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ピチョン……。
ピチョン……。
ピチョン……。
雫の落ちる音で目を覚ますと、またしても暗闇だった。ゴツゴツとした岩の感覚が頬に伝わる。身を起こそうとするが、手も脚も縛られているようで満足に動かせない。
しばらく身を捩っていたが、無駄に体力を消耗させるだけだと気がつく。
俺達は例のモンスターを捕獲しようと罠を張っていた筈。それがどうだ。捕まったのはこっちだった。実は何もかも見透かされていたのかもしれない。あの、虚な瞳に。
少し冷静になり、皆のことを考える余裕が出来た。無事なのだろうか? 捕まったのは、俺だけ?
時間の感覚のない空間であれこれ考えるが、なんの打開策も思い浮かばない。命は既に握られているのだ。俺を捕獲した連中に。
暗闇の中に幾つも足音が響く。現れたようだ。
足音は俺のすぐそばで止まり、グイと身体が引っ張られた。無理矢理立たされ、壁に押し付けられる。そして、灯りで顔を照らされた。
すぐ側にオーガがいて、俺を押さえている。そして目の前には──。
「獣人……」
若い狐の獣人の女が冷淡な瞳を俺に向けている。それは強い意志を感じさせるもので、虚な目のオーガとは対照的だ。
あぁ。こいつの仕業だ。モンスターを操っているのはこいつだ。俺の中で確信が生まれる。
「マルスね」
俺の名前を知っている? こいつは……開拓村の人間か?
「……お前は?」
「ルー」
表情を全く変えず、そう呟く。
「何が目的だ?」
「あら。それはこちらの台詞よ。私達に仕掛けてきたのはアナタ達でしょ」
一瞬言葉に詰まる。確かに仕掛けたのはこちらかもしれない……。いつからこちらの動きを悟られていた? もしかして、最初から?
「……不審なモンスターがいたら調査するのは当然のことだ」
「アナタの領地に攻め入ったりはしなかった筈よ」
ルーの瞳に力が入る。
「これから攻めてくるかもしれない」
「ふん。まぁ、いいわ。別にアナタと議論するつもりはないの」
スッとルーが近寄ってきた。もう息がかかる距離だ。
「なら、どうするつもりた?」
「この魔の森に獣人の村を作りたいの。手伝って」
村を作る……? この女、本気か……?
#
ルー達が住んでいるのは、魔の森の南側にある洞窟の中だった。多分、他のモンスターの群れが住んでいた所を、ルー達が奪い取ったのだろう。
「なぁ。いつまで俺はオーガにロープを握られているんだ?」
「村が完成するまでよ」
洞窟の広間。幾つも灯りの魔道具が置かれている。
そこで、俺は三十人ほどの獣人と十体ほどのモンスターに囲まれていた。
モンスター達の瞳は虚で、獣人達の瞳は怯えているように見える。
「みんな、大丈夫よ。マルスは私達に協力してくれるって」
脅されたのだ。協力しないとマルス領を襲うと。
「もう、こんな薄暗い洞窟の中での生活はおしまい。ちゃんと陽の下に出て暮らせるようになるわ」
獣人の子供が嬉しそうに声を上げた。こんな洞窟の中、モンスターに守られながら暮らす毎日が楽しいわけない。
「立派な壁に守られた村で、怯えることなく暮らすのよ。そこには、私達を奴隷にしようとする人間はいないわ」
ここで疑問が生まれた。
本当だろうか? 壁があるだけで、この怯えた瞳が変わるのだろうか? ここにいる獣人達は帝国軍に捕まり奴隷にされ、縋るような思いで魔の森に逃れてきた筈だ。
しかしそれでも、元帝国民との摩擦があり、開拓村にはいられなかった。何か……大きな変化が必要な気がする。
「頼むわね。マルス」
「……うーん。やっぱり村をつくるのは、やめにしませんか?」
「何を言っているの!?」
ルーが睨み、オーガが俺の頭を掴んだ。
「……村じゃなくて、国を作りましょう」
獣人達が驚きで目を見開いた。
ピチョン……。
ピチョン……。
雫の落ちる音で目を覚ますと、またしても暗闇だった。ゴツゴツとした岩の感覚が頬に伝わる。身を起こそうとするが、手も脚も縛られているようで満足に動かせない。
しばらく身を捩っていたが、無駄に体力を消耗させるだけだと気がつく。
俺達は例のモンスターを捕獲しようと罠を張っていた筈。それがどうだ。捕まったのはこっちだった。実は何もかも見透かされていたのかもしれない。あの、虚な瞳に。
少し冷静になり、皆のことを考える余裕が出来た。無事なのだろうか? 捕まったのは、俺だけ?
