4 / 47
闖入者
しおりを挟む
ラストランドから魔の森に戻る頃には、陽は落ちかけていて暗い。足元に気を付けながら、マルス領を目指す。
余裕が生まれたらマルス領までの道を整備したいな。岩をレンガに変えて敷き詰めるだけでいいので簡単な筈だ。
そんなことを考えながら、森歩きをしていると、マルス領の外壁が見えてきた。
入り口のレンガを崩して領内に入ると、違和感がある。なんだろう? 目を皿のようにして一通り眺めると……ない。天日干ししておいたマッドボアの肉が少ない。一体、何処に……?
もう一度注意深く見渡すも、犯人は見当たらない。
「持っていかれたかぁ……」
まぁ、無いものは仕方がない。レンガ作りの貯蔵庫を開けると、そこにある肉は無事だった。とりあえず食べよう。
レンガのまな板の上で肉を切り分け、かまどに火を付ける。そして鍋にマッドボアの脂を馴染ませてから肉を焼く。
「少しだけ……」
仕入れて来た塩をパラパラと振り、ハーブと一緒に焼いているといい香りがする。
──ゴソゴソ。
うん? なんだ? なんの音だ?
──ゴソゴソゴソ。それはテントの中から聞こえる。慌てて腰からナイフを抜いて身構える。
「ミャオ」
テントの入り口から顔を出したのは猫だった。山猫だろうか? 賢そうな顔でこちらを見ていた。
マッドボアの肉を焼く匂いが気になるようで、ずっと鍋の方に鼻をひくつかせる。
「食べる?」
そう言って肉を一切れ、レンガの上に置いて差し出す。
猫は警戒しながらもテントから出て来た。そしてゆっくりと肉に近寄り、前足でつつく。湯気が出ているのが気に入らないらしい。
何度か触って湯気がおさまったころ、猫は肉に食いついた。前足で押さえ、噛みちぎっては満足そうな顔を浮かべている。
全て平らげると前足を舐めて毛並みを整え、またテントへ入っていく。
「そこ、俺の家なんだけど」
ミャオと鳴くものの、出てくる気配はない。
「仕方ないなぁ。一晩だけだぞ」
かまどを片付けてテントの中に入ると、猫は俺の毛布の中で丸まっていた。暖かいところが好きなようだ。もしかしたら、この陽だまりには前から来ていたのかもしれない。
そう考えると、この猫の方が先住民。無下にも出来ない。
俺はそっと毛布の中に身を滑らせ、猫を腹に抱えるようにして丸くなった。お腹はいっぱいで暖かい。瞼が重くなるまで、時間は掛からなかった。
#
頬っぺたが冷たい。雨? いや、そんな筈はない。テントの中で寝た筈だ。
瞼を薄く開けると、猫の顔がある。
「ミャオ」
「早起きだな。腹でも減ったのか?」
「ミャーオオ」
どうやら腹減りのようだ。
俺は毛布から抜け出し外に出て、かまどに火を付ける。
そしてマルス領から出て不滅ダケと目についた山菜を集めて戻り、鍋に突っ込む。もちろんマッドボアの肉も忘れない。
さっと朝食を終わらせると、満足したのか、猫はレンガを伝って外壁を登り、外へ出ていってしまった。
何処へ行くつもりだろうか?
気になった俺はナイフを持って慌てて外へ出る。
猫はこちらを確認すると、スルスルと森の中を進んでいく。
たまにこちらを振り返っているので、一応、俺のことを気にしているようだ。
追いかけっこが少し続いたあと、急に開けた場所に出た。
「ミャオ」
どうだ! とばかりに猫は鳴いて、泉のほとりに立ち、ペロペロと水を飲み始めた。そう。湧水の泉だ。底が見えるほど澄んでいる。
試しにすくって飲んでみると、変な味はしない。それどころか、美味しい。ラストランドの井戸水より遥かに美味しい。
「ありがとうな。これでわざわざ水を貰いにラストランドに行く必要がなくなったよ」
「ミャーオオ」
猫は水を飲み満足すると、元来た道を戻っていく。
あれ? この猫、完全にマルス領に住むつもりじゃないか?
こちらの疑問を他所に、猫はご機嫌で進んでいく。
そしてマルス領の外壁が見えると、軽く跳躍して外壁を登ってしまった。その内、この外壁を超える魔物が現れるかもしれない。もう少し、高くするかぁ……。
猫に遅れてマルス領に入ると、猫の姿はない。きっとお気に入りの毛布に包まっているのだろう。
「まぁ、一人で暮らすより楽しいかもしれない」
俺は新たな領民? を歓迎することにした。
「名前を考えないとな。うーん……テトはどうだ?」
テントに向かって声を掛けると、渋々といった感じの返事がある。
「じゃあ、お前の名前はテトだ。よろしくな」
ミャオともう一度、声がした。受け入れてもらえたらしい。
こうして、俺の一人での生活は終わりとなった。
余裕が生まれたらマルス領までの道を整備したいな。岩をレンガに変えて敷き詰めるだけでいいので簡単な筈だ。
そんなことを考えながら、森歩きをしていると、マルス領の外壁が見えてきた。
入り口のレンガを崩して領内に入ると、違和感がある。なんだろう? 目を皿のようにして一通り眺めると……ない。天日干ししておいたマッドボアの肉が少ない。一体、何処に……?
