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第3章
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しおりを挟む「ごめん、ぼーっとしてた」
「なにか悩みごと? お腹痛い? お腹減った? それならこれ食べて。美味しいよ」
「……じゃあ、焼きそばパンのほうがいい」
「おっと? 私のプリンあんまんはいらないだと?」
そんなこと言って、朝香が最近プリンあんまんに飽きてきていることを私は知っている。
「やみつきになるから、ほら~」
私は朝香が持っていたプリンあんまんじゃないほう――焼きそばパンに隙をついて齧りついた。
「あぁっ!! 私の焼きそばパンがっ!」
「ふふん。やっぱりこっちのが美味しいよ」
「ぬぉー! なんだとーっ! プリンあんまんに謝れ!」
「わっ! もう危ないってば~」
朝香とじゃれ合っていると、どこからかギターらしき音が聴こえてきた。
「……うち、軽音部なんてあったっけ?」
首を傾げていると、朝香が、
「あぁ、あれは文化祭ライブの練習じゃない?」
そういえば、昇降口前の掲示板に、体育館に出演する団体を募集するチラシが貼ってあったような。
「文化祭かぁ……」
ぎこちないギターの音色を聴きながら、私は腕をさする。
「ねぇ水波。今年は文化祭、出るでしょ?」
「えっ?」
「一緒に回らない?」
「あ……うん、考えてみる」
つい、間の抜けた返事をしてしまう。
「水波?」
「…………」
ふと、気が遠くなった。
さわさわと葉の擦れる音がして、私と朝香の間を風が吹き抜けていく。
『人殺し』
『あの子を返して』
『じぶんだけ助かるなんて』
『許せない』
『許せない』
『許せない!』
カーテンが揺れる。頭痛がひどくなり、目を瞑った。
『私の手を離したくせに』
ドクン、と心臓が脈を打った。
「水波?」
「……ごめん。窓、閉めていいかな?」
「え? でも、暑くない? みんなも暑そうにしてるし……」
私は朝香の言葉を無視して、窓をぴしゃりと閉めた。思いの外、大きな音が出てしまった。
「水波……? どうしたの?」
「……なにが? 私はただ、寒かったから閉めただけだよ」
ちょっとキツい言い方になってしまった。言ってからハッとして朝香を見ると、彼女は俯いていた。その悲しそうな顔に、胸がちりりとした。
「あの……ごめん。ごめんね、朝香」
「ううん……」
朝香に苛立ったわけじゃない。
ただ、この季節はどうしても、気分が沈む。
秋は嫌いだ。事故が起こった、夏よりも。
あの日を……事故のあと、目が覚めた日のことを思い出すから。
でも、そんなことを知らない朝香は、私が苛立った意味をきっと探している。自分がなにか気に触るようなことを言ってしまったのかもしれないと、気にしている。
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