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仮想襲来
しおりを挟む今は未来。
あれから13年がたった。
全世界に向けて地球機構長官リョウの演説が始まった
「みなさん、我々の戦いもついに13年目を迎えるに至りました。
誰も忘れはしないでしょう。あの突然の恐ろしい襲来を。我々は持てる力を結集し断固として反撃を続けてきました。
彼らは今だ宇宙空間でこの地球を狙い続けています。
しかし我々の強い意志と団結はやがて地球の征服など、どんな高度な文明にも不可能であることを悟らせるでしょう。
彼らが去るまで我々の強い抵抗は止まることはありません。
しかしまた我々は彼を抹殺することも考えていません。ただ家に帰ってわが身をただせと要求しているだけなのです。」
リョウの背にはS20カ国の代表がずらりと並び、真剣な、そして全幅の信頼を込めた眼差しでリョウを見つめていた。
会見場には多くの群衆が詰めかけ、多数のカメラがリョウを捉えていた。
リョウはしばらく沈黙しカメラと群衆を見渡した。
「しかしみなさん。私はここで、この危機的状況において別の、好ましい側面を報告したいのです。」
その瞬間、各国首脳達の一部があわてた表情を浮かべリョウの話を止めようと動きかけた。が、すぐに隣の首脳が止めた。
「今や、地球の、人類の団結はかつてないものになっています。彼らの襲来が皮肉にも我々の団結を固めることになりました。そして見てください。この澄んだ青い空を。昼間でも彼らの宇宙艦が見えるようです。襲来に対抗すべく始まった皆様の禁欲的・協力的生活のおかげで13年前には危機的状況だった環境、気候問題も急速に改善に向っております。
食糧や物資も均等に配分され、かつ最低限の市場的自由経済は維持されております。かつての貧富の格差が嘘のようです。
彼らの襲来は徐々に頻度を減らしています。私とこの後ろにいる各国首脳は一致協力して襲来への断固とした抵抗と彼らへの撤退の呼びかけを続けています。
皆様にはこの戦時下とはいえ、今やまれにしか来なくなった襲来に常に備えると共に、この平等でかつ最低限の自由を確保した今の体制の維持に協力していただきたい。」
13年前の襲来、
それは突然現れた。
地上からはっきり見える程に巨大に成長し、その設備を利用した特殊金属や農作物を製造する数多くの巨大衛星を従えた地球機構の宇宙ステーションが突然大爆発を起こし、その背後からさらに巨大な宇宙艦が現れた。
まもなく地球各地に宇宙艦からミサイルが放たれ甚大な被害を受けた。
人々がパニックとなりエアネットの情報が錯綜する中、地球機構長官リョウの映像が全世界のマスコミを通して流れた。
傍らにはシルバーの宇宙服らしきものに身を包んだ生物が何体か見られた。
リョウは緊急事態を宣言すると共に、冷静に事態の経過を説明した。
地球機構本部が襲撃されリョウ達が拉致されかけた事。
しかしレーダーで危機を予知したA国軍の師団が駆けつけ彼らを撃退した事。
宇宙艦からと思われる通信を傍受し、彼らとの交渉に入った事。
彼らが地球資源の引渡しを要求し、さもなくば人類を攻撃する事を警告してきた事。
S20ヵ国首脳と緊急会議を開き、人類は決して屈することなく断固として戦う意志を決定、その旨を彼らに伝えた事。
彼らの姿は宇宙服らしきものに身を隠しており実際の姿は不明である事。
宇宙艦は今のところ一つであり攻撃はそこからのみ行われている事。
13年前の地球は危機的な状況であった。異常気象によりほぼ毎日世界各地で頻発する災害や疫病、ますます拡大する貧富の差、それに伴う紛争や暴動の多発、さらに不満分子によるテロの多発。
そんな時に突如現れたUFOを見てリョウが冗談半分で提案した襲来のでっちあげは瞬く間に各国の首脳を魅了しその実現に向け各国が一気に団結した。末期的状況といえる世界情勢の改善にどんな手段でも使いたい誘惑に首脳たちがかられていた。
早速宇宙ステーションの裏側で形だけの巨大宇宙艦が建造され、世界各地に謎の攻撃を与えた。少なからぬ犠牲者に対してはこの危機的状況でのやむを得ない犠牲と考えた。
エアネットや電波を分析、監視する技術の進化によりかつてよりも大衆を誘導がしやすくなっていることも首脳たちをこの茶番に駆り立てさせた。しかし今や茶番などとは誰も考えていない。これこそが地球を救う唯一の政策だと各首脳は信じるに至っていた。
襲来は全くのフィクションではなかった。
月の裏側に突如現れた巨大な飛行物体は地球機構と各国政府を震撼させた。
