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3話 顛末
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埃っぽいバーの店内に、男が二人入って来た。
カウンターの中に立つ私を見て驚き、一瞬動きを止める。そしてキョロキョロと忙しなく首を振りながら、席についた。
「いらっしゃい。酒かい? それとも、別の用事かい?」
「別の用事だ……」
見覚えのある使用人が答えた。
「ちょっと待って。今、店の鍵を閉めるから」
鍵を閉めてカウンターの中に戻ると、二人は少し落ち着いたようだ。急に話し始める。
「呪術師と聞いて老人を想像していたが、声は若い女だな」
主人の方が意外そうに言った。
「若い女じゃ不満かい?」
「い、いや。そんなことはない。凄腕の呪術師と聞いて相談に来たんだ。仕事を頼みたい」
もう後がないのか、焦っているようだ。
「話を聞かせてもらえる?」
「実は……殺したい相手がいるんだ。奴はいくら毒を盛っても死にやしない。異国から仕入れた強力な毒なのに、いつまで経っても生きていやがる。そこで、呪術師の噂を聞いてここに来たんだ。受けてくれるか?」
「仕事だからね。受けるよ。相手は?」
「侯爵家の嫡男、ハロルド」
なんとまぁ。ぬけぬけと。
「……金貨100枚出せるかい?」
主人と使用人が顔を見合わせた。
「侯爵の位を継げば、それぐらいなんとかなる! だから、力を貸してくれ!」
「ツケかい? それは出来ない相談だよ。ヒルデブラント」
呪術用の仮面を脱ぎ捨て、素顔を晒す。
「なっ……ニーナ……! 何故ここに……!?」
「中央の貴族はちょっと弛んでいるんじゃないかしら? 行動が筒抜けよ」
「ふざけるな!」
ヒルデブラントと使用人がナイフを抜いた。しかし──
ドンッ! とカウンターが内側から倒れ、二人は下敷きになる。
隠れていたジルドレが押し倒したのだ。
「失神してやがる。中央の貴族はやわですねぇ。お嬢様」
「本当に」
二人をロープで縛り上げ、馬車を呼んだ。
#
「……と、いう訳らしいです」
記録の魔道具が再生した私とヒルデブラントの会話を聞いて、ハロルド様はベッドの上で頭を抱えた。
「ニーナ……すまなかった。私は君に酷いことを言ってしまった」
碧い瞳が潤む。
「平気よ。本心じゃないってわかっていたから。どうせ、ヒルデブラントに唆されたんでしょ?」
「……」
「"病気が治る見込みがないのなら、婚約破棄すべきだ。今のままだとニーナを不幸にしてしまう"とか言われたんじゃない?」
「……その通りだ。私が愚かだった……」
「あの男、私が侯爵家に出入りするのが嫌だったんでしょうね。でも、すぐ分かったわよ。ハロルド様は何でも、表情に出ちゃうから」
そう伝えると、バツの悪そうな顔をした。
「我ながら、貴族に向いていない性格だと思う」
「私はそこも含めてお慕い申しております」
黄金色の髪が揺れる。
見惚れていると、ハロルド様の手が伸びてきた。
抱き寄せられ、すぐ側で熱を感じる。
「ニーナ……。私と結婚して欲しい」
「喜んで」
二度目のプロポーズもずっと私の記憶に残ることでしょう。
#
ハロルド様に毒を盛っていたヒルデブラントは勘当され、侯爵家から追放となった。その姿を最後に見かけたのは王都のスラムという話だ。
ハロルド様の体調はすっかりよくなり、もう魔法学園にも復帰している。
そして私はというと──。
「ニーナ・ゲオルグを聖女に認定する!」
枢機卿から、聖杯で清められたワインを与えられた。
「謹んでお受けいたします」
教会の聖堂に大きな拍手が鳴り響いた。
振り返り来賓に礼をする。顔を上げると、最前列でハロルドが瞳に涙を溜めていた。本当に涙脆い。
何故こんなことになっているかというと、私がうっかり聖なる魔力を発するようになったからだ。
いくら毒を盛られてもハロルド様が死ななかったのは、私が毎日ベッドまでやってきて、聖なる魔力を撒き散らしていたせいらしい。無自覚に、癒していたのだ。
魔法学園に講師としてやってきた司祭に指摘されて初めて分かったのだけれど……。
「ニーナ、おめでとう!」
ハロルド様が私に駆け寄る。
「聖女ニーナ……。漏れておりますぞ」
枢機卿に指摘された。目下の課題は聖なる魔力をコントロール出来るようになることだ。
