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第一章
03 冤罪
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私はフィデリオを落ち着かせるためにも彼に差し出された紙の束を受け取った。
彼を咎めるのは簡単だ。ここまでの不敬で牢に繋ぐことも、なんならこの場で打ちすえることも私の立場ならやれる。
自分の手を使わずとも、声を掛ければ部屋の外にいる衛兵がフィデリオを拘束するだろう。彼らが部屋に入ってこないのは、フィデリオのこれまでの実績と私からの声掛けが無いからだ。さぞ、中の様子が気になっていることと思うが、大事にしてはフィデリオに傷がつく。
心痛による錯乱という事で療養をすれば、再び私の側近としてやっていける。ファルナーゼ家にもこれ以上の醜聞は必要ない。
「どうぞ、ご覧ください、殿下。義父がこの三ヶ月でそろえた証拠です。ははっはははははっ。殿下、それを見てもシシィを悪としますか?私の……私たちの可愛い可愛いシシィ。さあ、読んで下さい。そして、シシィを返してください」
「あ、あの……フィデリオ様」
「あなたに私の名を呼ぶ事を許した覚えはない、アルトワ嬢。ははは、これからも無いよ。私の可愛い可愛い愛しいシシィを殺した女など、目に映したくも無い。ああ……そうか、目に映したくないなら……いっそ……」
フィデリオの危うさがどんどん増していっているような気がする。
正直、フィデリオが持ってきた紙の束を見る間に彼から目を離すのさえ躊躇われるが、拒んで刺激する方がもっと拙いだろう。
気が進まないながらも紙に目を落とした私は、読み進めていくうちにフィデリオのこともマリアのことも意識の外に追い出して貪るように読み進めた。
ファルナーゼ家使用人の証言に関しては、フィデリオやファルナーゼ公爵の力が及んでいるだろうから信憑性に関して疑いがあるが、学園の教師や生徒・使用人や用務員などがシシィの潔白を証言して証人喚問に望むことも問題ないとある。
隣国との関わりは、ファルナーゼ家が勧めていた貿易のことだと言う。
誘拐組織結成に関しては、捕縛した組織員の誰もシシィの事を知らないと言っているとも。
「いや、まさか、そんな馬鹿な」
信じられない。
シシィの凶行に関してはこちらもしっかりと調査した筈だ。
私の信じるマリアの告発だとはいえ、無条件でその言葉を信じて断罪したりなどはしていない。
調査書を読み進めていくと、シシィを告発したときの証言者がすべて……
「……マリア?」
……すべてがマリアに繋がっている。
そして、ファルナーゼ公爵家と派閥争いをしているコウドレイ侯爵家に。
信じられない思いでマリアを見れば、彼女は何故かうっすらと微笑んでいる。
「アル様?私よりフィデリオ様とファルナーゼ家を信じるんですか?」
「いや、だが……」
「作りものですよ、そんな調査書なんて。アル様も調べたでしょう?全て、あのシシィ・ファルナーゼが行ったことです」
「マリア・アルトワ。強弁は許されない。すでにコウドレイ候は言い逃れの出来ぬ証拠を出され自白しているよ。ははは。シシィの時のような簡単に覆せるお粗末な証拠じゃない。あの時は何故か証言者が次々に不慮の死を迎えたが、今回はそんなザマにはならないよ。証言だけじゃない。君の手跡による企みの依頼書を、彼らは保険代わりにとってあったよ」
そのフィデリオの言葉で、マリアは少し眉を寄せた。微笑みを唇に乗せたままで。
「燃やすように指示していたのにね?あんな悪党どもに信義も矜持も無い。こすからく立ち回って自分だけは助かろうと、こちらが聞いてもいない事までぺらぺらと喋ってくれたよ。義父が陛下に自白剤の使用を認めてもらえるように訴えている」
自白剤はシシィの時には使われなかった。彼女は自白したわけではないが、罪状を否認しなかったからだ。
マリアは顎に指を当て首を傾げ、不本意そうに言う。
「失敗しちゃいましたか」
「……失敗?つまり、君は容疑を認めるという事……なのか?マリア、嘘だと言ってくれ!コウドレイに騙されたんだろう?まさか、君が私を騙していた訳じゃ無いだろう!?」
「ふふふっ。アル様、ごめんなさいね?本当は、もっとちゃんとアル様を幸せにしてあげる筈だったんですけど。……ステ上げが面倒で横着したのがダメだったのかなぁ。シシィは私のことを苛めてこないし、排除しちゃえば何とかなると思ったんだけどなぁ」
この女は誰だ。
私を癒やして包んでくれたマリアは何処に行ってしまったんだ。
ああ、現実逃避しても仕方がない。
フィデリオが持ってきた調査書に間違いはないのだろう。マリアは観念したのか見苦しく逃げようとはしていない。
シシィは罪など犯していなかった。
彼女に与えられた罪は、全てマリアとコウドレイ家がねつ造、或いは彼らの犯した罪の擦り付けだった。
シシィ。君は罪を犯してなど、マリアを苛めたりなどしていなかったのか?