極秘に緊急会議を重ね、マスコミの統制とネットワークの監視を強化した。
その飛行物体の真相は今だ謎である。
明らかにに地球外文明による飛行体であり未知の物質により構成されていたが巨大な推進装置のようなものでこれは長距離移動用と思われ、乗員は小型の飛行体でそこから飛び立ったと思われる。
演説が行われた地球機構本部の前には多くの民衆が詰め掛けていた。
リョウの名を叫び、彼の姿を一目見ようと押しかけていた。
リョウは政治家ではなかった。
世界的にヒットしたエアネットドラマで主演し世界中に熱狂的ファンのいる俳優だ。
ドラマ「明日を取り戻せ」は
巨大な金融コングロマリットと環境破壊企業、それに操られる政治家たちを追い詰め、新しい世界を切り開いていくストーリーで人々の不安や不満が現実に解決されていくような気分にさせに世界中が夢中になった。
その他多数のドラマに主演し、また多くの社会活動に参加し、ドラマのイメージそのままに政治的意見を積極的に表明していたリョウを彼の出身であるJ国の首脳が地球機構のトップに推薦した。リョウが批判していた権力に癒着した金持ち企業を最も重視する政治家たちから見ればリョウは敵ともいえたが、リョウは首脳たちにとって理想的なリーダーだった。清廉で若々しく大衆の尊敬と関心を一手に引き受けてくれる。慢性化し腐敗が静かに進行している各国の権力機構、その集合体であるところの地球機構は。透明で公正でなければならない。ただの象徴として美しく輝いていてくれればよいのだ。結局政策を実行するのは各国政府なのだからリョウもその無力さに気付くだろうがだからといって何もできやしないだろう。
演説を終え、カメラが撤収されるとリョウは深くため息をついた。
先進各国首脳たちはからかうような、見下すような眼でリョウを拍手で迎えた。
大国Rの元首がリョウの肩をたたいた。
「さっきはビックリしましたよ。
ひょっとして真相を暴露するんじゃないかとね。」
大国Aの大統領が続けた。
「私もです。しかしそんな事は今や不可能でしょう。そんな事は考えてないでしょうな?」
リョウはさらに大きくため息をつき呟いた。
「しかし、こんな事は長くは続かないでしょう。いつまで真相を隠せるものか。」
C国の総首が割って入った。
「しかし演説で述べたように、いい結果が出ているではないですか。今や、世界はかつてないほど安定してきています。それはあなた自身が望んだことでしょう。」
リョウはしばらく押し黙り失望の色を顔に浮かべた。
しかし開き直ったように押し殺したような声で言った。
「では、軍事連合諸国の皆さんとの協議に入ってよろしいでしょうか。」
軍事連合、それは、世界のほとんどの軍事力を占めるA、R、C、I、の4カ国である。
仮想の襲来は実際この4カ国の軍が実施している。
リョウの突拍子もない発案とはいえ、実際の攻撃目標を設定する段になると、がぜん軍事連合の首脳が乗ってきた。
実施の段階になると、もはやリョウの意向は蚊帳の外であった。
最初の攻撃は4大国共通の敵といえる資源国家Sであった。豊富な資源と裏腹に貧富の差が激しく、貧しい人々の不満が鬱積し、革命分子を世界各地にばら撒いている。攻撃は確実に、そして残酷なまでに徹底して行われた。
他のS20各国首脳を残し特別会議室の中は軍事連合4カ国首脳とリョウの5人は特別会議室に移動した。
先ほどの和やかな雰囲気は一変し張り詰めた空気が会議室を覆った。しばしの沈黙の後、A国大統領が切り出した。
「C国総首、先日の貴国での攻撃はT民族の抹殺を企てたものとしか思えません。厳重に抗議したい。
貴国のような大国が今だにこのような反民主的なことを行っていることは、我々先進国の一員として考えられないことです。」
R国首相が続けた。
「同感です。今回の演出でやっと人類が一つになろうとしているのにそれに水を差すことになりかねません。勝手な行動は謹んでいただきたい。」
C国総首が返した。
「その発言には厳重に抗議します。先月、エアネット会議でも主張しましたが、ここ半年ほど全く攻撃がなかった故、せっかくの団結ムードが萎え、かつ襲来懐疑派の行動がまた活発になりつつあります。今こそ新たな攻撃が必要なのです。」
「しかし、明らかにT民族の多数派地域を集中的に攻撃していますよね。こういった意図的な攻撃こそが懐疑派を増長させる主因ではないですか?」
「その言葉をあなたから聞こうとは。
そもそも最初の攻撃でのS国への徹底攻撃を主導した後、資源を勝手に管理しているのはあなた方でしょう。」
非難の応酬がまた始まった。
