乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

幽霊城の予告状

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「あっつう~……」

 シャンポリオン国に夏がやってきた。
 テラスでそよ風を受けながらアイスティーを飲んで涼む、という目論見は脆くも崩れ去った。
 そよ風どころか、一片の風もないんですけど。
 じりじりと太陽が地表を焼いている。テラスに張り巡らされた天幕は意味を成さず、アイスティーのグラスは表面をいくつもの雫が伝っていた。
 デッキチェアに凭れながら遠くの蜃気楼を半眼で見遣っていると、声だけは涼やかな執事が告げた。

「坊ちゃま。アラン警部とバルス刑事がお見えです」
「久しぶりだね。お通しして」

 最近は乙女怪盗の活動もないので、必然的に特別国王憲兵隊としての任務も減った。というか暑いので何もやる気になれない。全国的に夏は休暇で良いと思う。

「うわぁ~……」

 応接間に入ったノエルはアランの姿を一目見て、素直にげんなりとした。
 この酷暑のさなかに、ぴっちりと長袖の制服を着込んで制帽を被っている。それにもかかわらず汗ひとつ掻いていない。
 その服の中には氷でも仕込んでるんですかね?

「予想どおり、だらけてるな」
「アランがきちんとしすぎなんですよ……。だらけましょうよ」

 麻で編まれたチュニックという格好のノエルは、だらしなく椅子に凭れた。シュミーズを腕まくりして適度にだらけているバルスバストルは、肩に掛けた制服の上着を下ろし、リラックスして着席する。

「ああ~暑かった。フランソワさん、僕もアイスティーお願いしますウフ」
「はい、ただいま。氷を沢山、お入れましょう」
「わあ~いウフッフ~」

 やれやれと肩を竦めて、アランはすっかりだらけている面々を見据える。

「暑さにだらけるおまえたちに朗報だ。涼しい避暑地に行ける機会がやってきたぞ」
「え、避暑地? ニルス辺りですか?」

 貴族や富豪が休暇に訪れる避暑地といえばニルスが有名で、近隣の貴族たちも皆バカンスに出かけている。ノエルはといえば、引きこもりたるもの休暇になど行けないというわけで、夏の避暑地とは無縁だ。それに宝石を呑んだ狂気人形たちを置いて、屋敷を留守にするわけにもいかない。
 颯爽と海風がそよぐ避暑地のイメージを、アランは無情に一掃する。

「ロランヌ地方にある、ラ・ファイエット城だ」
「え……。もしかして、あの、幽霊が出るっていう有名な城ですか」

 ラ・ファイエット城は北部の高山に建てられた陸の孤島というべき古城で、幽霊が出るという噂がある。

「幽霊はともかく、乙女怪盗は出るらしいな。先日予告状が届いたと城主から連絡があった」
「はい?」

 出してませんけど?
 と、声高に訴えようとしたノエルは慌てて口を噤む。
 いくら涼みたいからといって幽霊が出るという噂の古城に予告状を出したりしない。ノエルは幽霊がとても苦手なのである。夜はひとりでトイレットに行けないので、自室の隣を改装してトイレットを付けたくらいだ。これでも乙女怪盗です。

「城主のラ・ファイエット侯爵が所有する『天空の星』が狙いらしい」

 ノエルはアイスティーを吹き出した。咳き込んでしまい、フランソワにハンカチを宛がわれてようやく呼吸を整える。

「それって、まさか……!」
「一三年前にコレット伯爵家から盗まれた宝石と同じ名前だな。ラ・ファイエット侯爵と面識はあるのか?」

 ノエルは首を横に振る。

「ありません。父の友人というような話も聞いたことがありませんね」
「なるほど。侯爵が『天空の星』を盗んだ犯人ということも考えられるな」
「まさか! だって侯爵閣下なんですよ?」

 そういう私も伯爵ですけど!
 ラ・ファイエット侯爵に会ってみたい。仮に彼が盗んだとしても、何か事情があるのかもしれない。やっと捜していた宝石が見つかるのだ。
 ノエルは俄然やる気になった。

「ラ・ファイエット城を訪ねれば何かわかるだろう。行くか?」
「もちろんです!」

 力強く頷く。バルスバストルは笑顔を弾けさせた。

「わぁ~い。お城でディナーが食べられますね、楽しみですウッフフ~」
「バルスは留守番だ」
「えええええ~~~~どおしてええ~ウグ~」
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