屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

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第一章

仕事紹介処

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農家村から歩き続けて4日目。
ようやく見えてきたのは小さな町だ。
小さいとはいえ、農家村の狭さとはわけが違う。
病院があり、役場があり、警備隊がいる。
そして、リーラが必要としている仕事紹介場所がある。
布で作られた靴は歩き続ければボロボロで、麻の服も土で汚れている。
小さな町中では、路地裏などの浮浪者もいないから目立ってしまう。
かと言って、着替えられる服も履き替えられる靴も持っているわけがない。
数少ない衣服は火事で燃えてしまったから。
リーラは町に入る以外の選択肢はなかった。
一文無しのリーラが手に入れられるものといえば、自然に生えている植物か捨ててあるゴミだ。
ただ、この小さな町には漁るようなゴミ捨て場はないらしい。
穏やかで景観の良い町で、リーラの貧しい格好が浮いていた。

そんなことを気にしている場合でもなく、リーラは仕事紹介処の扉を開けた。
中にいた人々がリーラを見ては、こそこそと会話するのが分かる。
その間を通り抜け、受付の男に話しかけた。

「仕事を探しています。紹介して頂けませんか。」

新聞を広げていた男はゆっくりを顔を上げると、リーラを足の先から頭の先までじろりと見た。
「お嬢ちゃん、きみいくつ?というか、その恰好どうしたの。」
「歳は16、働いても問題ない年齢ですよね?住んでいた家が火事になって、他の服は燃えてしまったんです。」

この世界は一部の優秀な魔法を使える子供を除き、15歳から働くことができる。
ただし、個人県営している農家などでは幼い頃から働かせることも珍しくはない。
そして年齢を偽って働くことも出来なくはないのだ。
だが、リーラはここで嘘をつく必要が無かった。
リーラは正真正銘16歳で、家が燃えたのも事実だ。

「それは大変だ。仕事紹介を今まで利用したことはあるかい?」
「ありません、今まで農家で働いていました。その働き先が火事になってしまい、雇い主を亡くしてしまったのです。」

今度は嘘をつくことにした。
亡くなったのが祖父母であれば、どうして農家を続けないのかと聞かれてしまうと思った。
村を追い出されたことを話せば、余計な詮索をされてしまうことにもなってしまう。
雇い主がいなくなったので仕事を探したい、というのは至極普通なことに思わせたい。

「なるほどな。農家ということは、水魔法や土魔法が得意ってことかい。それなら、紹介できる仕事もあるよ。」

その言葉にリーラはやっぱりそうなるか、と不安な表情を浮かべた。

「実は、魔法の力が弱くて、できれば、あまり人に見られたくないのです。雇われていた村でも馬鹿にされてきました。ですので、単独で行える仕事を探しているんです。」
「単独の仕事こそ、魔法の力が試されるものが多いぞ。危険な魔獣の討伐とか、お嬢ちゃんにはできないだろ?」

戦闘経験がない上に、魔法が使えない。
そんなリーラに討伐は不向きとしか言えなかった。
すると、受付の男は水晶玉を取り出した。

「とりあえず魔力量を見させてくれ。もしかすると、自分でも気づいていない魔法に才能があることもある。仕事を探すなら自分のことを理解していることも必要だ。紹介するこちらとしても、お嬢ちゃんの魔法を把握しておく必要があるからな。」
そう言われてリーラは後ずさる。
水晶で見られたら、魔法がないことがバレる。
そんなリーラの様子を見て、受付の男は小声で言った。

「どれだけ弱くても馬鹿にしたりしねぇよ。魔法だって千差万別ある。そのたくさんある中でひとつでも向いている魔法があれば、俺が仕事を探してやるよ。」

この受付の男が、まともな人だというのは言葉で分かった。
優しさを持っていることも、リーラには感じ取れた。
だが、そのリーラには千差万別の魔法などない。
なにひとつ、無いんだ。