リョウはいつもながら首脳たちの単純さと利己主義にへきへきしながら席を立った。
「どうしましたか?」
「いえ、ちょっと体調が、議論が空転しているようですから、今日は私はこれで。」
執務室に戻ったリョウをヘザーが迎えた。
長官就任当初から彼の秘書を務めるヘザーは心から信頼できる部下であった。その美しさに誰もが見とれ、リョウもまた男女の関係を望んだが仕事以外では全くとりつく島のない女性だった。常に冷静ながらまるでサイボーグのような無機質な雰囲気を漂わせていた。
科学や軍事の知識も豊富で、今回の襲来の立案でもリョウを強力にサポートした。むしろ積極的にリョウの背中を押したともいえる。
「今日も憂鬱な顔ですね。また首脳たちのケンカですか?」
ヘザーが珍しく悲しそうな瞳でリョウを見つめた。
「その通りだ。全くこのままでは堂々巡りだ。こんな仮想襲来などというものは早く止めにしなくてはならないのに、相変わらずの利害の衝突だ。」
「彼ら政治家を支えているのが利益優先の企業なのですから当然といえば当然と言えましょう。」
「例の調査はどうだった?」
「これも当然の結果と言えますが、各国の政府ともに特定の企業への便宜が多々見られます。」
「彼らの強欲こそをこの地球から消してしまわなくては。」
「ついに決意されましか?」
「そうだな。やらなくてはならない。そうしなくてはこの茶番が本当の茶番になってしまう。」
「わかりました。よく決断されました。軍幹部への調整も順調に進んでいます。」
「しかしヘザー。僕は大衆の反応がわからないんだ。」
「反応ですか?」
「静かすぎないか?見るからに怪しいこの仮想襲来、もっと疑問の声があがるべきじゃないのか?」
「当初は様々な声があがりましたが、監視システムが有効に機能しています。それに大衆は疲れていたのだと思います。」
「疲れていた、というと?」
「13年前までの悲惨な状況にです。間近な所でも頻発する自然災害や疫病、テロ、同じく間近に見られる自分にも迫る貧困、先細る富をめぐる激しい競争といった厳しい状況に比べ、今は微妙ながらも平穏と安定がほとんどの市民に保証されつつあります。あなたはかつてない安定をもたらしたヒーローなのです。」
大衆の機構への信頼は磐石にみえた。必要最小限の物質と食料は広く平等に分け与えられた。
エアネットを中心とした言論の自由は広く保証され大衆が抑圧を感じることはなかった。
しかしネットの内容は人工知能により細く監視、分析され特に襲来への疑問を論じる動きは速やかに抹消され関係者は巧妙に社会から排除された。
リョウと軍幹部たち自身も現状をニコニコファシズムと呼んでいた。
そんな現状をリョウ自身早く終結させるべき状態と思っていたが、同時に移行期として必要でありまたやむを得ない状況と考えていた。地球が危機的状況を脱するまでは、この一種の戒厳令が必要なのだ。
「にこにこファッショ」。
それはけしてかつての全体主義を彷彿させるものではなかった。
企業を国有化することもなく、ただ市場を監視し皆が必要とするものは機構が公平に買い上げ廉価で流通させる。
ネットや集会は規制されることはなく、ただ高度に進化したAIにより監視され続けられた。
抵抗勢力を組織しようとする動きには、警察及び軍部と連動し内密に、しかし確実に排除する力が行使された。
襲来を決して身に迫る災禍とは感じさせず、しかし地球規模の人類全体の危機であることを認識させ大衆を導く、誘導する。穏やかなでニコやかな大衆の日常は継続されるが、しかし余計な詮索をする者は容赦なく、しかし穏やかに速やかに排除される。
=== 110
ヘザーに元気づけられリョウはさらに先に進む意欲を高めた。
安定してきた経済ではあるが今だ富の配分には大きな隔たりがある。首脳たちを支える企業が優位なのは当然ともいえる。
彼らを、利益にがんじがらめになっている首脳たちを排除し、より多くの人々に配分しなくては。
リョウはヘザーとその準備に集中した。その時執務室の巨大モニターに貧民地区D-Z区での古ビル倒壊のニュースが流れた。
そこに映った貧民たちの中にマットがいた。
いったい、どうしたんだ。
マットはかつてリョウの親友だった。リョウの先輩でありリョウを社会活動に導いた師でもある。またいつかリッチになったら弱い人々の為に活動したいと、様々なアイデアを聞かせてくれたのもマットだった。
会社を起こすといって音信不通になってもう10年以上がすぎている。ニュース映像に偶然写ったマットを見たリュウはすぐに部下に調べさせた。
