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第一章
全焼
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白い城壁が囲む美しいその城には、仲睦まじい王様と王妃様がいました。
心優しいお二人の間にはとても可愛らしいお姫様が生まれ、大層可愛がられて育ちました。
私は、そんな愛情をたくさん受けてすくすく大きくなった一国のお姫様。
が、暮らす平和で賑わっている城下町。
からほど遠い、さらに遠い、もっと遠いド田舎。
隣の家が離れて建てられている小さな農家村の住人だ。
そして、その一軒家は今まさに、目の前で燃え盛っていた。
リーラは燃え崩れていく自分の家をただ茫然と眺めていた。
その家の中には、リーラを育ててくれた祖父母がいたはずであり、おそらくもう助からない。
立ち尽くすリーラの周りで、数少ない農村の住人が水魔法で消火を試みている。
そして、消火を試みる若者の一人がリーラに叫んだ。
「そこにいたら邪魔なんだよ!!役立たずは端に寄っとけ!!」
その言葉はその言葉通りであり、決してリーラを思いやって言ったわけではない。
リーラはその場において、本当に邪魔だった。
彼女は消火を手伝うことが出来ないからだった。
鎮火が終わり、一軒家だった木材は黒焦げで跡形もなかった。
当然、燃えなかったものなどない。
すべて、何もかも、燃えてなくなった。
近寄ってきた若者は、先ほどリーラを邪魔だと叫んだ奴だ。
「おい、塵女。分かってるよな、ザザクラさんたちは亡くなった。つまり、お前をこの村に置いとく理由がなくなったってことだ。」
ザザクラというのは、祖父の名前だ。
リーラは物心つく前から、父方の祖父母の家で暮らしてきた。
母と父の顔など見たことがなかった。
「ザザクラさんたちも可哀想だよな。お前のような疫病神を引き取ったせいで、こんなことになったんだ。魔法を使えない異常者のお前のせいで、村の皆からもハブられてよ。」
リーラは生まれた頃から魔法が使えなかった。
赤子から大人まで皆等しく使えるはずの魔法を使えないことで、周りの皆はおぞましがった。
そして、そんなリーラを育てる祖父母まで村八分にされたのだ。
「これ以上この村を不幸にしないでくれ。この火災が他の畑に燃え移らなかったことが唯一の幸いだ。お前は俺等の知らない所でどうか、野垂れ死んでくれ。」
リーラは子供の頃からずっと、この若者に虐められてきた。
殴られて、蹴られて、罵られて。
それでも、この村に住み続けるためにはじっと耐えるしかなかった。
これ以上祖父母に迷惑をかけないためには、リーラがじっとしてさえすればなんとかなった。
そんな気に掛けなければいけなかった祖父母はもう、いない。
「おい、聞こえてねぇのか?さっさとこの村を出て行けって言ってんだよ!!!」
思いっきり腹めがけて蹴り上げられた足を掴んで引っ張り、その反動で顎に掌底打ちを食らわせた。
何が起こったか分からない若者は、地面に伏した。
「聞こえてるよ、うるさいな。言われなくても出てくよ、こんな村。」
リーラは初めてやり返した。
子供の頃から、何度も何度も何度もシミュレーションした一撃。
魔法が使えない代わりに、やれることはなんでもした。
水魔法が使えないから、毎日遠い川まで水を汲みに行った。
何十回も、運び続けた。
土魔法が使えないから、畑だって自分の手で耕した。
朝から晩まで、魔法ならあっという間の作業を地道にやり続けた。
勿論、こんなことくらいで最強の人間にはなれないし、リーラはただの普通の少女だ。
ただ、この村にいた魔法に頼りきりの若者よりも拳に重みがあった。
それだけだ。
「魔法使えば良かったのに。あんたは使えるんだからさ。」
そんなリーラの言葉は気絶している若者には聞こえない。
跡形もなく燃えた家から持ち出せるものなど無く、リーラは身一つで村を出た。
首にかけられたペンダントだけがリーラの私物だ。
「これ、売ったら金にならないかな。」
おそらく母親から受け取った唯一のものだというのに、彼女にとってそれは換金対象に過ぎなかった。
村を出てどこへ行くにしろ、金が必要だ。
魔法が使えない私ができる仕事ってなんだろう。
呆然とそんなことを考えながら何もない土の道を歩んでいく。
日々培ってきたそれなりの体力のおかげで朝から晩まで歩くことが出来た。
日が沈み、夜になると魔獣が増える。
好戦的な魔獣と出会ってしまうと、魔法が使えないリーラは一貫の終わりと言える。
せめて木の上で寝た方がマシだろうと、木に登れば景色が良く見えた。
月明りに照らされた果てしなく続く森。
これ、どこまで続いてるんだろう。
どこまで行けばいいんだろう。
リーラは木の幹に背を預け、その頬には一筋涙が伝った。
私はなんのために生きてるんだろう。
