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【34】受肉と化け物

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 時を戻して
 惣一郎が城に戻り、ルミエラと謁見をしていた。

「ルミエラ、今戻った。……すまん」

「よいのだ惣一郎。そなたが無事であることが1番の報せだ。
 それがそなたの人獣だな?」

「あ、ああ」

「たしか元は真三郎と申したな?」

「ああ、元は俺の息子だ」

「負い目を感じてるのか?」

「いやそれはない。元々アイツは俺の駒でしかなかった。それが今では道具に変わっただけだ。そこに何の感情もない」

「うむ。流石だな。私が見込んだ通りの男だ。
 そこの衛兵!そこの獣を外に繋いでおれ」

「承知しました!」


 ぞんざいな扱いを受けて連れられていく真三郎の姿を、1度も振り返ることなくルミエラと話をしていた。


「惣一郎、場所を替えよう」

 そういってルミエラは2人の寝室へ惣一郎を誘導した。

「惣一郎、もっと近こう寄れ」

 自然と2人の身体重なる。

「時が来たようだ。惣一郎、私の身体を委ねるぞ」

「ああ。ルミエラ、俺と1つになろう」


 2人はそのまま性行為に発展し、ルミエラの体内では早々と受肉が完成した。
 惣一郎は生気を吸いとられるほど憔悴しており、寝転がったまま動けずにいた。


「ありがとう惣一郎。そなたのお陰で無事受肉が完成したようだ」

 ルミエラは不適な笑みを浮かべた。

「今は喋ることも、ままならまい。
 もはや聞こえてもおらず今は妾と仮初めの営みをした想いでの夢だけを見ているだろう……
 1つ礼に力を与えてやろう。これが妾がお前のような人間に授けてやる最後の慈悲だ。今後は忠実な下僕として妾に仕えるがよい。
 だがまぁあれだな。
 まだコイツには使い道もある。今暫くコイツの想いを利用するとするか。
 フフ……全く滑稽な男よ」

 憔悴しきっている惣一郎はルミエラの言った通り、ルミエラと出会ってから先程の営みまでの夢を見ていた。
 その夢の中ではルミエラは天使のように美化されており、惣一郎はルミエラの姿に夢中になっていたのだ。

 しかしそれは受肉のタイミングでルミエラが惣一郎にかけた魅了魔法で、地獄のループ映像である。

 ルミエラは使い物にならないほど憔悴しきっている惣一郎へ魔女と言われるが所以ゆえんと思えるスキルを使用し、惣一郎を復活させた。

 スキル:完全催眠。
 内容:1度催眠状態に陥ると、肉片になるまでルミエラの為に全てを捧げる。
 ルミエラは完全美化されており
 忠誠・愛・奴隷・下僕・死
 この全ての権限がルミエラの言葉で遂行される、まさに悪魔のような能力である。

 副作用:ルミエラへの忠誠と愛以外の感情が完全消滅。ルミエラの記憶以外は完全記憶消滅。

 能力:体力消耗なし。
 屍になっても戦える。

 見た目:どす黒い色・もはや人間の形ではない・黒い翼が生えている・人獣と同化できる。


「惣一郎、気分はどうだ?妾は美しかったか?」

「勿論だ。ルミエラほど美しい女はこの世におらぬ」

「それはなによりじゃ。して惣一郎、新しい" 身体 "はどうじゃ?」

「素晴らしい。流石はルミエラだ」

「そうじゃろそうじゃろ。喜んでくれて何よりじゃ。では惣一郎、魔女ルミエラより命令じゃ、ルーヴェルの消滅と出産の間まで死んでも妾を守り続けよ」

「承知いたしました!ルミエラ様!」

「よし、今のところ用はない。外で見張っておれ」

「承りました!」

「全く……人とは何と簡単に魔法にかかってしまうのであろうか。
 全く……フフ、汚らわしい」


 惣一郎は受肉の為に完全に利用された。
 偽りの魔女の言葉は魅了魔法の影響で疑いもせず、利用され死ぬことも許されない化け物兵士に変えられた。

 生前、溺愛していた子も失い・自身の感情も失い、今では人間でもなくなった。

 だが完全催眠の影響で惣一郎は何も思うことはない。


 今後二度と……
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