「す、すみません。一度、考えさせてください。」
「え、お嬢ちゃん!?」

リーラは走って外へと飛び出した。
考えることなんてありはしない。
仕事を探す上で、必ず魔法を確かめられてしまうのだとしたら働けない。
だとしたら、私は。

町の外に向かって走っていたリーラは、急にその腕を掴まれた。

振りむけばそこには、ひげ面の男が立っていた。
この男、仕事紹介処の中にいた気がする。
だとしたら、私を追ってきた?
リーラは腕に力を入れて、引っ張った。

「おお、存外力が強いな。魔法が弱いくせに農家で働いていたなんて信じがたいと思ったが、まさか魔法不使用ってことか?」

的を射たその言葉にリーラは目を丸くした。
その顔を見逃さなかった男はニヤリと笑う。

「たまにいるんだよな。農商をやってる金持ちのなかで、魔法を使わずにひとつひとつ手作業で愛情をこめて育てればより美味しくなるとかほざく奴らが。そう言いながら自分たちではやらずに、人間を雇って奴隷のように働かせるんだ。あんた、そんなところから逃げてきたんじゃないか?」

リーラはそれを聞いて、その話に乗ろうと考えた。
それらしく目を逸らして見せれば、男は頷く。

「ああ、いいんだ。あんたがそこから逃げ出したとしても俺は咎めない。だが、水晶を拒否するほどだ。ヤバい経歴を持っているのか、それとも危ない魔法持ちなのか。」
「経歴って?あの水晶は、魔法を測るものでしょ?」
「あの水晶は、仕事処の全ての水晶と情報を共有しているんだ。つまり、あの水晶で見ることでその人物が過去にどんな仕事をしたのか分かるってことだ。だけど、あんたは紹介してもらったことはないって言ってたよな?親に売られでもしたのか?」

親の顔なんて、知らない。
そう言おうとしたのに、男は首を振る。

「ああ、いいんだって。別にあんたが親に売られていようと、逃げ出してきたんだとしても、かまわねぇ。ようは、仕事が欲しいんだろ?」
「あなたが紹介してくれるってこと?表では扱えないような仕事を。」
「おお、話が早いね。そう、あんたのように訳ありな奴らのために俺がいる。」

男はリーラから手を放すと、存外美しいお辞儀をした。
「俺は仕事紹介人のモクレンだ。後ろめたい過去も、誰にも言えない秘密も、俺にとってはどうでもいい。働く意思があるのか否か。さぁ、どうする?」

モクレンが差し出したその手をリーラは迷わず取っていた。

「私はリーラ、体力には自信があります。ただ、魔法には期待しないで。」
「体力があるのはいいことだ。魔法が弱いっていうのは、俺が紹介する仕事になんの支障もねぇよ。」
「ちなみにですが、殺しや盗みはある?その場合は、少し考えたいんだけど。」
リーラの言葉にモクレンは手を放した。
「いや、ねぇよ。え、待って、前職殺し屋とかじゃ、ないよね?」
「人を殺したことも、犯罪をしたこともないですよ。」

モクレンはあからさまに安心したような顔をして、それから歩き出した。
「俺は違うけど、世の中にはそういう仕事をさせる紹介人もいるんだ。その点、リーラは俺が先に見つけたから、ラッキーってもんだ。運があるっていうのは、大事だぜ。」
そんなモクレンにリーラはついていく。
「まずは詳しい仕事の説明をするから、俺の住処に来てもらう。とりあえず、走ってついてきてくれ。」
「え、走って?」

突然走り出したモクレンに呆気に取られていると、後ろからたくさんの足音が聞こえた。

「待て!!モクレン!!今日こそは情報を吐いてもらうからな!!!」
「待てと言われて誰が待つんだよ、お疲れさん!!」

逃げ足の速いモクレンを追いかけるしかないリーラは、後ろを振り向きながらも足を動かした。
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