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『10.届かぬ星のストーカー』
忍び寄る影
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「あんた、金玉何個ついてんだよ……っ」
息を整えながら、
のしかかる絶倫野郎をねめつける。
昨夜もあれだけ
執拗に攻めてきたくせに、
今日も朝から全開フルスロットル。
本当、何食ったら
そんなに元気になれるんだ。
「二つだが」
涼しい顔で受け流しながら、
シリウスはさらに腰を押しつけてきた。
「あッ、やめろ……っ! 昨日もだいぶ無理したんだから、今日は休ませろっての!」
「珍しいな。お前が弱音を吐くなんて」
くすりと笑いながら、
シリウスは俺の髪を撫でる。
その仕草が妙に優しくて腹が立つ。
「絶倫野郎のおかげで寝不足なんだ! ……なんか、キモいファンレターが届いてから、あんた元気すぎない? 俺にマーキングでもしてるの?」
シリウスの表情が一瞬曇る。
だが、すぐにいつもの涼しげな顔に戻り、
頬に軽く唇を押し当てた。
「マーキングか……悪くない。少しは自衛にもなるだろう」
「足腰立たなくされたら自衛もできないだろ! ……っ、や、ちょっ……Ahh…」
また俺をベッドに縫い付けるシリウス。
――その後、何ラウンドか強制的に付き合わされ、
ようやく朝の運動会は終息した。
**
シャワーを浴びた後、
ぐったりしながらリビングで
ハーブティーを啜る。
「俺、そろそろ帰る」
「ん? 今日は泊まらないのか?」
「郵便物、溜まってるだろうし。さすがに確認しないと」
シリウスの視線が鋭くなる。
「……一人で大丈夫か?」
「大丈夫。家は知られてないし」
ファンレターが届いてたのは楽屋だけ。
劇場を出れば問題ない。
俺は軽く別れを告げ、
シリウスの家を後にした。
自宅に戻ると、
郵便受けは案の定ぎゅうぎゅうだった。
郵送物をひとまとめにして
玄関に入り、整理を始める。
そして、目に飛び込んだのは――。
湿った手触り。
不快な甘ったるい香り。
「……嘘、だろ……」
心臓が跳ね上がる。
間違いない。楽屋に届いていた、
あのファンレターだ。
慌てて手袋をはめ、
浅い呼吸を繰り返しながら封を開ける。
中を見た瞬間、
強烈な吐き気が込み上げた。
「……なんだ、これ」
透明なジップロックに
押し込まれた、使用済みのコンドーム。
それに付着した液体を思わせる、
鼻をつく嫌な匂い。
それだけじゃない。
俺がSNSに上げた自撮り写真が印刷され、
そこに白濁した液体がぶちまけられていた。
「っ……!」
冗談だろ……家まで、特定されてた……?
ふるえる指先で、
同封された怪文書に目をやる。
『愛しきルシファー様。
夕べの夢で、あなたの香りを思い出しました。
ああ、あの淫靡な香り。それを嗅ぐたび、心が千切れそうになる。
私は一体どれほどあなたを求めているのでしょう。
どうか、どうか、私を見てください。
あなたを、そしてあなたが触れたものすべてを、この手に抱きたい』
紙面ににじむシミが、
一層その気持ち悪さを際立たせる。
やばい、寒気が止まらない――
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