これからも、これまでのようにじっと耐えながら生きていかなきゃいけないのかな。
静かな夜の月は眩しいくらいに光っていて、それすらも鬱陶しく感じた。
心優しいお二人の間にはとても可愛らしいお姫様が生まれ、大層可愛がられて育ちました。
私は、そんな愛情をたくさん受けてすくすく大きくなった一国のお姫様。
が、暮らす平和で賑わっている城下町。
からほど遠い、さらに遠い、もっと遠いド田舎。
隣の家が離れて建てられている小さな農家村の住人だ。
そして、その一軒家は今まさに、目の前で燃え盛っていた。
リーラは燃え崩れていく自分の家をただ茫然と眺めていた。
その家の中には、リーラを育ててくれた祖父母がいたはずであり、おそらくもう助からない。
立ち尽くすリーラの周りで、数少ない農村の住人が水魔法で消火を試みている。
そして、消火を試みる若者の一人がリーラに叫んだ。
「そこにいたら邪魔なんだよ!!役立たずは端に寄っとけ!!」
その言葉はその言葉通りであり、決してリーラを思いやって言ったわけではない。
リーラはその場において、本当に邪魔だった。
彼女は消火を手伝うことが出来ないからだった。
鎮火が終わり、一軒家だった木材は黒焦げで跡形もなかった。
当然、燃えなかったものなどない。
すべて、何もかも、燃えてなくなった。
近寄ってきた若者は、先ほどリーラを邪魔だと叫んだ奴だ。
「おい、塵女。分かってるよな、ザザクラさんたちは亡くなった。つまり、お前をこの村に置いとく理由がなくなったってことだ。」
ザザクラというのは、祖父の名前だ。
リーラは物心つく前から、父方の祖父母の家で暮らしてきた。
母と父の顔など見たことがなかった。
「ザザクラさんたちも可哀想だよな。お前のような疫病神を引き取ったせいで、こんなことになったんだ。魔法を使えない異常者のお前のせいで、村の皆からもハブられてよ。」
リーラは生まれた頃から魔法が使えなかった。
赤子から大人まで皆等しく使えるはずの魔法を使えないことで、周りの皆はおぞましがった。
そして、そんなリーラを育てる祖父母まで村八分にされたのだ。
「これ以上この村を不幸にしないでくれ。この火災が他の畑に燃え移らなかったことが唯一の幸いだ。お前は俺等の知らない所でどうか、野垂れ死んでくれ。」
リーラは子供の頃からずっと、この若者に虐められてきた。
殴られて、蹴られて、罵られて。
それでも、この村に住み続けるためにはじっと耐えるしかなかった。
これ以上祖父母に迷惑をかけないためには、リーラがじっとしてさえすればなんとかなった。
そんな気に掛けなければいけなかった祖父母はもう、いない。
「おい、聞こえてねぇのか?さっさとこの村を出て行けって言ってんだよ!!!」
思いっきり腹めがけて蹴り上げられた足を掴んで引っ張り、その反動で顎に掌底打ちを食らわせた。
何が起こったか分からない若者は、地面に伏した。
「聞こえてるよ、うるさいな。言われなくても出てくよ、こんな村。」
リーラは初めてやり返した。
子供の頃から、何度も何度も何度もシミュレーションした一撃。
魔法が使えない代わりに、やれることはなんでもした。
水魔法が使えないから、毎日遠い川まで水を汲みに行った。
何十回も、運び続けた。
土魔法が使えないから、畑だって自分の手で耕した。
朝から晩まで、魔法ならあっという間の作業を地道にやり続けた。
勿論、こんなことくらいで最強の人間にはなれないし、リーラはただの普通の少女だ。
ただ、この村にいた魔法に頼りきりの若者よりも拳に重みがあった。
それだけだ。
「魔法使えば良かったのに。あんたは使えるんだからさ。」
そんなリーラの言葉は気絶している若者には聞こえない。
跡形もなく燃えた家から持ち出せるものなど無く、リーラは身一つで村を出た。
首にかけられたペンダントだけがリーラの私物だ。
「これ、売ったら金にならないかな。」
おそらく母親から受け取った唯一のものだというのに、彼女にとってそれは換金対象に過ぎなかった。
村を出てどこへ行くにしろ、金が必要だ。
魔法が使えない私ができる仕事ってなんだろう。
呆然とそんなことを考えながら何もない土の道を歩んでいく。
日々培ってきたそれなりの体力のおかげで朝から晩まで歩くことが出来た。
日が沈み、夜になると魔獣が増える。
好戦的な魔獣と出会ってしまうと、魔法が使えないリーラは一貫の終わりと言える。
せめて木の上で寝た方がマシだろうと、木に登れば景色が良く見えた。
月明りに照らされた果てしなく続く森。
これ、どこまで続いてるんだろう。
どこまで行けばいいんだろう。
リーラは木の幹に背を預け、その頬には一筋涙が伝った。
私はなんのために生きてるんだろう。
これからも、これまでのようにじっと耐えながら生きていかなきゃいけないのかな。
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