悪役女王、役を全うしようとしてるのに溺愛されてます 〜鏡よ鏡、ちょっと黙ってくれないか?〜

うまうま

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2.ちょっと変態!? 白雪姫!

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井戸の水は朝陽に照らされて、きらきら光っていた。

その隣で、可憐な少女が今日も真面目に雑巾がけをしている。


――白雪姫。


この物語の主役にして、私の継子ままこ
黒曜石みたいな髪に、雪のように白い肌。

さらに動物と話せて料理もできる、チートスキルのフルセット。



「……今日も可愛らしいわねえ。絵に描いたようなお姫様だわ」



私は庭園の木陰に隠れてその姿を眺めていた。

み、見惚みとれてなんかいないわ。
これは進行確認。
悪役として当然の職務よ。


姫は鳩に話しかけながら、にこにこと井戸を磨いていた。



「おはよう鳩さん。今日もとってもいい日ね」
「鹿さんもおはよう! 昨日もお義母さまがずっと見守っててくださったから、きっと今日もいい日になるわ!
あ、なんなら今も来てるかも!」



……バレてたのかい。

私が慌てて帰ろうとした、そのとき。



「――あっ! お義母さまっ!」



……見つかった。



「ちょっと、来ないで! 私は怖い継母なのよ!」



ドタドタドタ、とエネルギッシュに全力ダッシュしてくる姫。

全力の笑顔。
ボロ服なのに神々しさすら感じるレベルだ。



そして、バグった距離感――




「お義母さま……どうしていつも、冷たいふりをなさるのです?」

「ふ、ふりとは何のことかしら?」



姫の顔がぐっと近づく。
鼻が触れそうな距離。
くりくりおめめが潤んでる。

なんだこのキラキラギャルゲーイベントは。



「わたくし、知っておりますわ。
お義母さまが毎朝、こっそりわたくしを見に来てくださっていること……!」

「いや違うの、見張りよ! ただの監視カメラよ!」

「こっそり破れた服を縫ってくださったり、わたくしのドレスが皺にならないよう手入れしてくださったり、
料理人に私の好物を作らせたり……」



……嘘でしょ。全部バレてんのかい。



「わたくし、そんなお義母さまが……っ、好きで好きで……!」

「うおおおお!? ストーップ!! それ以上は物語がぶっ壊れるからやめなさいっ」



姫は聞いていないのか、うっとりした顔で私を見つめる。
そしてさっきからしれっと私の乳を揉むな……



「ああ……お義母さまのクールなお声……耳が蕩けそうですわ」



……この子、台本無視にもほどがあるわよね!?


私は必死に引きはがそうとするも、姫の腕力、地味に強い。



「ああ……今日もたわわが愛おしいですわぁ……」



こんなにかわいいのに、目だけが爛々と光って……瞳孔開いてる?



「ねえ、姫。そろそろ揉むのはやめてもらっていいかしら?」

「はあぁん……この弾力と質量……たまらないのですわぁ……」



聞いてないし。
そして引き剥がせない!
やっぱりこの子、力強い!



すると、そこに。



「ヒルデ女王さま~~~!!!」



バァン!

と豪快な効果音とともに、空気を読まない声が庭園に響き渡った。



「うっわ……また来やがった……」



プリンセスモードから一転、姫が心底うんざり顔でつぶやいた。


バサバサと金ぴかのマントをなびかせて現れたのは、隣国の王子様(自称)。
しかも壁を乗り越えて侵入してきた。

見た目はバラに囲まれた肖像画、でも中身は中二病の極み。



「今日こそ愛を受け入れてください、ヒルデ女王ッッッ!!
我が魂はあなたに囚われ、心は女王仕様に最適化されたのだッ!!」



……なにその変なOSみたいな口説き文句。



「ちっ。お前、もう来んなよ。毎日毎日ヒマかよ、粗チン野郎」



姫がサラッと暴言を吐く。
純真無垢設定どこいったの。


王子は姫の塩対応など気にも留めず、




「そこをどいてくれ、姫。お姫様だからって無条件に愛されると思ったら大間違いだ。
……あと、見てもないのに粗チン認定しないでくれるか」



ツカツカと私の前まで来ると、キラキラした目で片膝をついた。

そのまま(乳を揉まれ続けてる)私の手を取り、甲に唇を寄せる。



「真のヒロインはあなたです。
圧倒的美貌、貫禄、そしてこのツンの中に秘めたデレ……もう最高。ヒルデさまはこの世でいちばん――」

「待てこら」



私は素早く手を引っ込め、奴の額を指でピンッと弾いた。



「って!」

「毎回言うけどね、私は"悪い女王"。この物語では悪役なのよ」

「知ってますとも!
でも、ヒルデ様が冷たいふりしてみんなのこと見守ってるの、バレバレです……!
僕もずっと監視カメラで見守ってましたから! あなたのこと!」

「……お前はどこにカメラを仕込んだ。寒気がするからさっさと台本に戻りなさい」

「僕らの愛は、台本という無粋なものに縛られたりしないんですッ!」

「黙りなさい小僧こぞう。物語のすじは守るべきよ」

「その筋、今めちゃくちゃ曲がってません? 主に姫の言動のせいで!
……毎度毎度、女王さまを揉んでうらやましいッ!!」

「それは否めない…ッ(お前も大概だけど)」



気が付くと、姫が隣で大の字に寝そべって「くっそ……また王子ポジ奪われたし……」と鼻をほじっていた。




もう、何なのこの世界……。
誰かが裏でコード書き換えてるの?





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