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Dr.アダチの教室
バッタ人間?
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「ルーメン、変なのがいる!」
集落を探して新宿を歩き回り、成果もなく新宿中央公園跡で昼食にしようかというタイミング。
ニコの指差した先にそれはいた。身長は一メートルと少しだろうか。緑の肌にボロ切れを纏い、頭の触覚を忙しなく動かしている。そいつを一言で表するなら……バッタ人間。
トノサマバッタの頭を持つ小柄な怪人は、獲物を見つけたらしく、息を潜める。そして──。
ワッ! っと魔物化したコオロギに飛び掛かり、鷲掴みにするとそのまま齧り付いた。
……バッタがコオロギを食っている。自分以外が虫を食っている様子を見るのは新鮮だ。
「虫食べてるよ。ルーメン!」
「……そうだな」
「いいの!?」
「……べ、別に俺以外が虫を食っても構わんだろ」
「悔しそう!」
「悔しくてなんてない!」
ニコが悪戯っぽい笑みを浮かべている。こいつ、大人をからかいやがって……。
「あっ!」
コオロギを食べ終わったバッタ人間が動き始めた。
「追うぞ」
「やっぱり悔しいの!?」
「……違う。いい絵が撮れそうだから追う」
「はいはい!」
悔しくなんてない!
#
バッタ人間は都庁跡へと歩いていく。
かつてのツインタワーは片方が完全に崩れていて、もう片方は外壁を蔦植物に覆われていた。バッタ人間は緑のタワーに吸い込まれる。
「入る?」
「入るに決まっているだろ。コメント欄を見てみろ」
コメント:バッタ君、都庁に入る!
コメント:ルーメン! 追って!!
コメント:都庁どんなになってんやろ
コメント:バッタ君、なんなの?
コメント:ルーメン、バッタ君と会話し
コメント:追え追え追え!!
コメント欄を見てニコはキャッキャと笑う。
「ルーメン、追ってだって!」
「あぁ。追うぞ」
バッタ人間は背後を気にすることなく都庁跡に入っていき、スルスルと階段を上がっていく。足音を忍ばせながら慎重に追いかける。
そして四階。開けたフロアに出た。食堂だろうか? そしてそこには──。
「……バッタ人間がたくさん……」
声を出したニコの手を引いて慌てて柱に身を隠す。そして、そっと覗き見る。
公園跡で見つけたバッタ人間と同じようなのが百、いや二百はいる。テーブルについて本を読むもの、ワイワイと会話を楽しむもの、追いかけっこをしているものと様々だ。
「……こいつら、子供なのか……」
「……そんな感じするね……」
ドッジボールをしていたバッタ人間がボールを後逸した。コロコロと転がってこちらにやってくる。……まずい。二人で顔を引っ込めるが、見られたかもしれない。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
タイルカーペットが剥げたコンクリートの床に足音が響く。
ボールは俺達の目の前で止まった。足音も……。
ボールを拾い上げたバッタ人間がこちらを見上げた。複眼と目が合う──。
「やあ」
「……ニ、人間ダァァァァー!!」
バッタ人間はパタパタと逃げていき、フロアが大混乱になった。何処へ逃げるでもなく走り回り、バッタ人間同士がぶつかってあちこちで悲鳴が上がる。こいつら、本当に子供だな。親はいないのか?
「どうする? ルーメン」
「うーむ。とりあえず落ち着かせないとな……」
しかし騒ぎは酷くなるばかりで鎮まる様子はない。というかこいつら、楽しんでないか? いつの間にか全員が鬼ごっこをやっているような状況だ。誰も俺達を怖がってないように思える。
「こらっ! うるさいぞ!」
廊下の向こう、バッタ人間の混乱を挟んだ対面から男の声がした。しかし、まだ騒がしい。
「いい加減にせんかぁぁぁー!!」
やっとバッタ人間は動きを止め、少しずつテーブルにつき始めた。そして、声の主がゆっくりと歩く。白髪をオールバックにまとめ、よれよれの白衣がいかにも博士風だ。
「客人とは珍しい。私はこの都庁に住む男、アダチだ」
「勝手に入ってすまなかった。俺はルーメン。こっちはニコだ」
「ニコだ!」
何故かニコは偉そうに胸を張る。
「……ほう。面白い娘だな」
アダチはニコの角を興味深そうに見ている。
「ルーメンの方が面白いぞ! ルーメンは変なもんばっかり食べるからな! 主に虫とか!」
「はははっ! それは愉快だな。ここの住人達とも仲良くやれそうだ」
アダチは深い皺の刻まれた顔を緩める。
「まぁ、何もないところだがゆっくりして行ってくれ」
そう言ってアダチは踵を返し、バッタ人間達が座る食堂のテーブルへと向かっていった。
集落を探して新宿を歩き回り、成果もなく新宿中央公園跡で昼食にしようかというタイミング。
ニコの指差した先にそれはいた。身長は一メートルと少しだろうか。緑の肌にボロ切れを纏い、頭の触覚を忙しなく動かしている。そいつを一言で表するなら……バッタ人間。
トノサマバッタの頭を持つ小柄な怪人は、獲物を見つけたらしく、息を潜める。そして──。
ワッ! っと魔物化したコオロギに飛び掛かり、鷲掴みにするとそのまま齧り付いた。
……バッタがコオロギを食っている。自分以外が虫を食っている様子を見るのは新鮮だ。
「虫食べてるよ。ルーメン!」
「……そうだな」
「いいの!?」
「……べ、別に俺以外が虫を食っても構わんだろ」
「悔しそう!」
「悔しくてなんてない!」
ニコが悪戯っぽい笑みを浮かべている。こいつ、大人をからかいやがって……。
「あっ!」
コオロギを食べ終わったバッタ人間が動き始めた。
「追うぞ」
「やっぱり悔しいの!?」
「……違う。いい絵が撮れそうだから追う」
「はいはい!」
悔しくなんてない!
