屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

文字の大きさ
1 / 16
第一章

全焼

しおりを挟む
白い城壁が囲む美しいその城には、仲睦まじい王様と王妃様がいました。
心優しいお二人の間にはとても可愛らしいお姫様が生まれ、大層可愛がられて育ちました。
私は、そんな愛情をたくさん受けてすくすく大きくなった一国のお姫様。

が、暮らす平和で賑わっている城下町。

からほど遠い、さらに遠い、もっと遠いド田舎。

隣の家が離れて建てられている小さな農家村の住人だ。
そして、その一軒家は今まさに、目の前で燃え盛っていた。

リーラは燃え崩れていく自分の家をただ茫然と眺めていた。
その家の中には、リーラを育ててくれた祖父母がいたはずであり、おそらくもう助からない。
立ち尽くすリーラの周りで、数少ない農村の住人が水魔法で消火を試みている。
そして、消火を試みる若者の一人がリーラに叫んだ。

「そこにいたら邪魔なんだよ!!役立たずは端に寄っとけ!!」

その言葉はその言葉通りであり、決してリーラを思いやって言ったわけではない。
リーラはその場において、本当に邪魔だった。
彼女は消火を手伝うことが出来ないからだった。


鎮火が終わり、一軒家だった木材は黒焦げで跡形もなかった。
当然、燃えなかったものなどない。
すべて、何もかも、燃えてなくなった。

近寄ってきた若者は、先ほどリーラを邪魔だと叫んだ奴だ。

「おい、塵女。分かってるよな、ザザクラさんたちは亡くなった。つまり、お前をこの村に置いとく理由がなくなったってことだ。」

ザザクラというのは、祖父の名前だ。
リーラは物心つく前から、父方の祖父母の家で暮らしてきた。
母と父の顔など見たことがなかった。

「ザザクラさんたちも可哀想だよな。お前のような疫病神を引き取ったせいで、こんなことになったんだ。魔法を使えない異常者のお前のせいで、村の皆からもハブられてよ。」

リーラは生まれた頃から魔法が使えなかった。
赤子から大人まで皆等しく使えるはずの魔法を使えないことで、周りの皆はおぞましがった。
そして、そんなリーラを育てる祖父母まで村八分にされたのだ。

「これ以上この村を不幸にしないでくれ。この火災が他の畑に燃え移らなかったことが唯一の幸いだ。お前は俺等の知らない所でどうか、野垂れ死んでくれ。」

リーラは子供の頃からずっと、この若者に虐められてきた。
殴られて、蹴られて、罵られて。
それでも、この村に住み続けるためにはじっと耐えるしかなかった。
これ以上祖父母に迷惑をかけないためには、リーラがじっとしてさえすればなんとかなった。
そんな気に掛けなければいけなかった祖父母はもう、いない。

「おい、聞こえてねぇのか?さっさとこの村を出て行けって言ってんだよ!!!」

思いっきり腹めがけて蹴り上げられた足を掴んで引っ張り、その反動で顎に掌底打ちを食らわせた。
何が起こったか分からない若者は、地面に伏した。

「聞こえてるよ、うるさいな。言われなくても出てくよ、こんな村。」

リーラは初めてやり返した。
子供の頃から、何度も何度も何度もシミュレーションした一撃。
魔法が使えない代わりに、やれることはなんでもした。
水魔法が使えないから、毎日遠い川まで水を汲みに行った。
何十回も、運び続けた。
土魔法が使えないから、畑だって自分の手で耕した。
朝から晩まで、魔法ならあっという間の作業を地道にやり続けた。
勿論、こんなことくらいで最強の人間にはなれないし、リーラはただの普通の少女だ。
ただ、この村にいた魔法に頼りきりの若者よりも拳に重みがあった。
それだけだ。

「魔法使えば良かったのに。あんたは使えるんだからさ。」

そんなリーラの言葉は気絶している若者には聞こえない。



跡形もなく燃えた家から持ち出せるものなど無く、リーラは身一つで村を出た。
首にかけられたペンダントだけがリーラの私物だ。

「これ、売ったら金にならないかな。」

おそらく母親から受け取った唯一のものだというのに、彼女にとってそれは換金対象に過ぎなかった。
村を出てどこへ行くにしろ、金が必要だ。
魔法が使えない私ができる仕事ってなんだろう。
呆然とそんなことを考えながら何もない土の道を歩んでいく。
日々培ってきたそれなりの体力のおかげで朝から晩まで歩くことが出来た。
日が沈み、夜になると魔獣が増える。
好戦的な魔獣と出会ってしまうと、魔法が使えないリーラは一貫の終わりと言える。
せめて木の上で寝た方がマシだろうと、木に登れば景色が良く見えた。
月明りに照らされた果てしなく続く森。

これ、どこまで続いてるんだろう。
どこまで行けばいいんだろう。

リーラは木の幹に背を預け、その頬には一筋涙が伝った。

私はなんのために生きてるんだろう。
これからも、これまでのようにじっと耐えながら生きていかなきゃいけないのかな。

静かな夜の月は眩しいくらいに光っていて、それすらも鬱陶しく感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...