信じられないことに彼は貧困層が集まるバーチャルカフェに入り浸っていた。カプセル形の安い部屋の中でヘルメット型のバーチャル体験装置に一日中、夢のようなしかし夢でしかない仮想の世界に浸っていた。
マットはかつて俳優として活躍しながら多くの慈善活動に関わり社会派の俳優として特に貧民の間で人気を博していた。
リョウが人気を高める中、マットはより過激な啓蒙映画に傾倒していった。やがて政府や富豪から彼を中傷する記事が流され大衆的な人気は衰えていった。多くの人が見やすい物を優先しヒット作を連発したリョウとは疎遠になっていった。
そして10数年前、致命的な噂が大々的に流された。
マットが少年を虐待していたという噂だ。
何の根拠もない噂だったが捏造された証拠をもとにに基幹メディアはもちろん、かつてマットを重用したネットメディアまでもがマットを叩いた。明らかに反政府的な言動を繰り返し過激化していたマットを潰す陰謀であった。当然ネットを通して激しく反論したマットだったがネットメディアのほとんどから無視された。ついには業界から干される形となった。
マット自身も声高々に政府への批判を繰り返し、それに基づいた啓蒙映画をいくつも自費で創ったが全てが金をドブに捨てたも同然となり、さらにほとんどの財産をつぎ込んだ環境事業が失敗し財産と自信を急速に失い、無気力になっていった。
久しぶりにマットの姿を見たリョウの胸にあの瞬間が蘇る。
リョウを大衆併合した軽い俳優だとけなしたマットに激高し、君こそ自己満足だけの小さな俳優だと吐き捨てたリョウ。
あれからもう10年以上たつのか。
かつてのマットからは想像もできない今の姿を知り、リョウは居ても立っても居られなくなった。すぐさま公用機をD-Z地区に飛ばした。
「長官が来たぞ。」
バーチャルカフェのあるD-Z地区の住民はリュウの登場に一斉に集まって来た。
しかし彼らの目はキャピタルシティでリョウに注がれてきた愛情ある好奇の目とは違っていた。
刺すような敵対的で、冷やかすような視線がいっせいに注がれていた。
リョウはスターの時と変わらぬ笑顔を振りまいたが、居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
そして地区の人々への違和感と嫌悪感が急速に胸の内を支配した。
「こいつら、昼間から何もせずに、、、働けよ。お前らには肉体労働しかないんだから、おとなしく単純労働にハゲメよ。」
車を降りてからリョウを激しい頭痛が襲った。
かつて工場から出ていたスモッグのようなものは今はなかっが、廃棄物や廃ビルから発生する様々な気体が混ざり合い異様な臭気をこの地区に充満させていた。
この地区の悪臭はただでさえ吐き気がするのに加えての頭痛、リョウは急ぎ車に戻りマットの住所に向かった。
突然現れたリョウにマットはおののいた。一瞬、逃げるようなそぶりをしたが、すぐに悟ったような表情で笑いかけた。
まぶしそうにリョウを見つめ「やあ、久しぶり」と笑いかけてきた。
「いったいどうしたんだ。マット。」
リョウは思わず叫んだ。
「この通りだよ。君はすっかり大物になっちゃったなあ、リョウ。」
「いったい何があったんだ。」
「何もないさ。今やそこらじゅうに溢れてる負け犬の一人さ。理想だけのコネも金もない俺にとっては、お決まりのコースだったわけだ。」
環境事業にみごと失敗し今ここに居るわけだが、かつてスターだったマットは今思えばは常に何かに怯えていたように思う。常に人目にさらされている恐怖、人気という全く予測できないものに支えられている俳優という仕事への恐怖。
対して今は誰にも気に留められず、けして楽しめるものではないが気楽な毎日を堪能している。平和な時にはかつてのスターに世話をやく人間がいるだろうが、この非常事態の今、マットはただの小市民のひとりにすぎない。貧民街の配給センターに並ぶことも当初は並ぶことさえ躊躇したものだが今は習慣となっている。かつては自分が配給を施す側だったのだが意外にもそのことを話題にする者もいなかった。マットの顔を見て一瞬立ち止まる者は多いが誰かに似ているなあ、という程度の反応しかなかった。
寂しくもあったが結局この気楽さこそを自分が求めていたような気がする。
貧民街の人々は皆自分の事に精一杯であり、昔話に出てくるような貧しい者同士が助け合う温かいコミュニティなどは何処にもなかった。金持ち特有のものと思われたギスギスした人間関係はここにもしっかりと存在した。
絶望とあきらめの支配する社会。
