64 / 129
第三章
62 フラグの無い生活
しおりを挟む王子様とお話しした後は、もう、気分スッキリで毎日朝が来るのが嬉しくて仕方ない。晴れても降っても希望の朝なのだ。
お父様とお母様にも、詳しい話は第一王子殿下の私的な部分があるから言えないが――と前置きして「死亡フラグは無くなったっぽい」と話してある。二人ともとても喜んでくれたけど、じゃ、婚約者を決めちゃおう!という押せ押せオーラを出してきたので、それはやはり17歳まで待ってとお願いした。
王子様も私と話をしたことで前回の踏襲は無いと判断したようだけど、やっぱり婚約者は18になってからという決意は変わって無いようだし、まだ、慌てる時間じゃない。
「スピネル、おはよう」
「おはようございます、お嬢様」
朝の挨拶をするスピネルの視線は私に向かっているようでいて、微妙に逸れている。傍から見れば私を見ているように見えるだろうけど、受ける側からしたらずれているのは良く分かる。
「スピネルはどうしたのかなー?何か、私に怒ってる?」
「お嬢様に対して怒るなんて滅相も無いです」
じゃ、なんで私の目を見ないのかな?ん?
「お嬢様、学園に到着いたしました」
馬車の中でも心ここにあらずと言った風情のスピネルは、必要最低限しか口を開かなかった。私に怒っているのではないとすると、何か悩み事かなぁ。
王子様の前回と私の前世の話をしてから10日。学園ではまだ私の悪女説(?)が蔓延っているようだけれど、近々コウドレイ侯爵の罪が発表されるらしいので気にしていない。
元々、噂自体よりもそこから引き起こされると予想していた死亡フラグが怖かっただけだし、友人たちもクラスメートも私を信じてくれているので、動じる必要も無い。
冷静になれば12歳の子どもが犯せるような罪じゃない事は分かると思うんだけど……噂ってコワイねっ。
そんなことよりも目下の問題はスピネルの挙動不審だ。
最初は王子様に前世の事を話したせいで拗ねているだけだと思ったので、スピネルが大事だよー、一番のお友達だよー、大好きだよーとアピールしていた。実際に王子とのお茶会が不満だったこともあったようで、多少機嫌は治ったんだけど、それだけじゃなかったようで。
この十日ほど、微妙に私を避けているのだ。お姉さんは寂しい。
そして、もう一つの変化。
「おはよう、ファルナーゼ嬢」
「おはようございます、第一王子殿下」
私の方を見てひそひそと囀っている人たちを横目に、王子様が私に挨拶をしてくるようになったのだ。王子様が私に声をかけると、陰口を叩いていた人たちが顔から血の気を引かせてピタッと口をつぐむ様は見ていて面白いと言えない事も無い。
王子様は私の噂を払拭するためにか、この十日ほどはあちこちで声をかけてくれる。
お茶会の時に言われたように、私には友人も味方もいるし、コウドレイ候の発表があったらみんな掌返しするだろうから気にしなくていいのに。
王子様は前回のトラウマのせいか、私が謂れの無い噂を立てられるのを良しとしないようだ。
これはこれで別の噂が立つと思うんだけどね。ほら、婚約者だとか婚約者候補だとかさ。
王子様にも私にもその気は無いし、ホント、ただ挨拶しているだけだから噂が立っても関係ないけどさー。
「おはようございます、レナータ様」
「おはようございます、シシィ様、スピネル様」
王子様と挨拶を交わした後に教室に辿り着くと、いつも通り可愛いレナータ様がいて挨拶を交わす。レナータ様、いつも私より朝が早いんだ。
マリア様の机を見ると、鞄はかけてあるので既に登校済みのようだ。相変わらず授業中以外は教室にいない人だ。
私の視線に気づいたレナータ様が、苦笑して頷いた。このやりとりも朝の定番になっている。
午前の授業を受け、セバスチアーナ様、テレーザ様、ヴィヴィアナ様、レナータ様と一緒に昼食を取り、また午後の授業。
死亡フラグが粉砕された今、冒険者になるのは夢となったなーと思いつつも将来の為にお勉強を頑張る。
このまま平和に学園生活を満喫し、学生でいる間に出来れば魔法剣をモノにしたい。
卒業しちゃったら、そういう趣味に時間を取るのも難しいだろうし。
「お嬢、まだ魔法剣を諦めてなかったのか」
「何で諦めていると思った」
先生に呼ばれたスピネルを廊下で待っている最中、周囲に人気がないので、学園内だけどプライベートモードでミーシャとお喋りだ。
「だって、全然上手くいってないんだろ?とっくに諦めてるかと思った。っつうか、魔法剣なんてお伽噺だぞ」
そうなのだ。この世界は剣と魔法の世界のくせに、魔法剣は存在しないのだ。何故なら、魔法使いは剣に魔法を纏わせるより直接相手にぶつけた方が早いし、剣士は良い剣で相手をぶった切ったほうが早いから。
ロマンを求める者はいないらしい。
「いや、イケる」
「根拠は?」
「ない」
「ないのかよっ!?」
いいのっ。私がパイオニアになってみせるのだっ。
「あっ……」
「どうしたの、ミーシャ」
急に声を上げ挙動不審になったミーシャに声をかけると、彼はスマンとでもいうように片手拝みをして「俺、行くわ。危険物がこっちに来る」と耳打ちしたと思ったら、脱兎のごとく駆け出し去っていってしまった。
危険物とな……。
いや、ミーシャがそういう反応を示す相手は分かってますけども。物じゃないんだから、危険人物と言おうよ。そういう問題じゃないか。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる