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第2章── Memory of the World──
第19話 キコルとヤイカ 前編
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「いてて……」
ジンジンと痛む腰を擦り起き上がった僕は、横の大きなベッドで眠るキコルの元へ向かった。しかし顔を少し歪ませている。
「……ナツメ起きろ」
「ん~……今起きたよ……ふわぁ」
呑気に欠伸をしてナツメは目を覚ました。
「……またキコルの様子がおかしいんだよ」
「悪夢でも見てるのかな? ……それなら何か体質改善した方が良い気がして来たよ」
「全く同意……。でも、キコルめっちゃ食べるしめっちゃ寝てるよな……?」
「……もしかしたらだけど、過去が原因なのかも」
「過去?」
「うん。ルキの話じゃキコルは過去5年間を除いて、記憶が無いんでしょ? 無意識的に見る悪夢は、キコルに過去を思い出させようとしているのかもって」
「なるほどな……それは一理ある。だけどさ、その悪夢の内容って過去の記憶の中でもあまり宜しくないものなんじゃないのか?」
「確かに……。私の推理が合ってるなら、キコルは毎晩の様に拷問を受けている様なものだよね」
「ああ……。いざって時に能力が出なくても困るし、ここは僕達がどうにかしてやろうぜ」
「そうは言っても何か策でもあるの?」
「無い」
「……質問した私が馬鹿だったよ……。君って本当は頭悪いんじゃ……」
「いや、それは無い。頭の回転が遅いだけで計算とかは早いぞ?」
「えー、じゃあ……1+1は?」
「2」
「3×4は?」
「12」
「円周率」
「……ナツメ」
「ん? 呼んだ?」
「……僕の事馬鹿にしすぎだろ。こんな問題小学生でも解けるわ!」
「じょーだんだって! でもさ、どれだけ計算力高くてもこの世界じゃ意味無くない?」
「……薄々思ってた事口に出さないでくれ……心が抉られる……」
「……ぷっ……あっはっは! ごめんって!」
吹き出し、手足をばたつかせるナツメの腹を物理的に捻ってやりたいと思ったが、そんな事すれば一発で御用なので諦める。
「ナツメは人をイジるのが趣味みたいな所あるよな……」
「そう? そんな事初め……」
急にナツメの動きが止まった。
「ん? どうした? 図星突かれて困惑してんのか?」
「……ん? いやいや! 昔誰かにそんな事言われた気がするなーって思っただけさ!」
「えっ、ナツメって最近生まれたんだと思ってたけど違うのか?」
「あっ」
「……」
「過去のことには触れないでくれるとウレシイナー」
目を逸らして棒読みになるナツメに若干の不信感を抱いていると、物凄い勢いでキコルが起き上がった。胸を押え激しく呼吸をしている。
「どうした!?」
「私……ヤイカが目の前に居たのに助けられなかった」
「しっかりしろキコル! ヤイカはもう死んでるんだろ!?」
両肩を摑み揺さぶると、顔を手で覆って泣き始めた。
「あーあ、泣かせちゃった。ルキに報告案件かなーこれは」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないだろ……」
「テバット……」
「どうしたんだキコル……」
「……私の話を聞いて」
訴えかけるような、潤んだモスグリーンの瞳に、僕はいいよとしか答えられなかった。
「……ヤイカが前の黒色ってのは前に話したよね?」
「ああ、聞いた。だから僕を疑ったんだろ?」
「それに関しては本当にごめんなさい。でもね、それくらい黒色の能力は狙われてたの」
「妖精使役がか……? 確かに便利かもしれんが、殺してまで狙うものなのか?」
「テバットは無知すぎるよ。殺されても文句は言えないね」
「はぁ!? どういう事だよ!」
「あの能力……ただ妖精を使役するものじゃないの! 強化や弱体化のみならず、誤った使い方をすれば他の6つの能力なんかとは比べ物にならないくらい程強大な能力なの」
「えっ……?」
「多分ナツメちゃんはしっかりしてるからそんな事起こらないだろうけど、能力者が使役する妖精って、ご存知の通り透ける性質を持っているから、それを悪用してヒトの脳内に入り込んで記憶を改竄したり、急所を内側から突く事が出来るの」
「怖すぎだろ……」
「でも、それは黒色の能力者が怒りの力によって覚醒した時だけ。覚醒しちゃうと一時的に自我を保てなくなってしまうから、妖精が抵抗したとしても無意味なの」
「でも、怒りが引き金なら割とすぐ覚醒しそうな気がするんだが……」
「怒りは怒りでもただ怒るだけじゃダメ。心の底からキレる……憤怒する事が条件だからね」
「……あっ」
僕には心当たりがあった。キコルを殺害しようとしてたあの女が爺さんの脚を切断したのを認識した後の記憶がほぼ無かった事だ。ナツメもキコルも僕の様子がおかしいと言っていたし、僕はあの時覚醒したのではないかと思っている。