かつての貧民地区の人々はいつかの家族の発展を願って多くの子孫を残そうとしたものだが、今やそんな気すらおきない者がほとんどとなり彼らはますます高齢化し絶望を加速させていた。
マットの部屋を出ると再びリョウを激しい頭痛がおそった。
マットとの再会を楽しむことなく、苦い思い出と頭痛だけを抱えリョウは足早にD-Z地区を離れた。
ついにそれは実行された。
定例の首脳会議が首脳たちの最後の舞台となった。
会議は毎回恒例となったキャピタル・アイランドの中でも一番の輝きを放つコンベンションホールで物々しい警備の中でとり行われていた。
常夏のキャピタル・アイランド。開発前には切り立った断崖に囲まれた島にジャングルが鬱蒼と生い茂った未開の島だった。気象が荒れれば数メートルにおよぶ高波押し寄せることも頻繁にあり、さらに昨今の異常気象の日常化によりそのままではとても人の住む環境ではなかった。
しかし10数kmにおよぶ海中パイプラインが四方に伸びその先にそれぞれ必要十分の大きさをを持つポートが隣接されており、それらのどれかのポートを使い分ける事で激しく荒れた気象の下でも物流が途絶える事はなく豊富な物資が運び込まれることで豊かな都市が形成、維持されている。
一般の自家用車は禁止されレンタカーとVIPの送迎のみに自動車が利用されるこのキャピタルシティはかつての都市のような喧騒はなく巨大な高層ビルが整然とそびえ立ち並んでいた。
あまりに整然とし静かにビルが立ち並ぶその様は、まるでゴーストタウンのような不気味さを感じさせた。
しかしその日は年に2回ほど開催されるS20の首脳会議が行われるとあって市内は物々しくざわついた空気が漂っていた。
やがて首脳たちが続々とキャピタル・アイランドに到着し会場に向かった。
リョウもまたヘザー以下、機構の幹部を引き連れて会場に入った。
A国大統領の脇には軍幹部のスタットが寄り添っていた。
A国の軍参謀会議の委員であるスタットはリョウが俳優の頃から交流があった。
かつてリョウが主演した映画の撮影に軍が協力したのがきっかけだった。交流を深めるうちに政治家たちの退廃と無力に対する怒りを共有するようになった。
さらにスタットを通してその共有の輪がいくつかの国の軍幹部たちにも拡がっていった。
今や軍の幹部たちは最大の平和主義者といえた。かつてのような力を誇示し武器の使用を面白がるような軍人はもういないだろう。
軍に所属し紛争の現場を知れば知るほど大規模な戦争の無意味さと愚かさを体で感じることになる。また厳しい訓練のなかで怒りや欲望をコントロールするすべを身に付けていた。
対して政治家たちは感情をあらわにするような人間がむしろ大衆に受け、また大衆をまとめるために国際紛争はむしろ必要なものになっていた。紛争が起こることで大衆の怒りを誘導し大衆をまとめることができる。
今回の襲来もまたその手法に乗ったといえる。
政治家が国家のメンツを叫び自分自身を強く見せようと何かと強硬な手段に出ようとし、そんな政治家たちを軍エリートがなだめ抑えるといった状況が各国で多く見られた。
そしてそうした状況にうんざりしている軍幹部が各国に多くおり、彼らの間で内密のネットワークが出来上がっていた。
AIを駆使してネットを監視している張本人である軍幹部のいわば反乱が発覚する事はなく、逆に軍幹部だけが自由にエアネット上で意見を交わすことができたわけで、政治家たちがいがみ合っていた国同士でも軍人たちは冷静に交流を進め地球規模での問題意識を共有していた。
さらに襲来の下での各国の強調がそれを強化させる形となった。
それはあまりにもあっさりと終わった。
首脳たちが集結していたコンベンションホールを何か月ぶりかの襲来の攻撃が襲ったのだ。
マットたち各国の軍幹部が連携して内密に、かつ綿密に準備していたたのだから当然といえたが、警備する側が主導した攻撃はあまりにも速やかに静かに終わった。
ただ一発の巨大な爆音と供にS20首脳はコンベンションホールの残骸の中に果てていった。特に苦しみもなく何が起きたのかもわかならいまま果てたことだろう。
エアネットではこの惨事を伝えるとともに、リョウたち機構幹部の無事を伝え、ひとまずリョウを中心とする暫定政府をもって世界を統治する事、各国の軍部の合意は得ており当面は今までの生活に支障は生じない事を繰り返し伝えていた。
リョウと機構幹部はすでに内密に協定を結んでいた各国の軍、警察首脳との緊急会議の開催準備を進めた。
S20首脳にベッタリだった軍首脳はすでにマットたちによって排除されていた。
かつてのリョウにとって軍は消えるべき敵視の対象に他ならなかったが、長官になって軍事エリートと交流するにつれ彼らこそが大衆を治め、導く集団であると確信するに至った。
力を背景に強引に突き進んだかつての軍人は昔話となり高度な知識と最終手段としての力の行使を理性的に実行できる冷静で忍耐強い精神を持っている
そして軍事力を行使する立場にいながらも、それを行使することの愚かさを熟知している。
何より政治家のような欲に惑わされる虚栄がない。
廃墟と化したコンベンションホールを遠めに機構本部のビルは傷ひとつなかった。
長官執務室は妙な静けさに包まれていた。
リョウは鏡を見た。
長い道のりだったがこれが俺がやりたかった事なのだ
世界を変え地球を、危機的な地球と人類を救う
それが今、ついに実現された。
リョウの表情は達成感と高揚感に満ち溢れていた。
その時、リョウは無性にマットに会いたくなった。
先日の再会はほろ苦いものだったが、別々になる直前までは親友であり師でもあったマットに会って今後の事を話しあってみたくなった。
何よりマットに褒めてほしかった。今の地球を良くするために最善の道を俺は導いたのだ。
機構ビルからエアジェットを飛ばしマットの居るDZ地区に向かった。
エアジェットを降りたリョウをまた激しい頭痛が襲った。
先日の訪問と同じ激痛だ。ここでの独特の臭いが原因なのか。
ひとまず地区センターの古いビルにあるバスルームに入った。
先の首脳暗殺のニュースはここにも流れ、世間に無関心なこの地区の人々もさすがに警戒し自宅に籠っているようだ。地区センターのショッピングモールもほとんど人が居ない。
その時リョウの耳から何か虫のようなものが突如現れ素早く飛び去った。
何だあれは?虫か?いやただの錯覚だ。何も気にすることはない。ただのゴミかもしれない。妙に気になるリョウだったがしかし、それ以上に突如違和感のような奇妙な感覚が襲った。つい先ほどまでの高揚感は何だったのか。何にあれほど高揚していたのか。
待てよ、俺は、第三市民の、貧しい人々の減数措置を唱えていたぞ。
何を、なんということを俺はしていたんだ。
この俺が、ラブ&ピースを訴え信条としてきたこの俺が何故だ。一体どうしたというんだ。
全ての人類の共生と博愛を目指して指導者になったはずではないか。
リョウはバスルームを飛び出すとエアジェットで機構に引き返した。
その時リョウの目の前に先ほどの虫らしきものが現れリョウの耳元に停まったかと思った瞬間消えた。
機構ビルに戻りヘザーの部屋をふいに訪ねたリョウの目に入ったのは信じられない光景だった。
横たわるヘザーの頭が割れ中からミツバチが羽を震わせていた。
ミツバチ、といっても見たことのないようなカラフルな色を虹状にまとったハチだ。
いつか見た巨大な巣に群れるミツバチはぞっとするような恐怖感をおぼえたが、そういった感覚はなかった。
まるでヘザーが機械でそれをいたわる様にメンテナンスする小人たちのように見えた。
それを見た瞬間、リョウはヘザーが虫に襲われていると思った。
リョウが部屋に入るやいなやハチたちは素早い動きでヘザーの頭内に入り込みヘザーの頭が何もなかったように元に戻った。
ヘザーがむっくりと起き上がったが以前にも増して不気味なほど機械的な動きであった。しかし変わらぬ声を発した。
「ついに見られてしまいましたね。」
「お前は、お前たちは何者だ。何処からきたのだ。ヘザーを操っていたのか?」
「そう思ってもらってもかまいません。我々はある意味襲来の首謀者と言えましょう。」
「あのUFOの主はハチだったのか。」
「我々をどうするつもりだ?人類は地球には有害という事か?」
「確かに現在の人類の存在は地球にとって絶望的な状況といえます。しかしけしてあなた達を絶滅させようなどとは考えていません。ここは本当に美しい星です。我々の星も美しいが、それに並ぶ美しさです。我々にとって宇宙での最高の観光地です。
「観光地?」
「そうです。あなた方の作った宇宙戦争の映画をいくつか観ましたが、あのように地球を支配する理由は我々にはない。自分の星で全て足りているからです。
しかし我々と似た、あなた達が呼ぶところのミツバチの惨状を見て行動を決意しました。」
「ミツバチ達をどうしたんだ。」
「我々の星に送りました。」
「彼らと話せるのか。」
「いえ、彼らには知能はありませんから。むしろ当初は見かけが似ているだけに強敵が現れたと思われ攻撃された仲間も多い。
しかし我々が仲間だと分かるのに時間はかかりませんでした。」
「ミツバチが消えているのは知っているが原因は分かっていなかった。地球にはもういられないという事か。」
