虹色浪漫譚

オウマ

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 夜景を描こうといつものように道の脇で月明かりを頼りにキャンバスを広げて絵を描いていた。そしたら突如女性の悲鳴が聞こえた。何事かと駆け寄ってみて本当に良かった。全く、女性を襲うとは同じ男として嘆かわしい限り。痛い目をみたんだ、これに懲りてくれればいいが。
 しかし、彼女に送ってくかと聞く前に走り去られてしまったことと名前を聞けなかったことが心残りだなあ。ここは一つ、後日お礼に訪ねて下さるという彼女の言葉を信じよう。至極久々に女性と言葉を交わしてしまったせいか鼓動が踊ってる。やれやれ俺ってヤツは何を期待しているのか……。
 本当は名乗りもせず立ち去れたら格好よかったんだろうけど、珍しく欲が出てしまったなあ。これが俺の三枚目たる所以か。
 それにしても暗がりでよく顔は見えなかったが、可愛らしい人だった。そうか、ああいう乙女を可憐と言うのか!
 夜道を駆けていく彼女の姿はとても可憐だった。なんとも良い絵が描けそうだ。もう夜景を描いてる場合じゃない、今日は帰るとしよう。そして目に焼き付いたあの光景を描こう。忘れないうちに――。

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