#
バッタ人間は都庁跡へと歩いていく。
かつてのツインタワーは片方が完全に崩れていて、もう片方は外壁を蔦植物に覆われていた。バッタ人間は緑のタワーに吸い込まれる。
「入る?」
「入るに決まっているだろ。コメント欄を見てみろ」
コメント:バッタ君、都庁に入る!
コメント:ルーメン! 追って!!
コメント:都庁どんなになってんやろ
コメント:バッタ君、なんなの?
コメント:ルーメン、バッタ君と会話し
コメント:追え追え追え!!
コメント欄を見てニコはキャッキャと笑う。
「ルーメン、追ってだって!」
「あぁ。追うぞ」
バッタ人間は背後を気にすることなく都庁跡に入っていき、スルスルと階段を上がっていく。足音を忍ばせながら慎重に追いかける。
そして四階。開けたフロアに出た。食堂だろうか? そしてそこには──。
「……バッタ人間がたくさん……」
声を出したニコの手を引いて慌てて柱に身を隠す。そして、そっと覗き見る。
公園跡で見つけたバッタ人間と同じようなのが百、いや二百はいる。テーブルについて本を読むもの、ワイワイと会話を楽しむもの、追いかけっこをしているものと様々だ。
「……こいつら、子供なのか……」
「……そんな感じするね……」
ドッジボールをしていたバッタ人間がボールを後逸した。コロコロと転がってこちらにやってくる。……まずい。二人で顔を引っ込めるが、見られたかもしれない。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
タイルカーペットが剥げたコンクリートの床に足音が響く。
ボールは俺達の目の前で止まった。足音も……。
ボールを拾い上げたバッタ人間がこちらを見上げた。複眼と目が合う──。
「やあ」
「……ニ、人間ダァァァァー!!」
バッタ人間はパタパタと逃げていき、フロアが大混乱になった。何処へ逃げるでもなく走り回り、バッタ人間同士がぶつかってあちこちで悲鳴が上がる。こいつら、本当に子供だな。親はいないのか?
「どうする? ルーメン」
「うーむ。とりあえず落ち着かせないとな……」
しかし騒ぎは酷くなるばかりで鎮まる様子はない。というかこいつら、楽しんでないか? いつの間にか全員が鬼ごっこをやっているような状況だ。誰も俺達を怖がってないように思える。
「こらっ! うるさいぞ!」
廊下の向こう、バッタ人間の混乱を挟んだ対面から男の声がした。しかし、まだ騒がしい。
「いい加減にせんかぁぁぁー!!」
やっとバッタ人間は動きを止め、少しずつテーブルにつき始めた。そして、声の主がゆっくりと歩く。白髪をオールバックにまとめ、よれよれの白衣がいかにも博士風だ。
「客人とは珍しい。私はこの都庁に住む男、アダチだ」
「勝手に入ってすまなかった。俺はルーメン。こっちはニコだ」
「ニコだ!」
何故かニコは偉そうに胸を張る。
「……ほう。面白い娘だな」
アダチはニコの角を興味深そうに見ている。
「ルーメンの方が面白いぞ! ルーメンは変なもんばっかり食べるからな! 主に虫とか!」
「はははっ! それは愉快だな。ここの住人達とも仲良くやれそうだ」
アダチは深い皺の刻まれた顔を緩める。
「まぁ、何もないところだがゆっくりして行ってくれ」
そう言ってアダチは踵を返し、バッタ人間達が座る食堂のテーブルへと向かっていった。
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