外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ

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闖入者

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 ラストランドから魔の森に戻る頃には、陽は落ちかけていて暗い。足元に気を付けながら、マルス領を目指す。

 余裕が生まれたらマルス領までの道を整備したいな。岩をレンガに変えて敷き詰めるだけでいいので簡単な筈だ。

 そんなことを考えながら、森歩きをしていると、マルス領の外壁が見えてきた。

 入り口のレンガを崩して領内に入ると、違和感がある。なんだろう? 目を皿のようにして一通り眺めると……ない。天日干ししておいたマッドボアの肉が少ない。一体、何処に……?

 もう一度注意深く見渡すも、犯人は見当たらない。

「持っていかれたかぁ……」

 まぁ、無いものは仕方がない。レンガ作りの貯蔵庫を開けると、そこにある肉は無事だった。とりあえず食べよう。

 レンガのまな板の上で肉を切り分け、かまどに火を付ける。そして鍋にマッドボアの脂を馴染ませてから肉を焼く。

「少しだけ……」

 仕入れて来た塩をパラパラと振り、ハーブと一緒に焼いているといい香りがする。

 ──ゴソゴソ。

 うん? なんだ? なんの音だ?

 ──ゴソゴソゴソ。それはテントの中から聞こえる。慌てて腰からナイフを抜いて身構える。

「ミャオ」

 テントの入り口から顔を出したのは猫だった。山猫だろうか? 賢そうな顔でこちらを見ていた。

 マッドボアの肉を焼く匂いが気になるようで、ずっと鍋の方に鼻をひくつかせる。

「食べる?」

 そう言って肉を一切れ、レンガの上に置いて差し出す。

 猫は警戒しながらもテントから出て来た。そしてゆっくりと肉に近寄り、前足でつつく。湯気が出ているのが気に入らないらしい。

 何度か触って湯気がおさまったころ、猫は肉に食いついた。前足で押さえ、噛みちぎっては満足そうな顔を浮かべている。

 全て平らげると前足を舐めて毛並みを整え、またテントへ入っていく。

「そこ、俺の家なんだけど」

 ミャオと鳴くものの、出てくる気配はない。

「仕方ないなぁ。一晩だけだぞ」

 かまどを片付けてテントの中に入ると、猫は俺の毛布の中で丸まっていた。暖かいところが好きなようだ。もしかしたら、この陽だまりには前から来ていたのかもしれない。

 そう考えると、この猫の方が先住民。無下にも出来ない。

 俺はそっと毛布の中に身を滑らせ、猫を腹に抱えるようにして丸くなった。お腹はいっぱいで暖かい。瞼が重くなるまで、時間は掛からなかった。


#


 頬っぺたが冷たい。雨? いや、そんな筈はない。テントの中で寝た筈だ。

 瞼を薄く開けると、猫の顔がある。

「ミャオ」

「早起きだな。腹でも減ったのか?」

「ミャーオオ」

 どうやら腹減りのようだ。

 俺は毛布から抜け出し外に出て、かまどに火を付ける。

 そしてマルス領から出て不滅ダケと目についた山菜を集めて戻り、鍋に突っ込む。もちろんマッドボアの肉も忘れない。

 さっと朝食を終わらせると、満足したのか、猫はレンガを伝って外壁を登り、外へ出ていってしまった。

 何処へ行くつもりだろうか?

 気になった俺はナイフを持って慌てて外へ出る。

 猫はこちらを確認すると、スルスルと森の中を進んでいく。

 たまにこちらを振り返っているので、一応、俺のことを気にしているようだ。


 追いかけっこが少し続いたあと、急に開けた場所に出た。

「ミャオ」

 どうだ! とばかりに猫は鳴いて、泉のほとりに立ち、ペロペロと水を飲み始めた。そう。湧水の泉だ。底が見えるほど澄んでいる。

 試しにすくって飲んでみると、変な味はしない。それどころか、美味しい。ラストランドの井戸水より遥かに美味しい。

「ありがとうな。これでわざわざ水を貰いにラストランドに行く必要がなくなったよ」

「ミャーオオ」

 猫は水を飲み満足すると、元来た道を戻っていく。

 あれ? この猫、完全にマルス領に住むつもりじゃないか?

 こちらの疑問を他所に、猫はご機嫌で進んでいく。

 そしてマルス領の外壁が見えると、軽く跳躍して外壁を登ってしまった。その内、この外壁を超える魔物が現れるかもしれない。もう少し、高くするかぁ……。

 猫に遅れてマルス領に入ると、猫の姿はない。きっとお気に入りの毛布に包まっているのだろう。

「まぁ、一人で暮らすより楽しいかもしれない」

 俺は新たな領民? を歓迎することにした。

「名前を考えないとな。うーん……テトはどうだ?」

 テントに向かって声を掛けると、渋々といった感じの返事がある。

「じゃあ、お前の名前はテトだ。よろしくな」

 ミャオともう一度、声がした。受け入れてもらえたらしい。

 こうして、俺の一人での生活は終わりとなった。
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