった。チラリと黛を見てから、フィロメオと言葉を交わした。

「リリパットの奴隷はすぐに準備してくれるそうです。他にも気になる奴隷がいればどうぞって言っています」

「よい心掛けだな。早速見せてもらおう」

店主が自ら開けたドアの先にはショーウィンドウのように奴隷達が飾られていた。若くて見目麗しい様々な種族の女が作られた笑顔を向けている。

「今までの奴隷商と趣が違うな。随分と大切に扱われているように見える」

「ここは一番の高級店ですからね」

フィロメオは淡々と奴隷達を見ている。おっかなびっくりの和久津とは大違いだ。

「加護持ちの奴隷はいるか聞いてくれ」

「ちょっと待って下さいね」

フィロメオと店主が一言二言と交わしている。

「居るには居るらしいですが、おすすめ出来ないそうです」

「一体、どんな神様の加護持ちなんだ?」

フィロメオが一瞬止まった。

「……心配の神様の加護持ちだそうです」

面白い。
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