星に溺れるカーテンコール 〜これは愛か執着か? 今宵もきみに溺れる~

うまうま

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『2.星に溺れるカーテンコール 〜宵闇プロミネンス』

開幕

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***

ついにやってきた、
公演初日。
いつも通り、
客席は満員御礼だ。 

劇は、元役者の男が
一人の天才役者に
心奪われるシーンから始まる。

その恋はやがて
拗れた執着となり、
彼のすべてを奪っていくという
ストーリーだ。  

いつもと違いすぎる毛色、
しかもたったふたりの会話劇
という斬新な前情報に、
ひしめき合う観客たちは
期待と不安が入り混じっていた。



舞台の照明が
ルシファーの声とともに
点灯する。

『あんたってほんと、俺のために生きてるみたいだよね』

明星のような金の髪、
妖しげな紅の瞳。
彼は小悪魔の如く、
一人の男を挑発し続ける。

『俺はあんたのすべてだって? なら、証明してみせてよ』

挑発される男は、
振り回されてばかりでなく、
この金の星をどうにか
手中へ収めようと反撃する。

『今ここで証明すれば……お前は俺のものになるのか?』
  
ふたりの劇には、
終始危うい緊張感が
走り続けている。

そこで、観客は気付いた。
その"演技"は、
セリフや視線、仕草が
妙に"本物"じみているのだ――  

『さあね。けどあんたは俺を堕とすことなんてできないよ。どんなに愛してるって叫んだって……その心は空っぽだ』
『ならば、お前のすべてを奪ってやる。この腕の中で逃れられないほどに』

そのセリフと同時に、
シリウスはルシファーを 
舞台中央へ押し倒す。

客席が一斉にどよめいた――


  
ルシファーの
美しい横顔に影が落ち、
紅い瞳がシリウスを睨む。

いつも挑発的な
光を宿すその瞳――
今そのひとみは、
どこか切なげに揺れていた。

観客には見えない角度で、
シリウスが微かに囁く。   

「どうした? ここで逃げるならやめてやる」
「逃げる? ⋯⋯Merde,誰がそんなことするもんか」  

挑発するように
微笑み返すルシファーだが、
その頬は薄く赤らんでいた。
 
舞台上、
ふたりが見つめ合う瞬間が
頂点を迎える。

観客も裏方も、
この空間にいる全員が
固唾を呑んで見守っている。   

シリウスが
ルシファーの唇に触れた。

静寂が支配する中、
それは
演技なのか本心なのか、
誰にも判断できなかった。  

『本当の俺なんて知らないくせに……でも、もしあんたがそれを暴いてくれるなら……』 

彼は目を潤ませながら、
頰を撫でるシリウスの手へ
己のそれを重ねた。

その演技――
いや、心からの懇願こんがんが観客の胸をつらぬいた。  

『骨の髄まで暴いてやる。そしてお前の心と体へ、俺という消えない証を刻み付けるんだ』

舞台は最高潮に達し、
ふたりの息遣いが観客席にまで響く。

激しいキスの余韻が
会場全体に漂う中、
ルシファーは小さく笑った。

「最後はお得意の『純潔な幕引き』なんだろ? 監督様」

彼は軽くシリウスの
胸元を押し返そうとするが、
その手が強く掴まれる。


「何を勘違いしている? まだ終わりじゃないぞ。お前の台本にはない続きがある」

シリウスの声は低く、鋭い。
その瞬間、彼の大きな手が
ルシファーの腰を強引に引き寄せた。

観客のざわめきが
一瞬にして消える。
舞台上での動きに、
誰もが息を呑む。

「ここからが本番だ」

シリウスが
ルシファーの耳元で囁くと同時に、
劇場全体が変容した。

照明が切り替わり、
朝焼けのような真っ赤な光が
舞台を包む。
ふたりは真っ黒な
シルエットと化した。

天井から
細い金の光が降り注ぎ、
時折ふたりを
妖艶に照らしている。

まるで現実が
舞台の中に飲み込まれたような
妖しい美しさだった。

「……おい、シリウス?」

ルシファーの顔には、
珍しく困惑が浮かぶ。
しかしシリウスは構わず
彼の腰を抱きかかえた。

そしてあろうことか、
ルシファーの衣装の中へ
手を滑り込ませた。


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