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【12】しばしの休息

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 時宗たちがイキスに戻っている頃、隠と時雨はルーヴェルをホラン城の城門に送り届け、隠のスキルで時宗の位置を把握し急いでイキスに向かっていた。

 ホラン城に戻る間にルーヴェルから言われた言葉が隠の心に重くのし掛かっていた。

「こんな形でお別れになるとは思いませんでしたわ……あの男は何なのです?なぜ思い通りにならない!召喚者であり王族に刃を向けるとは無礼極まりない!絶対に許しませんわよ。貴女方も覚悟しておきなさい。このままでは終わらないですわよ」

 隠は一言だけ伝えてその場を後にした。

「何か勘違いしてない?私の殿を見くびるな!」

 この一言にルーヴェルは返す言葉が出なかった。

 その頃イキス村へと向かう時宗一行は御館さまが飯で駄々をこねていたので、狩りで捕っていた鹿の肉と魚を振る舞っていた。

「うまーー!!懐かしいのぉ!この味!腹12分まで食らいたいわ!」

「いや、御館さま、急ぎましょうよ……」

「少しくらい良いではないか、時宗。お前は相変わらず急かしいのぉ」

「いや、状況考えろよ……まじで」

「うっさいのぉ、じゃー1つ条件がありまーす」

「なんすか……まじで」

「わしの事をおおやけの場以外では昔のように雷玄らいげんと呼べ。わしとお前たちは島という文字を共有した義兄弟ではないか。父上から大名の座を引き継いでから、お前たちにも浮島と命名した。わしが岸島きしじまゆえに兄弟の証に交わした契りを守ってくれるなら、お前に従うよ」

「あーもう、相変わらず糞めんどくせー奴だなお前は、分かったよ。じゃー雷玄行くぞ。お前の気持ちも分かるからよ、イキスに着いたら一旦ゆるりと体を休めろ。どっちにしても隠や時雨が帰って来てからになるからな」

「なに!?あいつらも居るのか!?ふん、これは中々組み立てやすいのぉ」

「そうだ。だから時定を軍師筆頭に置き皆で考えよう。その為に雷玄、早く行くぞ」

「あい分かった」

 そのあとは意外と素直に動いてくれた雷玄と一緒に2日かけてイキス村へ到着したのである。

 流石に雷玄は元大名なだけあって気を張って歩いていたものの、村に到着し俺たちを3人だけになると崩れるように倒れた。

「定、寝床の準備をしてあげてくれ。雷玄が起きたら風呂と食事を好きなだけ食わせてやってくれ。こいつがいねーと俺たちには生きる意味がなくなる」

「承知しております」

 そして、なんか遠くの方から聞き覚えのある面倒な人間の声がする。

「とのぉーー」

「やっぱりか。で、聞こう。隠、何があった」

 時宗は、隠の微妙な表情の変化を感じ取っていた。

「あの女、最後にこのままで済まない。絶対に許さないと言ってました……ルーヴェルはやはり危険なんでしょうか?」

「それは現時点ではわからん。だが王族だの奴隷だのと差別をしている時点で糞と言うことはわかる。いずれホラン城には向かう。だが今は御館さまの回復が済み次第、軍義を開く。議題は全ての奴隷解放と奴らの言う闇への進軍だ」

「御館さまが見つかったのですね!良かった……本当に良かった」

「ああ、それまでお前たちも体を休めてろ」

「じゃー殿、添い寝して」

「断る!」

「時定さまー時雨も添い寝して」

「断る!というかこの流れで良く言ったなお前……」

「隠!時雨!お前らも風呂に入って飯食って寝ろ。御館さまは大変疲弊しておられるから、しばしゆっくり休め。休めるときは休め。ここから先は中々に忙しくなるぞ」

「了」

「わっかりましたー」

 相変わらず軽い乗りだがまぁいいや。
 取りあえずはこれで当初の目標は達成だな。

 ルーヴェル……いや、ホラン国……このままで済むと思うなだと?それはこっちのセリフだよ!
 撫で切りにしてやるわ!
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