告白1秒前

@るむば√¼

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救世主ー2ー

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「ミヤ、やっぱ俺にせんか?」

「それってどういう」

「俺が彼氏じゃダメなん?」

そんなにいきなり…
ミヤの胸がギュッと締め付けられる。

「……優一…」

「自分の彼女がいじめられてることも気付かんような彼氏より、俺はミヤが好きや。」

「……優一、私、」

言葉が出かかっているのに上手く発せない。
泣きそうで優一の背中に顔をうづくませた。

「ミヤ?」

「優一、私、本当に…本当に…嬉しかった…いじめ……られてるって…気付いてくれて…」

「うん」

「肩の力が…抜けたような感じがして…」

「うん」

「でも…でもね、優一に好きだって言われる度………」

ミヤはまたつっかえた。
言わなきゃ。
曖昧な答えをする方が相手を傷つける。
ちゃんと言わなきゃ。

「ちゃんと最後まで言うんや」

「……優一に好きだって言われる度、…流星のことを思い出すの。会いたくなるの…。」

「……」

「…ごめん、」

「…いや、謝ることやない。人の気持ちはコントロール出来んからな。」

「…」

「でも、俺諦めへんから。せやから、頭のどこでもええから、俺のこと置いといてくれへん?」

「うん」

「辛くなったらいつでも俺のとこ来てや」

「で、でもそれじゃ、優一を利用してるみたいで」

「ミヤになら利用されてもええよ。ミヤにとって都合のええ男になるわ。」

「そんな安売りしたらダメだよ。優一、仏みたいに優しいんだから。」

「安売りなんかしてへん。ミヤだけやから。」

「本当にありがとう。こんな私を。」

「水臭いわ。もうすぐみんなのとこ着くで。」

優一にそう言われ見ると、明かりが点々とついていて、自分と同じジャージを着た集団を確認出来た。
一気にほっとしたミヤはそのまま優一の背中で寝てしまった。

どれくらい時間が経っただろうか。
今夜やるはずだった肝試しはミヤが寝ている間に終わっていて、今は夜中の2時。

変な時間に寝たから起きちゃった。
もう全然眠くないな。

ミヤはむくっと起き上がり、みんなが寝ている部屋を後にした。
足音を立てないように廊下を進む。
ミヤ以外いないかのように宿舎全体は静まり返っていた。

なので自然と意識が自分に向く。
ここに来てからなんだか疲れることばかりな気がする。

ぼんやりとそんなことを考えながらミヤは洗面台の前に立ち、鏡に映る自分を見つめた。
鏡には浮かない顔をした自分が映っている。
ミヤはそんな自分を見ていられず、洗面台に手を突き俯いた。

こんなの、こんなの私じゃない。
どうしたらいいんだろ。
周りを傷つけまくっている自分が嫌だ。
もういっそのこと…

ふと、もう一度鏡を見ると、後ろに流星が立っていた。
ミヤは素早く振り返る。

「流星…」

「ミヤも起きてたんだ」

「うん、起きちゃって」

「藤山が迷子になったって勘違いするなんて、ミヤはおっちょこちょいだな」

「え、勘違いって…?」

「でも、その勘違いを他の女子のせいにするのはミヤらしくないぞ」

「どういうこと?ごめん、理解が追いつかない」

「だから、藤山が山で遭難したって勘違いしたのを、他の女子に藤山が遭難したっていうデマ流されたってみんなに言ったんだろ?自分のミスを人のせいにするのはらしくないなって」

「なにそれ、私が知ってる話と何もかも違う。」

「え?」

「なんで、私を信じてくれないの!」
ミヤはいきなり大きな声でそう言った。
流星は驚いた顔でミヤを見つめる。

ちょっと、私何言ってるの
こんなに怒ることじゃないじゃん。
流星が勘違いしてるだけで

心ではそう思っていても体がいうことを聞いてくれない。
ミヤの口はミヤの意志に反して動き続ける。

「いつも、私が本当に辛い時は一緒にいてくれない、気付いてくれない!もう無理。辛い。」

止まって、お願い、止まって

「こんなことなら」

やめて、言わないで

「付き合わなければ良かった」

ミヤはその瞬間自分の中に2つ人格があるのではないかという恐怖に襲われた。

ミヤはボロボロと涙を流しながら声にならない声で
「ごめんなさい」

と言い続ける。

流星は暗い顔をして何も言葉を発さない。
もう終わりだ。
何もかも。

ミヤはその場から逃げ出した。
流星への気持ちや思い出を全て置いて。

ーーーーーーーーーーーーーーー
林間学校3日目。最終日。
ミヤは流星との出来事以来、流星に言ってしまったことの後悔と自分を信じてくれなかった流星へのほんの少しの怒りがしつこい油汚れのように頭にこびりついて離れず、一睡も出来なかった。
寝ているみんなに気付かれないように、鼻をすする音を立てないように静かに永遠と泣いていた。
そのせいでミヤの瞼は腫れ、みんなに気付かれないようにした努力は水の泡になってしまった。

