閉鎖学級

日向 ひなの

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プロローグ

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「イトアミ様イトアミ様、真実を結んでください」

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 辻咲村は、岡山県北部から広島県北部にかけてなだらかに続く中国山地の、とある山間に位置する伝統的な村である。電車は二時間に一本、バスは一日に三本。人口も出生率も年々右肩下がりにある、典型的な過疎地域。
 そして、集落からさらに山奥へ、車で三十分ほど進むと長いトンネルが姿を現す。辺りが鬱蒼とした森に囲まれているためか、昼間でも薄暗く気味の悪いトンネルだ。
 しかし、トンネルを抜けた途端、突如として辺りの景色は一変する。美しい花々の咲き乱れる前庭と、その背にどっしりと門を構える、レンガ造り風の可愛らしい校舎と寄宿舎。村唯一の女子中──辻咲中学校である。
 山奥の僻地にあるとは思えない程きれいな校舎は、土砂崩れの影響で十年前に建て直されている。その風貌も相まってか、一時期は他の村から通う生徒もいたほどだ。
 けれど、今となっては校舎の影響も薄れ、生徒数はまた徐々に減り、今年度をもって閉校することが決まっている。現在この校舎に残っているのは、新三年生となる十二人の生徒たちだけだった。
 彼女たちは、他の学年と比べ飛び抜けて仲が良かった。喧嘩をすることすら稀で、女子同士によくあるグループ間の諍いや、嫉妬心から起こる悲劇、ましてやいじめなんて聞いたこともなかった。

 本当に、本当に仲の良いクラスメイトでした。

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 事の発端は、春先のある日。形だけの始業式を終え皆が教室に戻るやいなや、一人の生徒が口にした言葉がきっかけだった。
「どうせ今年もこの十二人でしょ? 代わり映えしない毎日ならさ、せめて進級お祝いパーティーがしたいな! ねえ、今週末、学校に泊まるっていうのはどう?」
 ぴょこん、とオノマトペがつきそうな勢いで、小刻みにジャンプしながら言ったのは、 渡辺わたなべゆりかだった。彼女はまさに『かわいい』を具現化したような容姿をしている。くりくりの丸い目と、血色の良い愛らしい頬、アニメキャラみたいに、頭のてっぺんで二つ結わえた小さなお団子ヘア。平凡な女子が施せば、ぶりっ子と否定的に取られそうな髪型も、彼女ならばしっくりきた。テンプレ的なスクールカーストに当てはめるのならば、彼女は間違いなく一軍だ。
 そんな、クラスの華であるゆりかの声を筆頭に、他の生徒たちも次々と賛成の声を発した。私ゲームやりたい! プロジェクター借りて映画流そうよ。深夜にお菓子食べちゃおうよ。口々に聞こえるカラフルな願望を受け、担任の 猫屋敷ねこやしき先生は少しの間困ったように考えていたが、やがて根負けして口を開いた。
「分かったわ。先生も一緒に泊まることを条件に、校長先生に相談してみます」
「やったー! ね、隣で寝よ、星奈!」
 ざわざわと歓喜の声で溢れるクラス内で、ゆりかは隣に立つ生徒と腕を取った。ゆりかと寮の同室である彼女── 宮本みやもと  星奈せなは、ディズニープリンセスのように煌びやかな顔を、これまた少女漫画のヒロインのような微笑みに変えて頷いた。
「もちろんよ。 土曜日にお揃いのナイトキャップを買いに行きましょう」
「うん!」
 星奈もまた一軍と呼ぶに相応しい容姿と華やかさを持っており、二人が並ぶと絵になった。
 猫屋敷先生は、二人の様子を微笑ましそうに眺めたあと、「でも、進級テストの勉強はしっかりしてくださいね」と釘をさして教室を出ていく。直後、あまり勉強が得意とは言えない生徒たちが「え~!」と不満の大合唱。クラスは和やかな笑いに包まれた。
 と、その時。
「ねえ、皆で『イトアミ様』をやるのは、どう?」
 中学生にしては随分と大人びた、艶やかな声。騒めく教室内の視線を一瞬で独り占めするオーラの持ち主が、真っ赤な唇の端を上げてそう呟いた。
 彼女の名前は 佐藤さとう  美柚みゆ。人とは一線を駕す華やかさを纏う彼女は、ゆりかや星奈に並ぶ一軍女子のひとりでありながら、彼女たちよりも更に上界からクラス全体を眺めていた。いわゆる、クラスの女王様。
 もちろん、彼女自身が自分の立ち位置をそう決めたわけでもなければ、誰かがそう言い出したわけでもない。ただ、毎日制服を着るのと同じような感覚で、皆が共通の認識として、彼女を女王様と慕っていた。
 だから皆、その話題にはすぐに食いついた。イトアミ様というのはこの地域に伝わる都市伝説だ。中国地方から関西地方にかけては比較的知名度のある話らしい。知らない人に説明するのならば、こっくりさんに近い降霊術、という言い方が妥当だろう。
「え、やりたいやりたい!」
「すごく準備が必要なやつだよね? 楽しそう!」
 次々と手が挙がる。女王様の提案、更には、興味の尽きないお年頃の少女が好むお呪いときたものだ。反対する者はいなかった。
 そしてお泊まり会当日の深夜。一人別室で眠る猫屋敷先生が完全に入眠したことを確認した少女たちは、寝室代わりにしていた和室をこっそりと抜け出した。
 暗い廊下を連れ立って歩く。空き教室までの道のりは数十秒ほど。けれど暗闇のせいだろうか。やけに長く、果てがないようだった。やがて、無事空き教室に辿り着いた少女たちは、本に乗っていた複雑な手順に倣いイトアミ様の儀式を開始した。

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■イトアミ様の呼び出し方■

https://x.com/itoamisama/status/2023014950449684663?s=46&t=1h19QQViBLyLsw-3MFzy1A

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 結論から言えば、イトアミ様は期待を裏切った。何も起こらなかったのである。少女たちは落胆し、けれども夜更かしで全員が疲弊しきっていたので、これ以上続ける気にもなれなかった。
 ちょっと残念だったねと口々に言いながら、彼女たちのお泊まり会は平穏に幕を閉じた。

 そのはずだった。

 お泊まり会から一週間ほどたったある日、突如として星奈が一軍グループから外された。皆が驚きと困惑で静まり返る中、ただ一人、美柚の紅い唇だけが、満足そうな笑みをたたえていた。それが、はじまり。
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