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塞がれた窓
ある日、妻が窓ガラスにガムテープを貼りだした。
毎日ひとすじずつ、上から順にぴっちりと隙間なく貼っていく。
なぜそんなことをするのか、理由を聞いても要領を得ず、やめるように言ってもやめず、貼ったガムテを剥がしてもまた一から順に貼っていく。
テープ本体を隠しても無駄だった。ネットで箱買いをされ、隠すたびに在庫が増えるばかりで、私はいつしか止めることをあきらめた。
あらゆる窓が次々と塞がれて、家の中が暗くなっていった。
私は仕事で家を空けることが多かったので妻の精神が病んでいることにまったく気付かなかった。無理にやめさせようとせず、今は気の済むまでそのままにしておこうと思った。
やがて寝室の窓を残すのみとなった。
全部の窓を塞いでしまったら次はどうするのだろう。気が済んだら元に戻るのだろうか――だが、最後のひとすじを貼り終えた妻はベッドの上で死んでいた。自殺ではなく、病による突然死だった。
かねてより交際していた若い愛人が四十九日も済まぬ間に家に上がり込んできた。
まだ早すぎると焦ったが、妻の一挙手一投足に悩まされていた日々を癒してくれたのは彼女だったので、やっと日陰の身から脱せると喜ぶ彼女を無碍にすることができなかった。
ふと、彼女が妻を呪い殺したのでは? と想像したが、まさかそんな非現実的な話などあるわけがないと苦笑した。
悋気が強く、支配力も強かった妻と図らずも別離でき、これからの楽しい未来に思いを馳せながら、私は愛の巣となろう寝室の窓に貼られたガムテを一本剥がした。
次々剥がすつもりだったが、手を動かせなかった。
剥がした隙間から妻が覗いていたからだ。
リビングも、トイレも、風呂も、どの窓のテープを剥がしても、その向こうから妻が覗いている。
明るい陽光が差すも亡き妻の覗く家で愛人と新生活を営むか、暗く陰気でも妻の見えない家で生きていくか悩んだ結果、何も知らずにガムテを剥がそうとする彼女の手を止め、この先も剥がすことを禁止した。
怯えさせまいと理由を話さなかったが、結局異様な家の様子と頑なに剥がすのを拒む私に業を煮やし、ひと月も経たず彼女は家を出て行った。
これでいいんだろ?
許しを期待して再びガムテを剥がしてみたが、妻は相変わらずそこにいた――
それからも何度か試みてみるものの、私はまだ暗い家に一人でいる。
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