聖女として、ハロルド様の婚約者として。また、しばらく忙しくなりそうだ。
カウンターの中に立つ私を見て驚き、一瞬動きを止める。そしてキョロキョロと忙しなく首を振りながら、席についた。
「いらっしゃい。酒かい? それとも、別の用事かい?」
「別の用事だ……」
見覚えのある使用人が答えた。
「ちょっと待って。今、店の鍵を閉めるから」
鍵を閉めてカウンターの中に戻ると、二人は少し落ち着いたようだ。急に話し始める。
「呪術師と聞いて老人を想像していたが、声は若い女だな」
主人の方が意外そうに言った。
「若い女じゃ不満かい?」
「い、いや。そんなことはない。凄腕の呪術師と聞いて相談に来たんだ。仕事を頼みたい」
もう後がないのか、焦っているようだ。
「話を聞かせてもらえる?」
「実は……殺したい相手がいるんだ。奴はいくら毒を盛っても死にやしない。異国から仕入れた強力な毒なのに、いつまで経っても生きていやがる。そこで、呪術師の噂を聞いてここに来たんだ。受けてくれるか?」
「仕事だからね。受けるよ。相手は?」
「侯爵家の嫡男、ハロルド」
なんとまぁ。ぬけぬけと。
「……金貨100枚出せるかい?」
主人と使用人が顔を見合わせた。
「侯爵の位を継げば、それぐらいなんとかなる! だから、力を貸してくれ!」
「ツケかい? それは出来ない相談だよ。ヒルデブラント」
呪術用の仮面を脱ぎ捨て、素顔を晒す。
「なっ……ニーナ……! 何故ここに……!?」
「中央の貴族はちょっと弛んでいるんじゃないかしら? 行動が筒抜けよ」
「ふざけるな!」
ヒルデブラントと使用人がナイフを抜いた。しかし──
ドンッ! とカウンターが内側から倒れ、二人は下敷きになる。
隠れていたジルドレが押し倒したのだ。
「失神してやがる。中央の貴族はやわですねぇ。お嬢様」
「本当に」
二人をロープで縛り上げ、馬車を呼んだ。
#
「……と、いう訳らしいです」
記録の魔道具が再生した私とヒルデブラントの会話を聞いて、ハロルド様はベッドの上で頭を抱えた。
「ニーナ……すまなかった。私は君に酷いことを言ってしまった」
碧い瞳が潤む。
「平気よ。本心じゃないってわかっていたから。どうせ、ヒルデブラントに唆されたんでしょ?」
「……」
「"病気が治る見込みがないのなら、婚約破棄すべきだ。今のままだとニーナを不幸にしてしまう"とか言われたんじゃない?」
「……その通りだ。私が愚かだった……」
「あの男、私が侯爵家に出入りするのが嫌だったんでしょうね。でも、すぐ分かったわよ。ハロルド様は何でも、表情に出ちゃうから」
そう伝えると、バツの悪そうな顔をした。
「我ながら、貴族に向いていない性格だと思う」
「私はそこも含めてお慕い申しております」
黄金色の髪が揺れる。
見惚れていると、ハロルド様の手が伸びてきた。
抱き寄せられ、すぐ側で熱を感じる。
「ニーナ……。私と結婚して欲しい」
「喜んで」
二度目のプロポーズもずっと私の記憶に残ることでしょう。
#
ハロルド様に毒を盛っていたヒルデブラントは勘当され、侯爵家から追放となった。その姿を最後に見かけたのは王都のスラムという話だ。
ハロルド様の体調はすっかりよくなり、もう魔法学園にも復帰している。
そして私はというと──。
「ニーナ・ゲオルグを聖女に認定する!」
枢機卿から、聖杯で清められたワインを与えられた。
「謹んでお受けいたします」
教会の聖堂に大きな拍手が鳴り響いた。
振り返り来賓に礼をする。顔を上げると、最前列でハロルドが瞳に涙を溜めていた。本当に涙脆い。
何故こんなことになっているかというと、私がうっかり聖なる魔力を発するようになったからだ。
いくら毒を盛られてもハロルド様が死ななかったのは、私が毎日ベッドまでやってきて、聖なる魔力を撒き散らしていたせいらしい。無自覚に、癒していたのだ。
魔法学園に講師としてやってきた司祭に指摘されて初めて分かったのだけれど……。
「ニーナ、おめでとう!」
ハロルド様が私に駆け寄る。
「聖女ニーナ……。漏れておりますぞ」
枢機卿に指摘された。目下の課題は聖なる魔力をコントロール出来るようになることだ。
聖女として、ハロルド様の婚約者として。また、しばらく忙しくなりそうだ。
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