転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第二章

38 フラグはどこへ?

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 明日は中等部の入学式という日、夕食の席でお父様から伝えられた情報は、私にとっては想定外で安心していいのか判断しかねるものだった。


「殿下は18歳までは婚約者を決めないと言っているらしい」


 ホワイ?

 いやいやいや、王子様がそれでいいの?妃教育とかあるだろうに。


「まあ、それならばシシィの言っていた”死亡フラグ”というものは……」

「無い――と断じていいかもしれないな」


 マジで?


 我が家に婚約の打診が来ない事に安心しつつも、もしも他のご令嬢が悪役令嬢の立ち位置に立たされて冤罪掛けられたらどうしよう――と思う気持ちがあった。

 けど、婚約者がいないんだったら、問題なくヒロインちゃんと王子様のラブストーリーを展開してくれていいんだよね?


 おおっ!

 なんで婚約者を早く決めないんだよ!と思っていたけど、これでいいのか?これでいいのだ!王子様GJ!


「ああ……大丈夫、なんだ、よね?――良かったぁぁぁ……」


 やっぱり、王子様は前世持ちで乙女ゲームの事を知ってるんじゃないかな?そして、18歳で出会う運命のヒロインちゃんの為に婚約者の座を空けているんだろう、きっと。


 立ちふさがる悪役令嬢がいないと、もしかしたら盛り上がりに欠けるかな?でも、ま、乙女ゲームじゃない現実の恋愛には敵役なんていないのが普通だろうから、そういう恋愛をしていただきたい。恋愛経験ゼロの私が言うのもなんだけど。

 そうしても悪役が欲しいなら、両親である王様と王妃様にでも反対してもらって、それを糧に盛り上がって欲しい。


 そういえば、ヒロインちゃんってどんな子なんだろう?

 チュートリアルだけとはいえプレイしたのに、名前も外見も覚えていない。まっつんに聞いた悪役令嬢の話が深く印象に残っているせいかもしれない。あれ?タイトルは何だっけ?


 シシィになってからは記憶力半端ないんだけど、獅子井桜の脳みそは形状記憶機能が搭載されていて、覚えたことは自動クリーニングの憂き目に遭い白紙に近い状況に戻るのが常だった、そういえば。


 なので、前世の日本で便利だったり役に立ったりする技術を、私がこちらで普及させる――なんて事も出来ない。おバカさんは辛いよ。あ、今は賢いけど。


「だとしたら、シシィもそろそろ婚約の事を考えてもいいかもしれないわね」


「え˝……」


「優良物件から売れていくのよ?出だしが遅いとそれだけ不利になるじゃない」


 ごもっともにございます。でも。


「ごめんなさい、お母様。本当に本当に申し訳ないんだけれど、婚約は17歳まで……本当に私がこの先もシシィ・ファルナーゼでいられることを確認するまで待ってほしいの」


「あら、そうは言ってもねぇ」


「いいじゃないか」


 助け舟を出してくれたのはお父様。


「殿下の婚約者が決まるまで、その地位に相応しいご令嬢方も婚約はしないだろう。ということは、そのお相手になる子息たちの婚約もそれほど早くは決まらない筈だ」


 そうだね!王子様の婚約者を狙うご令嬢やお家は、今の段階で婚約者を決めたりしないだろう。王子様の婚約者になる芽を自分から潰すなんて拙策を選ぶはずがない。


「それはそうですけれど……。ええ、いいわ。元々あなたの未来が無事だと確認できる17歳まで婚約の話はしないつもりだったんですものね」


 不承不承ならがも、お母様も頷いてくれたのでほっとする。ゴメンね、お母様。17歳になったらちゃんとファルナーゼ家の為になると、お父様とお母様が選んだ相手と婚約するから、あと5年待ってください。




「と、いう訳でね、婚約者を選ぶのが王子様が18歳になってからなら、冤罪も断罪もなくて出奔も要らない心配、かも?」


 夕食の後、自室に戻ってハーブティを淹れてくれているスピネルの後をついて歩きつつ報告する。


「一応、準備は怠らないつもりだけどねー」


 そうは言っても17歳を過ぎるまでは油断せずに行こう。万が一ってことがある。転ばぬ先の杖ってやつだ。


「……お嬢様は婚約をしたいのですか?」

「ええ!?王子様と!?ナイナイ」

「いえ、そうではなく、他に結婚したいお相手がいらっしゃるのかと伺っております」


 他の方……屋敷から出ない私に結婚したい相手どころか知り合いの男性だっていないのに、酷な質問をする子だ。


 あ、でも、知り合いと言えば


「ミーシャ……?」


 一人だけいた。倒しても倒しても向かってくる打たれ強さと不屈の精神は良しとする。が、あの子はないなぁ。あの子も弟枠だ。やんちゃで困らせてくるけど、脳筋系獅子井家にいてもおかしくないくらいに近いものを感じる。


 そう思っていると、らしくもなくスピネルが乱暴に茶器を置いて私の肩を掴んだ。


「ミーシャ……?ミーシャと言いました?お嬢様はあの子熊と結婚したいのですか?


 私のせいだけど、スピネルの中でも「レオナルド=子熊」「子熊=ミーシャ」という図が確立されている。スマン、ミーシャ。


「いやいやいや、ないない。スピネルに結婚相手って言われて、そう言えば私はミーシャくらいしか年齢の近い異性っていないなー、と思っただけ。あっちも私のことそんな風に思って無いだろうし」


 会う度に自分をボコる女を好きになるとしたら、性癖的に問題ありだ。まさか、あの子熊にそういう趣味があるとも思えない。


「ミーシャだけ……ですか」


 不貞腐れたように言うスピネルに、私はピンと来た。彼はまた拗ねているのだ。


「そうだよ。スピネルは私の一番だから、結婚相手とか婚約者とかそんな相手として考えられない位に大事だもん。婚約とか結婚とか、そういうのは公爵家の人間としてすることだけど、スピネルは家とは関係なく私の大事」


 肩を掴まれたまま、スピネルの頭を撫でてみる。

 大事だよー、スピネルが一番だよー。だから、学園で女友達を作るくらいは許してね?ちゃんと、スピネルに愛情は欠かさず表現するから。ね?


「まだお子様ですね、お嬢様は」


 なにおう!スピネルこそ、下の子にヤキモチまき散らす、お兄ちゃんになったばかりの幼児のようじゃないかっ!




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