「……詳しく聞かせてくれ。ヤイカも覚醒の事も」
ジンジンと痛む腰を擦り起き上がった僕は、横の大きなベッドで眠るキコルの元へ向かった。しかし顔を少し歪ませている。
「……ナツメ起きろ」
「ん~……今起きたよ……ふわぁ」
呑気に欠伸をしてナツメは目を覚ました。
「……またキコルの様子がおかしいんだよ」
「悪夢でも見てるのかな? ……それなら何か体質改善した方が良い気がして来たよ」
「全く同意……。でも、キコルめっちゃ食べるしめっちゃ寝てるよな……?」
「……もしかしたらだけど、過去が原因なのかも」
「過去?」
「うん。ルキの話じゃキコルは過去5年間を除いて、記憶が無いんでしょ? 無意識的に見る悪夢は、キコルに過去を思い出させようとしているのかもって」
「なるほどな……それは一理ある。だけどさ、その悪夢の内容って過去の記憶の中でもあまり宜しくないものなんじゃないのか?」
「確かに……。私の推理が合ってるなら、キコルは毎晩の様に拷問を受けている様なものだよね」
「ああ……。いざって時に能力が出なくても困るし、ここは僕達がどうにかしてやろうぜ」
「そうは言っても何か策でもあるの?」
「無い」
「……質問した私が馬鹿だったよ……。君って本当は頭悪いんじゃ……」
「いや、それは無い。頭の回転が遅いだけで計算とかは早いぞ?」
「えー、じゃあ……1+1は?」
「2」
「3×4は?」
「12」
「円周率」
「……ナツメ」
「ん? 呼んだ?」
「……僕の事馬鹿にしすぎだろ。こんな問題小学生でも解けるわ!」
「じょーだんだって! でもさ、どれだけ計算力高くてもこの世界じゃ意味無くない?」
「……薄々思ってた事口に出さないでくれ……心が抉られる……」
「……ぷっ……あっはっは! ごめんって!」
吹き出し、手足をばたつかせるナツメの腹を物理的に捻ってやりたいと思ったが、そんな事すれば一発で御用なので諦める。
「ナツメは人をイジるのが趣味みたいな所あるよな……」
「そう? そんな事初め……」
急にナツメの動きが止まった。
「ん? どうした? 図星突かれて困惑してんのか?」
「……ん? いやいや! 昔誰かにそんな事言われた気がするなーって思っただけさ!」
「えっ、ナツメって最近生まれたんだと思ってたけど違うのか?」
「あっ」
「……」
「過去のことには触れないでくれるとウレシイナー」
目を逸らして棒読みになるナツメに若干の不信感を抱いていると、物凄い勢いでキコルが起き上がった。胸を押え激しく呼吸をしている。
「どうした!?」
「私……ヤイカが目の前に居たのに助けられなかった」
「しっかりしろキコル! ヤイカはもう死んでるんだろ!?」
両肩を摑み揺さぶると、顔を手で覆って泣き始めた。
「あーあ、泣かせちゃった。ルキに報告案件かなーこれは」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないだろ……」
「テバット……」
「どうしたんだキコル……」
「……私の話を聞いて」
訴えかけるような、潤んだモスグリーンの瞳に、僕はいいよとしか答えられなかった。
「……ヤイカが前の黒色ってのは前に話したよね?」
「ああ、聞いた。だから僕を疑ったんだろ?」
「それに関しては本当にごめんなさい。でもね、それくらい黒色の能力は狙われてたの」
「妖精使役がか……? 確かに便利かもしれんが、殺してまで狙うものなのか?」
「テバットは無知すぎるよ。殺されても文句は言えないね」
「はぁ!? どういう事だよ!」
「あの能力……ただ妖精を使役するものじゃないの! 強化や弱体化のみならず、誤った使い方をすれば他の6つの能力なんかとは比べ物にならないくらい程強大な能力なの」
「えっ……?」
「多分ナツメちゃんはしっかりしてるからそんな事起こらないだろうけど、能力者が使役する妖精って、ご存知の通り透ける性質を持っているから、それを悪用してヒトの脳内に入り込んで記憶を改竄したり、急所を内側から突く事が出来るの」
「怖すぎだろ……」
「でも、それは黒色の能力者が怒りの力によって覚醒した時だけ。覚醒しちゃうと一時的に自我を保てなくなってしまうから、妖精が抵抗したとしても無意味なの」
「でも、怒りが引き金なら割とすぐ覚醒しそうな気がするんだが……」
「怒りは怒りでもただ怒るだけじゃダメ。心の底からキレる……憤怒する事が条件だからね」
「……あっ」
僕には心当たりがあった。キコルを殺害しようとしてたあの女が爺さんの脚を切断したのを認識した後の記憶がほぼ無かった事だ。ナツメもキコルも僕の様子がおかしいと言っていたし、僕はあの時覚醒したのではないかと思っている。
「……詳しく聞かせてくれ。ヤイカも覚醒の事も」
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