もう一度注意深く見渡すも、犯人は見当たらない。
「持っていかれたかぁ……」
まぁ、無いものは仕方がない。レンガ作りの貯蔵庫を開けると、そこにある肉は無事だった。とりあえず食べよう。
レンガのまな板の上で肉を切り分け、かまどに火を付ける。そして鍋にマッドボアの脂を馴染ませてから肉を焼く。
「少しだけ……」
仕入れて来た塩をパラパラと振り、ハーブと一緒に焼いているといい香りがする。
──ゴソゴソ。
うん? なんだ? なんの音だ?
──ゴソゴソゴソ。それはテントの中から聞こえる。慌てて腰からナイフを抜いて身構える。
「ミャオ」
テントの入り口から顔を出したのは猫だった。山猫だろうか? 賢そうな顔でこちらを見ていた。
マッドボアの肉を焼く匂いが気になるようで、ずっと鍋の方に鼻をひくつかせる。
「食べる?」
そう言って肉を一切れ、レンガの上に置いて差し出す。
猫は警戒しながらもテントから出て来た。そしてゆっくりと肉に近寄り、前足でつつく。湯気が出ているのが気に入らないらしい。
何度か触って湯気がおさまったころ、猫は肉に食いついた。前足で押さえ、噛みちぎっては満足そうな顔を浮かべている。
全て平らげると前足を舐めて毛並みを整え、またテントへ入っていく。
「そこ、俺の家なんだけど」
ミャオと鳴くものの、出てくる気配はない。
「仕方ないなぁ。一晩だけだぞ」
かまどを片付けてテントの中に入ると、猫は俺の毛布の中で丸まっていた。暖かいところが好きなようだ。もしかしたら、この陽だまりには前から来ていたのかもしれない。
そう考えると、この猫の方が先住民。無下にも出来ない。
俺はそっと毛布の中に身を滑らせ、猫を腹に抱えるようにして丸くなった。お腹はいっぱいで暖かい。瞼が重くなるまで、時間は掛からなかった。
#
頬っぺたが冷たい。雨? いや、そんな筈はない。テントの中で寝た筈だ。
瞼を薄く開けると、猫の顔がある。
「ミャオ」
「早起きだな。腹でも減ったのか?」
「ミャーオオ」
どうやら腹減りのようだ。
俺は毛布から抜け出し外に出て、かまどに火を付ける。
そしてマルス領から出て不滅ダケと目についた山菜を集めて戻り、鍋に突っ込む。もちろんマッドボアの肉も忘れない。
さっと朝食を終わらせると、満足したのか、猫はレンガを伝って外壁を登り、外へ出ていってしまった。
何処へ行くつもりだろうか?
気になった俺はナイフを持って慌てて外へ出る。
猫はこちらを確認すると、スルスルと森の中を進んでいく。
たまにこちらを振り返っているので、一応、俺のことを気にしているようだ。
追いかけっこが少し続いたあと、急に開けた場所に出た。
「ミャオ」
どうだ! とばかりに猫は鳴いて、泉のほとりに立ち、ペロペロと水を飲み始めた。そう。湧水の泉だ。底が見えるほど澄んでいる。
試しにすくって飲んでみると、変な味はしない。それどころか、美味しい。ラストランドの井戸水より遥かに美味しい。
「ありがとうな。これでわざわざ水を貰いにラストランドに行く必要がなくなったよ」
「ミャーオオ」
猫は水を飲み満足すると、元来た道を戻っていく。
あれ? この猫、完全にマルス領に住むつもりじゃないか?
こちらの疑問を他所に、猫はご機嫌で進んでいく。
そしてマルス領の外壁が見えると、軽く跳躍して外壁を登ってしまった。その内、この外壁を超える魔物が現れるかもしれない。もう少し、高くするかぁ……。
猫に遅れてマルス領に入ると、猫の姿はない。きっとお気に入りの毛布に包まっているのだろう。
「まぁ、一人で暮らすより楽しいかもしれない」
俺は新たな領民? を歓迎することにした。
「名前を考えないとな。うーん……テトはどうだ?」
テントに向かって声を掛けると、渋々といった感じの返事がある。
「じゃあ、お前の名前はテトだ。よろしくな」
ミャオともう一度、声がした。受け入れてもらえたらしい。
こうして、俺の一人での生活は終わりとなった。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる