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【雛矢車】
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大切な片割れ。
双子に生まれた少女たちは、一人一人では不完全だったけれど、それでも仲良くやっていた。困ったときは助け合い、苦しい時は分け合って。そうやってずっと生きてきたのだ。見た目も性格もあまり似ていなくて、双子だというたびに驚かれたのはいい思い出である。優しく、おちゃらけてらいるけど明るい姉、厳しく、常に自分を律している妹__
姉は妹は、今私の首からわかれて、肩に乗っている
「ねぇ矢車」
「なんだ雛姉さん」
「HI☆MA! なんでこんなに敵いないの!」
「いたとしてもどうせ処理するのは私の方だろ」
「ばれたぁ?」
右手側、濃い緑の目をいたずらっぽくゆがめ、茶色いサイドテールを揺らし、頭をかいているのは姉の雛。左手側、薄いブルーの目をしている、金色のショートが、とうに失われたはずの光に輝いているのは妹の矢車。二人あわせて雛矢車、なんて呼ばれているが、お互いはお互いの事をこうやってよびあっている。くすくす、片方の頭が笑い、呆れたほうにもう一つの頭がため息をつくのは、はたから見ると異質にしか見えない。ただこの世界には下半身が戦車で上半身が触手という生物(?)のすきゅぷあいちごうくんがいるので全く問題はない。
痛々しいツギハギが、二人で共有している全身を横断している。ふと、前方右斜め42度100mほど先に敵を見つけた矢車が、目だけで雛に合図する。左手が、ショットガンやらマシンガンやらトカレフやらをぐるぐると巻き付けて一つのスイッチで作動するようにした不格好にもほどがある銃を構える。右手を前にひきやると、噂のすきゅぷあいちごうくんは悲鳴みたいな動作音をあげながら、ぷかぷか浮いて引きずられてくる。片目をとじて、正確に狙って、矢車はそれを射抜いた。一瞬で螺子も歯車も砕け散り、お掃除用ロボットすきゅぷあいちごうくんはあえなくその役目を終えたのであった。
「はっぁ私マジ天才! 矢車、お姉ちゃん大好きって言ってもいいのよ」
「雛姉さんさっさといくぞ」
「ねぇ矢車」
「雛姉さんさっさといくぞ」
「……ちぇ」
右手は矢車の頭を撫でている、それが若干嬉しそうに見えるのは目の錯覚ではないと思いながら、雛も微笑んだ。左手はその手を離さんとつかんでくるが、本気を出せば同じ力なのだからひっぱれるだろうに、いつまでたっても圧力らしい圧力はかかってこない。
二つの頭がくっついた奇妙な体は歩く。
「うふ」
姉妹の前に、ふと彼女は現れた。
「え? 何あれ。端的に言えばキモイ」
「端的に言い過ぎたあと普通に言い過ぎだ」
「だって矢車もそう思うでしょ?」
「………わかるか?」
「当然」
__黒色の髪を、腐れた風になびかせて、薄く黒い目を細めて笑っている少女。その白い肌を横断するようにツギハギがあてられて、それでもおさえきれない血があふれている。それが一瞬涙のように見えた。さらにつけくわえれば、申し訳程度にかけられた布(衣服や防具としての役割は期待できない)から、不釣り合いな黒いアト……おそらく火傷ののもの、が露出している。それでも笑う少女は、確かに造形こそきれいかもしれないが、雛矢車がそれを醜いものとしたのであれば、きっとその少女は醜いのだろう。
「君たちはさ、ホンモノの死人の顔って見た事ある?」
何かを悟った__悟ってしまった矢車は、急いで銃を構えようとした。__動かなかった。体が、凍り付いたように動かない……それこそ、人形のように。
「ワタシたちとは、厳密に言えば違うモノ。小説なんかではよく『眠るように綺麗な顔だ』なんて言われるけれど、ゼンゼン違うの。恐怖を全力で顔に張り付けて、血の気がひいて……いや、血なんて流れてないんだから当然なんだけどね。それでどんどん白くなっていくのんだ、天然の死化粧だよね! それでね、」
少女はいつの間にか片腕を突き出していた。右目は青く青く輝いている。
__自分と同じ種類のゾンビだ
雛が気付くのには、少し、遅すぎたのだ。
「そういうパーツを組み合わせて、君たちは作られるんだ」
………じゃあきみは?
そう聞こうとしてもできなかった。だってさ、できるわけないよね。所詮彼女の精神はただの少女。いくら殺してもいくら壊してもいくら死んでもそれに慣れちゃいけないんだ。
「そのアタマ、気に入ってくれたかな? ……矢車」
「え、雛姉さんは」
矢車の頭が己の肩を見た。そこには変わらず、快活に笑う自らの姉の頭が__。雛は、罪悪感に苛まれたように、ナニカに対して懺悔するように、瞳を細めた。今までよりいくぶんか低くなった声で、「ごめんね」と言った。雛のサイドテールに隠れるように、首筋にある。__まぎれもない。見間違うはずもないそれは__銃創。
どうして
なんで
ねぇ
今より髪の長い……そう、雛と同じぐらいの長さの金髪を揺らした、矢車によく似た少女が、誰かを撃ち抜いた。
それはなんて歪で美しい独占欲だったのでしょうか!
それはなんて美しく歪んだ独善欲だったのでしょうか!
気付いたら雛矢車の肩に、二つ頭はのっていなかった。その銃で消し飛んだ雛の頭の肉片に近寄ると、矢車は絶叫した。
あたりに、黒い少女の笑い声だけが響いていた。
__雛、本名はエレオノーラ・マルゲリータ。享年は14歳。
死因は妹の銃撃による内臓損傷。傷ついた頭を丁寧に縫い合わせ、【人形遣い】が直してくれた。
__ならびに矢車、本名はエレオノーレ・マーガレット。享年は14歳。
死因は姉の死のショックによる自害。なくしてしないたい記憶は、【人形遣い】が忘れさせてくれた。
優しいお花を咲かせましょう。雛菊、矢車菊、二人で遊んだ花畑の記憶。
不完全な二人は補い合いました。彼女たちにとって何を成し遂げたかったのかはわかりませんが、それでもひとつになれて、二人は幸せなはず。
双子に生まれた少女たちは、一人一人では不完全だったけれど、それでも仲良くやっていた。困ったときは助け合い、苦しい時は分け合って。そうやってずっと生きてきたのだ。見た目も性格もあまり似ていなくて、双子だというたびに驚かれたのはいい思い出である。優しく、おちゃらけてらいるけど明るい姉、厳しく、常に自分を律している妹__
姉は妹は、今私の首からわかれて、肩に乗っている
「ねぇ矢車」
「なんだ雛姉さん」
「HI☆MA! なんでこんなに敵いないの!」
「いたとしてもどうせ処理するのは私の方だろ」
「ばれたぁ?」
右手側、濃い緑の目をいたずらっぽくゆがめ、茶色いサイドテールを揺らし、頭をかいているのは姉の雛。左手側、薄いブルーの目をしている、金色のショートが、とうに失われたはずの光に輝いているのは妹の矢車。二人あわせて雛矢車、なんて呼ばれているが、お互いはお互いの事をこうやってよびあっている。くすくす、片方の頭が笑い、呆れたほうにもう一つの頭がため息をつくのは、はたから見ると異質にしか見えない。ただこの世界には下半身が戦車で上半身が触手という生物(?)のすきゅぷあいちごうくんがいるので全く問題はない。
痛々しいツギハギが、二人で共有している全身を横断している。ふと、前方右斜め42度100mほど先に敵を見つけた矢車が、目だけで雛に合図する。左手が、ショットガンやらマシンガンやらトカレフやらをぐるぐると巻き付けて一つのスイッチで作動するようにした不格好にもほどがある銃を構える。右手を前にひきやると、噂のすきゅぷあいちごうくんは悲鳴みたいな動作音をあげながら、ぷかぷか浮いて引きずられてくる。片目をとじて、正確に狙って、矢車はそれを射抜いた。一瞬で螺子も歯車も砕け散り、お掃除用ロボットすきゅぷあいちごうくんはあえなくその役目を終えたのであった。
「はっぁ私マジ天才! 矢車、お姉ちゃん大好きって言ってもいいのよ」
「雛姉さんさっさといくぞ」
「ねぇ矢車」
「雛姉さんさっさといくぞ」
「……ちぇ」
