外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ

文字の大きさ
35 / 47

されました

しおりを挟む
 ピチョン……。

 ピチョン……。

 ピチョン……。


 雫の落ちる音で目を覚ますと、またしても暗闇だった。ゴツゴツとした岩の感覚が頬に伝わる。身を起こそうとするが、手も脚も縛られているようで満足に動かせない。

 しばらく身を捩っていたが、無駄に体力を消耗させるだけだと気がつく。

 俺達は例のモンスターを捕獲しようと罠を張っていた筈。それがどうだ。捕まったのはこっちだった。実は何もかも見透かされていたのかもしれない。あの、虚な瞳に。

 少し冷静になり、皆のことを考える余裕が出来た。無事なのだろうか? 捕まったのは、俺だけ?

 時間の感覚のない空間であれこれ考えるが、なんの打開策も思い浮かばない。命は既に握られているのだ。俺を捕獲した連中に。


 暗闇の中に幾つも足音が響く。現れたようだ。

 足音は俺のすぐそばで止まり、グイと身体が引っ張られた。無理矢理立たされ、壁に押し付けられる。そして、灯りで顔を照らされた。

 すぐ側にオーガがいて、俺を押さえている。そして目の前には──。

「獣人……」

 若い狐の獣人の女が冷淡な瞳を俺に向けている。それは強い意志を感じさせるもので、虚な目のオーガとは対照的だ。

 あぁ。こいつの仕業だ。モンスターを操っているのはこいつだ。俺の中で確信が生まれる。

「マルスね」

 俺の名前を知っている? こいつは……開拓村の人間か?

「……お前は?」

「ルー」

 表情を全く変えず、そう呟く。

「何が目的だ?」

「あら。それはこちらの台詞よ。私達に仕掛けてきたのはアナタ達でしょ」

 一瞬言葉に詰まる。確かに仕掛けたのはこちらかもしれない……。いつからこちらの動きを悟られていた? もしかして、最初から?

「……不審なモンスターがいたら調査するのは当然のことだ」

「アナタの領地に攻め入ったりはしなかった筈よ」

 ルーの瞳に力が入る。

「これから攻めてくるかもしれない」

「ふん。まぁ、いいわ。別にアナタと議論するつもりはないの」

 スッとルーが近寄ってきた。もう息がかかる距離だ。

「なら、どうするつもりた?」

「この魔の森に獣人の村を作りたいの。手伝って」

 村を作る……? この女、本気か……?


#


 ルー達が住んでいるのは、魔の森の南側にある洞窟の中だった。多分、他のモンスターの群れが住んでいた所を、ルー達が奪い取ったのだろう。

「なぁ。いつまで俺はオーガにロープを握られているんだ?」

「村が完成するまでよ」

 洞窟の広間。幾つも灯りの魔道具が置かれている。

 そこで、俺は三十人ほどの獣人と十体ほどのモンスターに囲まれていた。

 モンスター達の瞳は虚で、獣人達の瞳は怯えているように見える。

「みんな、大丈夫よ。マルスは私達に協力してくれるって」

 脅されたのだ。協力しないとマルス領を襲うと。

「もう、こんな薄暗い洞窟の中での生活はおしまい。ちゃんと陽の下に出て暮らせるようになるわ」

 獣人の子供が嬉しそうに声を上げた。こんな洞窟の中、モンスターに守られながら暮らす毎日が楽しいわけない。

「立派な壁に守られた村で、怯えることなく暮らすのよ。そこには、私達を奴隷にしようとする人間はいないわ」

 ここで疑問が生まれた。

 本当だろうか? 壁があるだけで、この怯えた瞳が変わるのだろうか? ここにいる獣人達は帝国軍に捕まり奴隷にされ、縋るような思いで魔の森に逃れてきた筈だ。

 しかしそれでも、元帝国民との摩擦があり、開拓村にはいられなかった。何か……大きな変化が必要な気がする。

「頼むわね。マルス」

「……うーん。やっぱり村をつくるのは、やめにしませんか?」

「何を言っているの!?」

 ルーが睨み、オーガが俺の頭を掴んだ。

「……村じゃなくて、国を作りましょう」

 獣人達が驚きで目を見開いた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...