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『2.星に溺れるカーテンコール 〜宵闇プロミネンス』
幕が下りたあと
しおりを挟む舞台裏に戻った瞬間、
ルシファーが無造作に
シリウスの腕を掴んだ。
「……俺の台本に、あんな演出無かった⋯⋯っ」
「宣言したろう。お前には演技では済まないと」
「……ッ、あんなのっ、反則だろっ」
まだ熱の冷めぬ
潤んだ瞳で、
一番星は訴える。
しかしシリウスの
天狼のようなまなざしは
実に愉しげだった。
「お前の望みは叶えたぞ、綺羅星様。みんなの前で証明した」
気高き天狼は勝ち誇った顔で、
上気したルシファーの頰を
そっとなでた。
「まだ足りないか? それなら、観客や裏方一人一人に確かめてみるか。俺がどんなにお前を愛し、お前はどんなに乱れていたか」
ルシファーはシリウスの
厚い胸板を拳で叩く。
舞台裏の狭い空間は、
静寂と熱気に満ちていた。
しかし幕の外では、
響く観客の拍手は収まらない。
シリウスは
舞台用のライトに照らされ
赤らんだルシファーの顔を
じっと見下ろしていた。
彼は荒い息をつきながらも、
悔しげに口を開く。
「……本当に、舞台上でするなんて⋯」
「それも宣言通りだろ。
……それに本番前、舞台裏でさんざん"本番"をしたからな。スムーズに入った」
一番星が火星のように
燃える顔で睨み付ける。
シリウスはふっと笑い、
ルシファーの顎に手を添える。
そのまま無造作に顔を近づけ、
また耳元で囁く。
「誂ってた玩具に反撃された気分はどうだ? お星様」
「っ、あんたはっ……!」
声が詰まり、
ルシファーは視線を逸らす。
しかしその耳元が
赤く染まっているのを
見逃すシリウスではない。
彼はその耳元へ
唇を寄せ、低く囁いた。
「何度でも言う。お前は、特別だ」
そう言いながら、
シリウスは彼の細い腰へ
手を回した。
「どんなお前も、俺には一番星だ」
一番星は
その言葉に息を呑むが、
すぐにシリウスを挑発的に
睨み返した。
いつもの
小悪魔のような
挑発的な微笑みが戻る。
「……ああ、その通りだよ。気高き天狼様」
熱に浮かされたように、
ルシファーは自ら
シリウスの襟を掴み引き寄せた。
唇が重なり合う。
先の舞台上より甘く、
けれど本能的で激しいキスだった。
彼らの間にあふれる熱が、
ふたりだけの
宇宙を創っていた。
「……がっつくなよ、監督様。いくら俺が魅力的だからってさ」
ルシファーが小さく笑い、
シリウスの胸板を
押しながら挑発する。
「自己理解できてるじゃないか」
シリウスは
低い声で答えると、
その手をさらに強く
ルシファーの腰に回した。
再び唇を重ね、
ふたりの影は
明かりに揺れて絡み合う。
その熱を帯びた
呼吸音が、舞台裏の
薄暗い空間に響き渡る。
しかし、その時――
遠くから足音が聞こえた。
「ルシファー! シリウス監督!
もうすぐカーテンコールですよー!」
裏方の声が、
ふたりを現実へと引き戻す。
ルシファーは
名残おしそうに
シリウスを睨みながら身を引く。
「……つづきは、終演後ってことにしようか」
彼は小さく笑いながら
シリウスに背を向け、
カーテンコールへと向かう。
シリウスは
しばしその背中を
見つめた後、
軽やかにそのあとへ続いた。
「明日の公演も楽しみだ。次はどんな体位を披露しようか。
ああ、遂にお前はポルノスターになってしまうな」
ルシファーは
小さく振り返り、
挑発的に舌先を覗かせた。
明日も、満員御礼だ。
『星に溺れるカーテンコール ~宵闇プロミネンス~』おわり
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