時間の感覚のない空間であれこれ考えるが、なんの打開策も思い浮かばない。命は既に握られているのだ。俺を捕獲した連中に。
暗闇の中に幾つも足音が響く。現れたようだ。
足音は俺のすぐそばで止まり、グイと身体が引っ張られた。無理矢理立たされ、壁に押し付けられる。そして、灯りで顔を照らされた。
すぐ側にオーガがいて、俺を押さえている。そして目の前には──。
「獣人……」
若い狐の獣人の女が冷淡な瞳を俺に向けている。それは強い意志を感じさせるもので、虚な目のオーガとは対照的だ。
あぁ。こいつの仕業だ。モンスターを操っているのはこいつだ。俺の中で確信が生まれる。
「マルスね」
俺の名前を知っている? こいつは……開拓村の人間か?
「……お前は?」
「ルー」
表情を全く変えず、そう呟く。
「何が目的だ?」
「あら。それはこちらの台詞よ。私達に仕掛けてきたのはアナタ達でしょ」
一瞬言葉に詰まる。確かに仕掛けたのはこちらかもしれない……。いつからこちらの動きを悟られていた? もしかして、最初から?
「……不審なモンスターがいたら調査するのは当然のことだ」
「アナタの領地に攻め入ったりはしなかった筈よ」
ルーの瞳に力が入る。
「これから攻めてくるかもしれない」
「ふん。まぁ、いいわ。別にアナタと議論するつもりはないの」
スッとルーが近寄ってきた。もう息がかかる距離だ。
「なら、どうするつもりた?」
「この魔の森に獣人の村を作りたいの。手伝って」
村を作る……? この女、本気か……?
#
ルー達が住んでいるのは、魔の森の南側にある洞窟の中だった。多分、他のモンスターの群れが住んでいた所を、ルー達が奪い取ったのだろう。
「なぁ。いつまで俺はオーガにロープを握られているんだ?」
「村が完成するまでよ」
洞窟の広間。幾つも灯りの魔道具が置かれている。
そこで、俺は三十人ほどの獣人と十体ほどのモンスターに囲まれていた。
モンスター達の瞳は虚で、獣人達の瞳は怯えているように見える。
「みんな、大丈夫よ。マルスは私達に協力してくれるって」
脅されたのだ。協力しないとマルス領を襲うと。
「もう、こんな薄暗い洞窟の中での生活はおしまい。ちゃんと陽の下に出て暮らせるようになるわ」
獣人の子供が嬉しそうに声を上げた。こんな洞窟の中、モンスターに守られながら暮らす毎日が楽しいわけない。
「立派な壁に守られた村で、怯えることなく暮らすのよ。そこには、私達を奴隷にしようとする人間はいないわ」
ここで疑問が生まれた。
本当だろうか? 壁があるだけで、この怯えた瞳が変わるのだろうか? ここにいる獣人達は帝国軍に捕まり奴隷にされ、縋るような思いで魔の森に逃れてきた筈だ。
しかしそれでも、元帝国民との摩擦があり、開拓村にはいられなかった。何か……大きな変化が必要な気がする。
「頼むわね。マルス」
「……うーん。やっぱり村をつくるのは、やめにしませんか?」
「何を言っているの!?」
ルーが睨み、オーガが俺の頭を掴んだ。
「……村じゃなくて、国を作りましょう」
獣人達が驚きで目を見開いた。
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