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『9.星の子たち〜子役時代〜』
忍び寄る影
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「俺の演技どうだった? シリウス監督」
大人ルシファーが
光る汗を拭いながら声をかけてくる。
俺は台本を閉じ、
少し笑ってみせた。
「いつも以上に素晴らしかった。昔から変わらないな。⋯⋯次のシーンも頼むぞ、主役」
「おう、任せろ!」
俺の中の少年がまた叫んでいる。
こいつの輝きをもっと見たい、
オレが輝かせたい、と――
***
俺が演出家、舞台監督として指揮を取り、
皆で稽古を重ね臨んだ、
新舞台の公演初日。
公演を終えた後の夜風は、
いつだって冷たい。
けど今夜は、
それ以上に肌寒さを覚えた。
緊張の余韻か、疲労のせいか――
いや、違う。
理由は背後に立つ男が放つオーラだった。
「……シリウス」
名を呼ばれた瞬間、
全身の血が凍った。
その声は、かつて――
いや、未だに俺が
恐れている者の声だった。
「⋯⋯⋯父、さん」
暗がりの中、杖をついた男が立っていた。
プロキオン――俺の父。
凍てついた星のような鋭い眼光が、まっすぐ俺を射抜く。
息が詰まり、全身に冷や汗が滲む。
この人の前では、どうしても子役時代に時間が巻き戻る。
どれだけ努力しても「まだ足りぬ」と突き放されたあの頃へ。
「久しぶりだな。舞台には立たなくなっても、お前の評判くらいは耳にする」
「……それは、どうも」
声は乾き、手足が金縛りに遭ったように動かない。
隣のルシファーが俺を振り返る。
紅い瞳が「大丈夫か?」と問いかけていた。
「ルシファー君も久しぶりだね。お元気そうで何よりだ」
父の視線がルシファーに向けられる。
俺には決して向けられなかった尊敬の光が、そこにあった。
「今日の演技も相変わらず見事だったよ。以前よりも一層輝いているな、君は。まさに天才というほかない。⋯⋯それに比べ、うちの息子は」
胸の奥で、脆い壁が軋む。
幼い頃から幾度となく浴びせられた言葉。何度聞いても、慣れることなどできなかった――
「何も変わらないな。君の影に隠れるのが精一杯のようだ」
視界がじんわりと霞む。
悔しさが押し寄せる。
そのとき、隣からそよ風が歌うような声がした。
「お久しぶりです、プロキオンさん。貴方のような方からお褒めに預かり、至極光栄です」
ルシファーが一歩前へ出る。
微笑は柔らかい。
けれど紅い瞳は、燃え盛る彗星のように煌めいていた。
「でも、プロキオンさん」
微笑を保ったまま、一拍置く。
空気が張り詰める。
「俺にとって、シリウスはただの相棒じゃありません。彼がいなかったら、俺はきっとここまでこれなかった」
絶対的な自信と確信を宿した紅い瞳が、父を正面から捉える。
「俺が主演賞を取った『ピノッキオ』、覚えていますか?」
父の目が僅かに見開かれる。
「あの作品で、俺は子役から脱皮し、大人の役者として世間に認められた。でも――シリウスの演出がなかったら、あの舞台は成立しなかった」
父の眉が動く。
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