右手は矢車の頭を撫でている、それが若干嬉しそうに見えるのは目の錯覚ではないと思いながら、雛も微笑んだ。左手はその手を離さんとつかんでくるが、本気を出せば同じ力なのだからひっぱれるだろうに、いつまでたっても圧力らしい圧力はかかってこない。
二つの頭がくっついた奇妙な体は歩く。
「うふ」
姉妹の前に、ふと彼女は現れた。
「え? 何あれ。端的に言えばキモイ」
「端的に言い過ぎたあと普通に言い過ぎだ」
「だって矢車もそう思うでしょ?」
「………わかるか?」
「当然」
__黒色の髪を、腐れた風になびかせて、薄く黒い目を細めて笑っている少女。その白い肌を横断するようにツギハギがあてられて、それでもおさえきれない血があふれている。それが一瞬涙のように見えた。さらにつけくわえれば、申し訳程度にかけられた布(衣服や防具としての役割は期待できない)から、不釣り合いな黒いアト……おそらく火傷ののもの、が露出している。それでも笑う少女は、確かに造形こそきれいかもしれないが、雛矢車がそれを醜いものとしたのであれば、きっとその少女は醜いのだろう。
「君たちはさ、ホンモノの死人の顔って見た事ある?」
何かを悟った__悟ってしまった矢車は、急いで銃を構えようとした。__動かなかった。体が、凍り付いたように動かない……それこそ、人形のように。
「ワタシたちとは、厳密に言えば違うモノ。小説なんかではよく『眠るように綺麗な顔だ』なんて言われるけれど、ゼンゼン違うの。恐怖を全力で顔に張り付けて、血の気がひいて……いや、血なんて流れてないんだから当然なんだけどね。それでどんどん白くなっていくのんだ、天然の死化粧だよね! それでね、」
少女はいつの間にか片腕を突き出していた。右目は青く青く輝いている。
__自分と同じ種類のゾンビだ
雛が気付くのには、少し、遅すぎたのだ。
「そういうパーツを組み合わせて、君たちは作られるんだ」
………じゃあきみは?
そう聞こうとしてもできなかった。だってさ、できるわけないよね。所詮彼女の精神はただの少女。いくら殺してもいくら壊してもいくら死んでもそれに慣れちゃいけないんだ。
「そのアタマ、気に入ってくれたかな? ……矢車」
「え、雛姉さんは」
矢車の頭が己の肩を見た。そこには変わらず、快活に笑う自らの姉の頭が__。雛は、罪悪感に苛まれたように、ナニカに対して懺悔するように、瞳を細めた。今までよりいくぶんか低くなった声で、「ごめんね」と言った。雛のサイドテールに隠れるように、首筋にある。__まぎれもない。見間違うはずもないそれは__銃創。
どうして
なんで
ねぇ
今より髪の長い……そう、雛と同じぐらいの長さの金髪を揺らした、矢車によく似た少女が、誰かを撃ち抜いた。
それはなんて歪で美しい独占欲だったのでしょうか!
それはなんて美しく歪んだ独善欲だったのでしょうか!
気付いたら雛矢車の肩に、二つ頭はのっていなかった。その銃で消し飛んだ雛の頭の肉片に近寄ると、矢車は絶叫した。
あたりに、黒い少女の笑い声だけが響いていた。
__雛、本名はエレオノーラ・マルゲリータ。享年は14歳。
死因は妹の銃撃による内臓損傷。傷ついた頭を丁寧に縫い合わせ、【人形遣い】が直してくれた。
__ならびに矢車、本名はエレオノーレ・マーガレット。享年は14歳。
死因は姉の死のショックによる自害。なくしてしないたい記憶は、【人形遣い】が忘れさせてくれた。
優しいお花を咲かせましょう。雛菊、矢車菊、二人で遊んだ花畑の記憶。
不完全な二人は補い合いました。彼女たちにとって何を成し遂げたかったのかはわかりませんが、それでもひとつになれて、二人は幸せなはず。
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