「ミヤ、昨日泣いた?」

早速詩音に気付かれた。
ミヤは事実を覆い隠そうと、腫れ上がった瞼に無理矢理作った笑顔を上書きした。

「泣いてないよ?虫に刺されたのかな。」

「そ、そっか。」

「うん!集合するんだよね?早く行こ!」

「うん」

ミヤ達は急いで支度し、部屋を後にした。

今日は夕方まで自由に長野を観光する。
皆が1番楽しみにしていた時間だ。
この時間で告白したりするのが毎年の恒例らしい。

集合し、先生から注意事項を聞いたあとはもう私達の時間だ。
皆友達やら恋人やらと自由にグループを作って出発して行く。
長い時間観光しようとみんな大急ぎだ。
ミヤはずっとぼーっとしていたがいつの間にか周りには詩音と優一がいた。

「ミヤ!行こ!」

「あ、うん」

「あれ、流星は?」
詩音は辺りを見回す。
ミヤも一緒になって流星を探した。

あ、いた。
しかし、流星のことは見つけたがまるで彼女のように流星の隣に立つあのリーダー格の女子の姿があった。
しかも流星はそれを自然な感じで受け入れ、楽しそうに話までしていた。

「ちょっと、なにあれ」

「わかんない。」

「あの女子、ミヤにデマ流したやつやないか」

「ミヤ!取り戻さないと!」

なんでよ…
昨日の今日でなんでそんなのうのうと他の女子と話が出来るの?
よりによってリーダー格と…
あーだめだ。
こんな私醜すぎる。

「いーよ。3人で行こう」

「え、」

ミヤはその場からそそくさと去っていった。
それに続いて詩音、優一も続く。

「本当に良かったん?」

「うん」

「あんな女、ミヤが本気出したら吹っ飛ばせるでしょ?」

「吹っ飛ばせないよ。」

「っていうか流星も流星やんな」

「どうなんだろうね。よくわかんないや」

「……じゃあさ、もう忘れて楽しもう!」

「え?」

「問題は後!せっかくの林間学校だよ!最後ぐらい楽しまなきゃ損だよ!」

「うん、そうだよね」

「せやな!」

「ほら!行くよ!」

詩音はそう言いながらミヤの腕をつかみ走り出した。

「ちょっと、詩音!」

ミヤに自然と笑顔が戻る。
その様子をみた優一も嬉しそうに2人について行った。

ーーーーーーーーーーーーーーー
その頃。

流星と流星の男友達に混ざり、リーダー格の女子、早川凪沙も流星と行動を共にしていた。

「てか、早川なんでここ来たの?」

「えーっと、こ、この中にぃ、好きな人がいてぇ」
渾身の上目遣いで凪沙は言った。

「は、まじ?!」
流星と流星の男友達は凪沙の言葉に食い付く。
その男子達、特に流星のリアクションをみて、凪沙はニヤリとし、更に匂わせ発言を連発する。

「身長が割と高くて、」
そう言いながら、男子達のほとんどが170cm越えで身長はほぼ同じである。

それを聞いた男子達の期待値がぐっと上がった。

「他のヒントは?」
すると気になってきたのか流星がそう、凪沙に問いかけた。
凪沙は更に調子よく、上目遣いをしながら

「ん~~ないしょっ!」

と、ために溜めて口の前で人差し指を作ってみせた。
男子達はその仕草に内心ドキッとしながらなんだよ~と平然を装った。

「じゃあ!木原くんにだけ、教えてあげる!」

「まじで?」

「うん!」

「木原いいなぁ」
流星は男子達からの羨ましいという視線を向けられる。

「なんで俺?」

「いいから、いいから!耳貸して!」

そう言いながら凪沙は流星の肩をポンポンと叩く。
そして、流星の耳元にぐっと顔を近づけて、

「好きな人は、木原くん!」

と囁いた。
それを聞いた流星は少しの間フリーズする。

「え、えまじ?」

突然のこと過ぎて受け止められない流星はキョトンとしている。

「気付いてなかった?鈍感なんだね!」

凪沙は面白そうに流星の腕をつんつんとつついた。

「え、まさか、」
周りの男子達が何か勘づいたように凪沙に視線を送る。

「みんな気付いちゃった?そうです!私の好きな人は木原くんでしたー!」

「まじかよ!」

「木原くん!」

「何?」

「私とお付き合いしてください!」

凪沙は甘い声で流星にそう言った。

「あ、えっと…」

「ハイハイハイハイそこまでー!!!!」

突然何者かが流星と凪沙の間に割って入った。

「り、りみ?!」

流星と凪沙の間に割って入ったのはりみだった。

「なんでここに?」

「はぁ?こっちが聞きたいんだけど、なんでミヤ以外の女と観光してるわけ?」

「いや、それは」

「まあいいや。1番タチ悪いのはあんたよ」

そういいながらりみは凪沙を鋭く指さした。