「ミツバチにとって致命的な化学物質がいくつも地球に蔓延してしまっています。それらが消えるまでは難しいでしょう。」
月の裏側は漆黒の闇に包まれている。
謎のUFOが発見された北極の真下10kmほどの地点のちょうど真裏にあたる場所に巨大なクレーターがある。
無数に点在するクレーターの中でも群を抜いて巨大なそのクレーターは深さが200mにもなりその穴の底は月の中心までも続いているかのような深い闇が拡がっている。
その巨大な穴の西側の側面にはえぐられたような洞窟状の空間が広がっている。
高さ50mにも及ぶその洞窟もまた音ひとつ無い漆黒に包まれている。
しかしその空間には空気が入れられた様で奥から音が発している。
そこに宙蜂の基地があった。
地球の蜂と同様に女王蜂らしき大型の蜂を守るように小型の蜂がぎっしりと内向きに連なっている。
そんな蜂の集団がピラミッド形の塊を成していた。
その塊が数十整然と並び輪となっている。
巨大な輪は薄い空気に覆われ塊の中で無数の蜂が羽を鳴らし相当な音量となって周りにこだましている。
さらに数十の塊は互いに羽音を鳴らし合い互いに会話しているようだ。事実これが宙蜂の会話である。
「ついに我々の正体が知られてしまいましたね。リョウは間引きをストップするつもりのようですね。」
「すでにかなりの者が間引きされ、環境の数値も良くなっています。この先はリョウの好きなようにさせてよいのでは?」
「いいや、ここで止まったたらまたすぐに逆戻りです。もっと徹底してもらわなくては。2百年前に最初に訪れた時の美しい地球を取り戻させるのです。」
「何よりリョウが昨日駆け込んだような汚らしい貧民街はひとつでも多く、一刻でも早く無くなってほしいものです。」
「そうです。ここまできたら、あの汚らしい貧民たちも消して欲しいものです。」
「そろそろ次のリーダーが必要ではないでしょうか。」
リョウはまた突然マットのもとを訪ねた。
驚くマットだったがマットの方でもわだかまりは消え暖かく迎えようとした、その時リョウが叫んだ。
「俺を殺してくれ。」
リョウは震えながらマットに話した。
宙蜂による洗脳の疑いと自分が操られるように今回の首脳抹殺まで進み、さらに貧民達を減らす計画も立てていた事を。
そしてこのDZ地区の悪臭が宙蜂には耐えられないらしくここに来て洗脳が解けたと思われる事を。
翌日、機構本部に戻ったリョウは新政府の概要を発表すべく演説に向かっていた。
演壇に立ったリョウはもはや昨日のマットとの誓いも遠い記憶の片隅に追いやっていた。いや追いやられていたと言うべきか。
美しい理想を追っているだけではこの危機的な地球を救うことはできない。リョウの心の中は貧民街への攻撃の必要性に駆り立てられていた。
俺は操られているのか? いやそんなはずはない。これは俺の意思だ。俺が地球を救うのだ。この俺が地球を救うのだ。その為には堕落した無責任な輩は排除しなければならない。
しかしその排除に私が荷担する事はあってはならない。
大衆に嘘を言うことになるが、間抜けな大衆を導く為には嘘も必要だろう。この演説は襲来がまた激しくなってきたことを告げ、皆のより強い団結を呼びかけるものにしよう。
そして当然次の襲来のターゲットはあの汚らしくいまいましい貧民街だ。
マットがじっとリョウを見つめている。
何もかも見透かしたような目で、
気に入らない。あの貧民街のやつらと同じ目だ。
銃声は会場をパニックに陥れた。
リョウの頭を貫通した弾は一瞬の意識をリョウに残した。
その瞬間昨日のマットとの約束が、誓いがリョウの頭に蘇った。
薄れゆく意識の中で、飛び散り粉々に砕けるハチを確認した。慌てふためいて逃げてゆくハチも、、。
やったか、マット、、やってくれたか、マット、さっきまでの彼への憎悪は瞬時に消え失せたがしかし今思えばそれも本心だった気もする。
宙蜂が言っていたように私の本心はそっちだったような気がする。
わからん、所詮私は優柔不断な自己中な男だったからな。よくぞここまできた。これからどうなるか分からないが俺は地球の団結と経済の調和をもたらした偉人として歴史に残るだろう。偉人になれたんだ。宙虫にも感謝しなくては。
晴れやかな気分に浸りながらリョウは果てた。
マットは銃の扱いには慣れていた。かつて主役級で出演した多くのアクション映画の数々の中であらゆる種類の武器を扱った。リョウに渡された銃は最新式のものでいくつか見慣れない細いボタンが装備されていたがすぐに理解した。常に役に成りきりそれに没頭したマットは銃の腕前も相当なものになっていた。