シシィ、シシィ、シシィ。
私は君にどう詫びればいい。
彼を咎めるのは簡単だ。ここまでの不敬で牢に繋ぐことも、なんならこの場で打ちすえることも私の立場ならやれる。
自分の手を使わずとも、声を掛ければ部屋の外にいる衛兵がフィデリオを拘束するだろう。彼らが部屋に入ってこないのは、フィデリオのこれまでの実績と私からの声掛けが無いからだ。さぞ、中の様子が気になっていることと思うが、大事にしてはフィデリオに傷がつく。
心痛による錯乱という事で療養をすれば、再び私の側近としてやっていける。ファルナーゼ家にもこれ以上の醜聞は必要ない。
「どうぞ、ご覧ください、殿下。義父がこの三ヶ月でそろえた証拠です。ははっはははははっ。殿下、それを見てもシシィを悪としますか?私の……私たちの可愛い可愛いシシィ。さあ、読んで下さい。そして、シシィを返してください」
「あ、あの……フィデリオ様」
「あなたに私の名を呼ぶ事を許した覚えはない、アルトワ嬢。ははは、これからも無いよ。私の可愛い可愛い愛しいシシィを殺した女など、目に映したくも無い。ああ……そうか、目に映したくないなら……いっそ……」
フィデリオの危うさがどんどん増していっているような気がする。
正直、フィデリオが持ってきた紙の束を見る間に彼から目を離すのさえ躊躇われるが、拒んで刺激する方がもっと拙いだろう。
気が進まないながらも紙に目を落とした私は、読み進めていくうちにフィデリオのこともマリアのことも意識の外に追い出して貪るように読み進めた。
ファルナーゼ家使用人の証言に関しては、フィデリオやファルナーゼ公爵の力が及んでいるだろうから信憑性に関して疑いがあるが、学園の教師や生徒・使用人や用務員などがシシィの潔白を証言して証人喚問に望むことも問題ないとある。
隣国との関わりは、ファルナーゼ家が勧めていた貿易のことだと言う。
誘拐組織結成に関しては、捕縛した組織員の誰もシシィの事を知らないと言っているとも。
「いや、まさか、そんな馬鹿な」
信じられない。
シシィの凶行に関してはこちらもしっかりと調査した筈だ。
私の信じるマリアの告発だとはいえ、無条件でその言葉を信じて断罪したりなどはしていない。
調査書を読み進めていくと、シシィを告発したときの証言者がすべて……
「……マリア?」
……すべてがマリアに繋がっている。
そして、ファルナーゼ公爵家と派閥争いをしているコウドレイ侯爵家に。
信じられない思いでマリアを見れば、彼女は何故かうっすらと微笑んでいる。
「アル様?私よりフィデリオ様とファルナーゼ家を信じるんですか?」
「いや、だが……」
「作りものですよ、そんな調査書なんて。アル様も調べたでしょう?全て、あのシシィ・ファルナーゼが行ったことです」
「マリア・アルトワ。強弁は許されない。すでにコウドレイ候は言い逃れの出来ぬ証拠を出され自白しているよ。ははは。シシィの時のような簡単に覆せるお粗末な証拠じゃない。あの時は何故か証言者が次々に不慮の死を迎えたが、今回はそんなザマにはならないよ。証言だけじゃない。君の手跡による企みの依頼書を、彼らは保険代わりにとってあったよ」
そのフィデリオの言葉で、マリアは少し眉を寄せた。微笑みを唇に乗せたままで。
「燃やすように指示していたのにね?あんな悪党どもに信義も矜持も無い。こすからく立ち回って自分だけは助かろうと、こちらが聞いてもいない事までぺらぺらと喋ってくれたよ。義父が陛下に自白剤の使用を認めてもらえるように訴えている」
自白剤はシシィの時には使われなかった。彼女は自白したわけではないが、罪状を否認しなかったからだ。
マリアは顎に指を当て首を傾げ、不本意そうに言う。
「失敗しちゃいましたか」
「……失敗?つまり、君は容疑を認めるという事……なのか?マリア、嘘だと言ってくれ!コウドレイに騙されたんだろう?まさか、君が私を騙していた訳じゃ無いだろう!?」
「ふふふっ。アル様、ごめんなさいね?本当は、もっとちゃんとアル様を幸せにしてあげる筈だったんですけど。……ステ上げが面倒で横着したのがダメだったのかなぁ。シシィは私のことを苛めてこないし、排除しちゃえば何とかなると思ったんだけどなぁ」
この女は誰だ。
私を癒やして包んでくれたマリアは何処に行ってしまったんだ。
ああ、現実逃避しても仕方がない。
フィデリオが持ってきた調査書に間違いはないのだろう。マリアは観念したのか見苦しく逃げようとはしていない。
シシィは罪など犯していなかった。
彼女に与えられた罪は、全てマリアとコウドレイ家がねつ造、或いは彼らの犯した罪の擦り付けだった。
シシィ。君は罪を犯してなど、マリアを苛めたりなどしていなかったのか?
シシィ、シシィ、シシィ。
私は君にどう詫びればいい。
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