「な、なによ!」

「この匂わせ女子が。本命の流星以外にも色目使いやがって。」

「色目なんて使ってない!」

「はっ、よく言うわよ。
突然のこのグループの中に好きな人います宣言で男子達の注目を集め、身長高いなんてほとんどの男子に当てはまるクソみたいなヒントで男子達の期待値を上げ、散々焦らしてないしょっ!(上目遣い)。みんなが知りたがってるのにわざわざ本命の流星にしか教えず、突然離れてしまう寂しさを演出。からの、流星の肩を軽く叩く、つつくなどのさりげないボディータッチ。そして極めつけには自分の好きな人を全員に公開して告白。みんな見てるという断りずらい環境を作る。」

図星なのか凪沙は何も言わない。

「馬鹿な男なら騙せると思った?でも残念。女には全く効かないし、かえって地雷踏んだだけよ。ってかね、キャラ被ってんのよ!!」

りみは言いたいことは全て言ってやったと言わんばかりのドヤ顔を凪沙に向けた。

すると凪沙は

「騙して何が悪いのよ。私は何も悪いことしてない!」

とりみに訴えた。

「確かに、貴方は別に悪いことをした訳じゃないわ。ムカつくことはしたけど。でもね、詩音がハイキング中に遭難したってデマ流してミヤを陥れようとしたのは悪いことじゃない?」

「なんだよそれ!」

流星は険しい顔でりみを問いただす。

「今言った通りよ」

「何を根拠に!証拠はあるわけ?」

「証拠は…探せばあるかもしれないけどそんなものはどうでもいいわ。」

「は?」
凪沙は怪訝な顔でりみをみつめる。

「私は、流星がこの女とミヤ、どっちを信じるのか、このことしか重要じゃないと思ってる。まあ、流星が答えた方によっては流星をぶん殴るかもしれないけどね」

流星は夜のミヤとの会話を思い出す。
ミヤが俺に訴えていたのはこういうことだったんだ。
なのに俺はなんて酷い事を言ってしまったんだ。
全てに気付いた流星はミヤを探しに走り出した。

ーーーーーーーーーーーーーーー
同じ頃ミヤ達はアイスクリームを買い、ベンチで休憩していた。

「はぁ、疲れたー」

「せやな、でもお土産も人通り買えたんやし、あとは自由に観光するだけやね」

「これからどこ行こっか」

「ねー、調べよっか」

そう言いながらポケットから携帯を取り出そうとした詩音がいきなりお腹を抑え始めた。

「ちょっと待って、お腹痛いんだけど…」

「大丈夫?!冷えた?」

「そうかも…ちょっとトイレ行ってくる。ごめんね」

「急がなくてええよ!」

「ありがと…」

詩音は苦しそうにお腹を抑えながらトイレに向かって行った。
残されたミヤと優一の間に気まづい空気が漂う。
そんな中、先に口を開いたのはミヤだった。

「優一、付き合おう」

「え…?」

優一はその言葉を聞き、心底驚いたような顔をした。
嬉しくて、嬉しくて、頷きそうになる心をぐっと抑える。
固く目を閉じ、心を整理する。
瞼の裏にはミヤとの楽しい思い出、辛い、悲しい思い出、全ての思い出が浮かぶ。
優一はゆっくりと口を開いた。

「お、俺も、ミヤのことは大好きやよ」

「じゃあ、」

「でも、俺の事を好きなんて言うミヤは嫌いや!」

その瞬間、優一は自分の心が張り裂けそうになる痛みを感じたが、構わず口を動かし続ける。

「ミヤ!しっかりせえや!ミヤが本当に好きなのは誰や!俺じゃないやろ?誰や!」

「あ……」

「楽な方に流されちゃダメや。辛くても立ち向かわな、」

優一の言葉の一つ一つが重すぎる。
優一の気持ちが私の心に流れ込んでくる。
そうだ、負けちゃダメだ。
私が好きなのは………

流星、だ。

気付けば自分も優一も涙を流していたことに気付いた。

「流星…流星が好き!」

「そうやろ。はやく、流星のとこ行ってやり。」

「優一、」

「はやく行くんや!」
そう言い、優一はミヤの背中を優しく押した。
ミヤは一瞬優一と目を合わせ、流星を探しに走り出した。

そうだ。
私、忘れてた。
自分の気持ち。
流星のことが好きだって気持ち。
立ち向かわなきゃ。
優一は、私が都合が悪い時に付き合おうなんて言ったことについて少しも触れなかった。
こんな自己中な私を、少しも怒らなかった。
私、どれだけ優一の大きな優しさに助けられてるんだろう。
泣いてなんていられない。
優一の気持ちの分まで、追いかけなきゃ。




この3日間は絶対、私にとって、忘れられない3日間になる。




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