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第2章
わたしはもう、ひとりじゃない。
しおりを挟む体調を崩してから、一日半――。
夕方の食堂は、あたたかな光とにぎやかな声に包まれていた。
テーブルには、すでにできたてのオムレツやウインナー、焼きたてパンが並べられている。
「メイ、もうすっかり元気そうだね!」
「うん。ありがとう、コハクくん。あのね……わたし、ちょっとだけ、寮にいるのがこわくなくなった気がするよ」
そう言うと、コハクくんは「そっか」とうれしそうに笑ってくれた。
「あ、そういえば昨日、リオさんも心配してたよ」
「えっ! ほんと?」
リオちゃんは、サーバルキャットのクラスメイト。今いちばん、仲良くなりたいなって思ってる子だ。
「早く会いたいから、風邪なんてさっさと治しちゃってよって言ってた」
「リオちゃんらしい」
でも、すごくうれしいな。
(明日、教室に行ったら、リオちゃんにいちばんにあいさつしよう)
「さて、それじゃ食べよう」と、コハクくんが手を合わせたとき。
「メ~イ~ちゃ~んっ!」
どこからともなく飛びついてきたのは、マオくんだった。
おおきな目をきらきらさせながら、わたしにぴたっとくっついてくる。
「わっ! マオくん!? ちょっと、耳がくすぐったいよ~っ!」
「だってメイちゃんが元気になってうれしいんだもん! ぼくね、ずーっと心配してたんだよ? コハクがそっとしておいてって言うから、おみまいに行くの、がまんしてたの!」
「がまんしてくれてたの?」
「そうだよ! えらい?」
「うん、そうだね」
思わずわたしは、くすっと笑ってしまった。
「心配かけてごめんね。もう元気になったから」
「よかった~!」
マオくんはほっとしたように言いながら、わたしにぎゅっと抱きついてくる。なんだか、甘え上手の弟ができたみたいだ。
「こら、マオ。メイが困ってるからはやくはなれろ」
その声にふり向くと、少し離れたところに立っていたのは――まっしろな毛並みの耳に、鋭く光る銀色の瞳。
アサヒくんだった。
クラスがちがうアサヒくんとは、あまり話したことがないけれど……。
だけど、会ったとしてもあんまりしゃべるタイプじゃないし、どこか冷たい印象があって、ちょっと苦手なんだ。
「へぇ~。ニンゲンってもっと病弱かと思ったけど、案外元気そうじゃん!」
そして、アサヒくんのうしろからにゅっと顔を出してきたのは、ひとなつっこそうな笑顔の男の子。
「よっ! メイ!」
すらりとした体に、ぴょこんとのびた耳。動きがすばやくて、目が回りそう。
「レイくん!」
チーターのやんちゃ王子こと、レイくんだ。
「さすがコハク先輩の推しって感じ?」
「お、推し!?」
びっくりして、思わず大きな声を出しちゃった。だって、コハクくんがわたしを推してるなんて、ぜったいないもん!
「じゃあ特別?」
「とっ……!」
レイくんはにやにや笑って、コハクくんのほうをちらりと見る。
その瞬間、コハクくんのしっぽがぴくっと動いた。
もしかして、怒ってる……?
どきどきしていると、レイくんがさらにコハクくんをからかう。
「あっ! もしかして怒った? あはは、やっぱコハクってめっちゃ分かりやすいなー」
「……おい、レイ」
わたしがとまどっていると、アサヒくんが静かに口を開いた。
「さすがに言いすぎだ」
「はーい。ごめんなさーい」
あれ、と思う。
(もしかしてアサヒくん、わたしのことかばってくれた……?)
「あ、あの……アサヒくん。ありがとう」
控えめにお礼を言ってみると、アサヒくんは一度目をそらしてから、ちらりとわたしを見た。
「……べつに。勘違いすんな」
アサヒくんはぽつりと言う。
(アサヒくんってほんとうは、とってもやさしい男の子なのかも……)
冷たいと思っていたけれど、今のひとことは、まるであたたかい毛布のようなやさしさを感じた。
(勝手にみんなのことを決めつけて距離を置いていたのは、わたしのほうだったのかもしれない)
「わたし、こうやってみんなと話せるの、なんだかちょっと夢みたい……」
ぽつりとこぼすと、マオくんがふわっと笑った。
「夢じゃないよ! 現実!」
その言葉に、わたしの胸がじんわり熱くなる。
わたし、ひとりだと思い込んでた。
わたしを受け入れてくれてたのは、コハクくんだけじゃなくて、ここにいるみんなも。
ひとりじゃないって、こんなに心強いんだ――。
(……もう少し、がんばってみようかな)
そう思いながら、わたしはバターがたっぷりついたパンをひとくち。
「……おいしい」
やっと、ちゃんと笑えた気がした。
ここは、にぎやかで、あたたかい場所。そして――わたしにとってとても大切な場所。
……に、なる予感がしていた。
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