星に溺れるカーテンコール 〜これは愛か執着か? 今宵もきみに溺れる~

うまうま

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1.『星に溺れるカーテンコール』

反撃

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「ねえ監督。次の舞台の演出案、決まった?」  

情事の後、
ソファにだらりと
横たわるルシファーが、
金の髪を掻き上げ尋ねる。

「ああ、決まっている。今度もお前のための舞台だ」  

俺が応えると、
潤った唇が小さく歪んだ。

「俺のため……本当に?」

含みのある問いかけは、
俺の胸を熱くし、苛立たせる。

「綺羅星のお前をどう輝かせるか。監督おれが考えることはそれだけだからな」  

平静を装い、
俺は机の上に置かれた
演出プランのファイルを軽く叩く。
興味を示して
近づいてくることを期待したが、
やつは何故かゆっくりと
俺の背後へ回り込んだ。  

「Ha! Tu es vraiment un malade.(ハ!あんたってほんとに面白いよね)」
 
首筋に熱い息が触れる。
思わず躰が固まる。

「俺のために生きてるみたいでさ。本当は役者として舞台を続けたかったろうに」  

天使が歌うような声に、
薄ら笑いが混じる。



いらだって振り返ろうとする俺の肩に、
やつの手が触れる。

触れるだけで、
俺の全てを支配するような
その温度――

「本当に、お前は……」  

言葉に詰まった瞬間、
ルシファーの手が
俺の胸に滑り込み、
ネクタイの結び目を軽く引いた。  

「"Mon cher"(俺の愛しい人)……
舞台裏でこんなことしてるのに、舞台上まで俺を支配したいの? 今回の相手役、わざわざあんたの名前にするなんてさ」

毒のように甘い声が
鼓膜を撫でる。
俺の本能をくすぐりながら
欲望を煽っていく。

俺はわざとらしく息を吐き、
肩をすくめた。

「お前の相手役が務まるのは俺くらいだ。しかし、俺は役者より監督向きの身だからな」

俺は必死で涼しい顔を装うが、
ルシファーは心の内を
すでに見透かしている。  

「ふーん、そう⋯⋯」  

細い指先が俺の顎を
軽く持ち上げる。
挑発の色に光る瞳が
こちらを見下ろしている。  



「だったら監督として、俺のすべてを舞台にしてみせてよ。
あんたがどれだけ俺を愛してるのか、みんなの前で証明してみせて?」  
「……それが、お前の望みか」  
「さあ、どうだろうね?」  

やつは微笑む。
俺の執着を手玉に取るように。

――素直じゃないな。
心の底では
愛を渇望しているくせに。

俺はこの堕天使のような
笑みをたたえる頰を
そっと掴んだ。


「そこまで言うなら演ってやるよ。秀才監督シリウスが金の星に溺れていくシナリオを。
……嫌でもお前が愛を信じる舞台をな」

振り向きざま、
華奢な体を一気に抱え上げる。
抵抗する間も与えず、
俺の膝上へと引きずり出す。

金の髪を鷲掴わしづかみ、
間近に引き寄せた。

「もちろんお前は本人役だ。
舞台上で俺に抱かれて乱れればいい。観客全員に、その淫蕩いんとうな本性を晒してな」

金の髪が揺れ、
紅い瞳が少し驚いたように
見開かれる。

だがその瞳には
この状況を愉しむような
色がにじんでいた。

「シリウス監督、役者復帰だね⋯⋯」

淫靡な微笑みが俺を囚える。
その笑みは、
天を追われた堕天使そのものだった。

「…Sei davvero un diavolo…"mio caro"(この魔性め……俺の愛しいやつ).」

ひときわ輝く金星が
堕ちていく――
それをこの手で演出し、
民衆へ見せつける日が待ち遠しい。
 
堕ちゆく星の物語を、
俺達はつむいでいく。
彼もまだ知らない、
その結末まで――。




『星に溺れるカーテンコール』おわり
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