弾道はリョウの頭部に見事に命中した。
しかしリョウの警備は何か手薄だった。確かに、リョウが言っていたようにこの数年に及ぶ戒厳体制と反体制への巧妙な攻撃、その結果リョウを陥れようとする動きは無いに等しいと言えた。しかしそれにしてもリョウの周囲の警備は適当といってもよい状態だった。
マットが逮捕され監禁されていた2週間の間、
エアネットの上では急転直下の事態となっていた。
人類統合の象徴であったリョウが暗殺されたのだから世界中がパニックに陥ってもおかしくない状況だったが
しかし不気味なほどに世界は落ち着いていた。
この2週間の間四六時中流されていたリョウの首脳抹殺への関与とそれに続いて流されていたリョウの不正の数々を暴く映像だったが
多くの市民が冷めた目で絵空事のように眺めていた。
それまでも襲来そのものがまやかしであるという疑念は、
ネットの外の権力が関与しない市民の日常では、当然のように語られていた。
しかし奇妙に調和し最低限の豊かさを実感できる現在の状態を
ただ漠然と受け入れている、という空気が地球全体を覆っていた。
2週間の間放置された後、やっとスタットがマットに面会に現れた。
暗殺後の逮捕の時のスタットの穏やかな、何事もなくマットを迎えたような表情はマットを不安にさせた。
「久しぶりですね、マット。とても懐かしいですよ。」
スタットはマットに手錠をかけながら微笑みかけた。
とても暗殺犯を逮捕する状況とは思えない。
まるで普通に旧友に再会した者のような気安さだった。
マットは監房に移送され今に至っている。
その時、スタットが思いもよらぬことを言った。
「マット、あなたにリョウの次の指導者になってもらいたい。」
マットが新しいリーダーに推される、、
スタットからそう告げられた時は、何のことを言われているのか全く腑に落ちなかったマットであったが
かつて積極的に発言し活動していた時の自分の映像を見せられるうちにかつての熱い想いが沸き上がってくるのを感じた。
あの時、10数年前にDZ地区に移り住んだ時の彼は自分へのパッシングが信じられずただただ逃げた。
それまでは自分を仰ぎ見るように扱ってくれていた人々が多くいてそれを当然のことと思い込んでいたマットだったが、あの虐待騒動を境に世間の目が180度反転したのを感じた。
しかし10数年に及ぶ貧困生活を経てあの輝く日々がただの夢であったと確信するに至った。
しかし、今また俺の本来の道が開けた。そうだ、俺は人類を導かなければならない。
不正を重ねたリョウを倒し、かつての理想を掲げ蘇った不屈のヒーローとしてマットの名が一気にネットを駆け巡った。
マットはスタット達を引き連れ各地を廻った。
DZの住民はマットを拍手で迎えた。
しかしかつてここの住民であったマットから見れば
その拍手の意味するものは明白であった。
リョウがここを訪れた時のあの雰囲気、空気をマットは思いだした。
まるで子供をあやすように褒め上げてあげるだけのような見下した雰囲気が漂っていた。
当時のネットの映像を見る限りリョウは大歓迎を受けていたように見えるが、実際にはリョウと地区の自治委員とその取り巻き過剰なまでの歓迎をしていただけで
リョウの居た場所から離れた所から見つめる人々の目は一様に冷めていた。
リョウとの仲違いの過程でリョウのいわゆるミーハー路線、もしくは大衆併合路線とでもいうものを批判し
その浅はかさをある意味バカにしていたマットからすればリョウを迎えた時の視線はおのずと軽蔑を含むものになったであろうが
マット以外の一般の住民までもがまるで軽蔑したような目でリョウを眺めていたことにはマットも驚いた。
映画やドラマで政治家や権力者が強欲な偽善者として描かれるようになって久しい。もう何十年も前から権力者はあさましくセルフィッシュな者と定義されてしまったかのような空気が世界を覆っていた。
そして現実の権力者に対しても称賛や礼賛といったものを投げかけることは全くなくなっていた。少なくともメディアやネットの上ではむしろ滑稽な欲の固まりとして権力者が扱われていた。
そんな現実を前にマットの中に言いようのない怒りが湧いてきた。
こいつらが、ただ無為に生きてるだけのこいつらこそが地球を汚しているのだ。何とかせねばならない。
その時マットの前をハチが飛んだ。
そういえばリョウがそんな話をしていたなあ、、。
続く、、、
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