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3話

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 朝食を終え、一息つこうと思ったがそんな間は少しも与えられなかった。まるで着せ替え人形かのように、ひらひらとしたドレスを着せられ、髪を結われメイクを施された。

「さすがお嬢様ですね。とてもお綺麗ですよ。」

「そう?ありがとう。」

 有名なドレスデザイナーによって仕立てられた紫色のドレスにゴールドのアクセサリーは父譲りの絹糸のようなシルバーヘアーをよく引きたてる。

「今日のパーティーは皇太子殿下がエスコートしてくださるそうですよ。」

「そうなの?すごく楽しみだわ。」

 そうだ。前世でも、事前に何も知らせなかったくせにいきなりエスコートすると言った皇太子殿下。まだ10歳ではあるものの私たちは正式な婚約者。別におかしいことではないが、なぜいきなりそんなことを言い出すなんて幼い頃から真面目な彼らしくない。
 とはいえ、前世の時も特に目立つような粗相もなく、企むような様子もなくエスコートをしてくれたのだから取り敢えずは大丈夫だろう、なんてことを考える。

「お嬢様、御準備が整いましたので談話室に参りましょう。皇太子殿下がお待ちです。」

「えぇ。行きましょうか。」

 私が立ち上がり歩き出すと、そのすぐ後ろに私の専属騎士二人とメイドが三人着いてくる。今日は沢山の人が来るからか警備にもいつもより気合いがはいっているようだ。
 そんなことを考えながら長い廊下を進む。ふとこの先にはリンデンがいるのか、そう思うと何故か手が震えた。どうしても思い出してしまう。私の一方的な愛を無視するかのような冷徹な態度。あの時の、最期に向けられた冷たい視線と首を切られる感覚。
 前世とは違う、大丈夫だと自分に言い聞かせてもその震えは一向に止まることの無いまま皇太子の待つ談話室の扉を開けた。

「お待たせ致しました。お久しぶりです皇太子殿下。」

「……行こうか、イリシス。」

「はい。」

 当たり前のように腕を差し出す姿は、やはり皇族らしい威厳のようなものを感じさせる。私が腕を組むと、殿下が私の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出した。
 前世はこの時のさり気ない優しさに惚れてしまったんだっけ、と他人事のように思い出す。
 この人は本当に何を考えているんだろう、と思いながら私より少し背の高い殿下を見上げた。表情はいつもと変わらないものの耳はほんのりと赤く染まっているように見える。

 これは、果たしてただの私の見間違いなのだろうか___?
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