恐怖日和

黒駒臣

文字の大きさ
82 / 147

お祖母ちゃん

  
  
 母の手助けで介護していた認知症の祖母が亡くなった。
 九十も半ばを超えていたので、わたしたちとしては大往生だと思うけれど、本人はどうだったのだろうか。
 どんなに歳を経ようと、どんな状態になっていようと、ただただ生きたいと思っていたかもしれない。
 そんな祖母の気持ちをおもんばかりはするけれども、介護疲れで大変だったわたしたちには『お祖母ちゃん、逝ってくれてありがとう』だった。
 もちろんそれは大往生だから言えることであり、けっして憎くて言っているわけではない。
 七十代後半から約二十年の介護生活。母や父のことだけでなく、あれだけかわいがってくれた孫のわたしのことですら忘れ、時には暴れ出し、時には泣き叫び、人聞きの悪い言葉を投げかけられ、どんなに尽くしても報われなかった。
 それほど介護は大変だった。
 手助け程度のわたしでも、ため息だけでなく悪態をつきたくなったのだから、母のつらさはいかばかりか。
「一番つらいのはお祖母ちゃんなのよ」
 そう言って母は愚痴一つ吐かなかったが、しんどいことはわかっていた。
 葬儀の際の母の号泣は悲しみの他に、やっと肩の荷が下りたという嬉しさもきっとあったはずだ。
 ま、母にはそんなこと言えないけど。
 とにかく、この世の介護に携わる人たちに幸あれと思わずにいられない。

                 *

 祖母の葬儀後一週間ほど経ってから、電化製品に不具合が生じ始めた。
「もう古いからね――同じ時期に買ったものだから、故障もだいたい同じくらいなのかも」
 父も母もそう言って買い替えを検討しているようだが、今の今まで調子がよかったのに、いきなりそんなことになるものだろうか。
 不思議なことにしばらくすると元に戻り、またしばらくすると不具合を起こすということを繰り返した。
 使用できるのであればと、買い替えに躊躇しているが、原因不明なのは気色悪い。
 そんなある日、仕事や介護の手伝いやらのわたしの都合で長い間会っていなかった友人が訪ねて来てくれた。
 水鏡みかは玄関に入るとなり、浮かべていた笑みをふっと消して顔をしかめた。
 長い間の介護で湿っぽい臭いが家中に染みついているのだろうか。
 わたしたち家族では気づかない臭いがするのかも、そう申し訳なく思ったが、
「最近いろいろあるでしょう?」
 と訊いて来た。
 わたしにはそれが例の電化製品の不具合のことだとピンときた。
 水鏡には不思議な力――いわゆる霊感があったからだ。
 ということは、家電の不具合はそういうもの、、、、、が原因なのか。
「うん、ある。原因不明の家電の不調」
「それね、亡くなったお祖母ちゃんがあっちこっち触りまくっているからよ」
 そう言えば、認知が出始めの、まだ足腰が達者で歩き回っていた頃、いろんな家電を触りまくっていたっけ。
 機械本体をいじるのもさることながら、リモコンで設定を変えられていたりもした。一番頭に来たのはテレビ番組の録画予約を解除されていたこと。怒っても仕方ないとわかっていても怒らずにいられなかった。
 今回の状況はそれではなく、ただの機械の不具合だけれど、祖母の仕業という水鏡の話はすんなりと信じられた。
「生きてる人がさわれない場所まで触るので原因不明の故障みたいになるのよ。
 四十九日が過ぎればそういうのなくなっていくから。
 もしお祖母ちゃんがあの世に旅立つのを忘れたとしても、一年経つ頃までにちゃんと逝くから心配いらないわ」
 と、水鏡が笑う。
 わたしもつられて笑いながら、
「まあ言わば、お祖母ちゃんのいたずらみたいなもんなのね。
 じゃ、夢だって思ってたんだけど、夜中にわたしの顔をべろべろ舐め回すのもお祖母ちゃんだったんだ。もぉっ、気持ち悪いいたずらするんだから――」
「あ、それは違うわ」
 すっと真顔になって水鏡がそう言った。  
  
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。