乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

不気味な侯爵閣下

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 アランは口火を切った。

「警察本部のアルセーヌ・アランです。こちらは……」
「特別国王憲兵隊のノエル・コレットです」

 末席に腰掛けたフランソワは黙って頭を下げた。侯爵に名乗るのはおこがましいと思ったのだろう。

「早速ですが、乙女怪盗から予告状が届いたそうですね。ラ・ファイエット侯爵の所有する『天空の星』を盗むと」

 侯爵は肩を上下させて、くぐもった咳をした。笑っているらしい。

「一応警察に連絡しましたがね……世間を賑わせている乙女怪盗とやらでも、『天空の星』を盗むことは不可能なのですよ……」
「油断してはなりません。奴はこれまでに予告状を出した宝石はすべて盗んでいるんです」
「フフ……そうですか。皆さんは数日城に泊まられてから、お帰りになったらよろしい……」

 盗まれない自信があるようだ。人気のない古城で、しかも警官隊も呼ばずにどうやって宝石を守ろうというのだろう。偽物の乙女怪盗でも簡単に盗めそうだ。
 ノエルは遠慮がちに申し出た。

「ラ・ファイエット侯爵。実は、私の家から一三年前に盗まれた宝石も『天空の星』という名前なんです。もしかしたら、侯爵の所有するものと同じ品ではないでしょうか? もちろん、侯爵の宝石が盗品だと疑うわけではないのですが」

 気を悪くするかもしれないと思ったが、侯爵は簡単に否定した。

「それはありえないだろう。我が侯爵家に代々伝わる『天空の星』は三百年前から、この城の、同じ場所に保管されているのだ……」

 三百年も前から。
 では、やはり違う宝石なのだろうか。
 肩を落としたノエルだが、捜していた『天空の星』ではないからといって諦めるわけにはいかない。偽の乙女怪盗から予告状が届いているのだ。この一件に決着を付けなければ、偽物に濡れ衣を掛けられてしまう。

「侯爵の『天空の星』を拝見させていただけませんか? 宝石がどのように保管されているのか、どうして乙女怪盗に盗めないのか、私たちも把握する必要があります」
「よろしい……。来たまえ」

 ラ・ファイエット侯爵はゆっくりと立ち上がり、ひどく曲がった腰で歩き出した。かなりの高齢らしい。手を貸そうとノエルが近寄ると、掌を翳して遮られてしまう。

「私に近づかないでくれたまえ。生者の手は熱すぎてね……」
「はい……。失礼いたしました」

 本当に幽霊ではないかと思わせる陰気な空気が漂っていた。
 応接間を出て廊下を曲がると、先ほどの猫耳メイドが角からこちらの様子を窺っていた。ノエルの視線に気づいて、さっと身を隠す。何をこそこそしているんだろう。
 アランもフランソワも硬い表情で、ひと言も語らない。
 ラ・ファイエット城の異様な雰囲気に呑まれそうだ。
 侯爵の後を追い、塔の螺旋階段を上っていく。最上階の鉄の扉に、侯爵は鍵を差し込んだ。

「ここだよ。宝石を保管しているのは……」

 室内の床には色褪せた絨毯が巡らされ、昔の栄華が覗えた。がらんとした部屋の中央に、宝石を鑑賞するケースが設置されている。剛健そうな台座と接続されていて、床と固定された造りだ。

「これが、『天空の星』ですね」

 宝石は深い青色をしていた。表面は琥珀のようにつるりとしている。透明感に溢れているのでターコイズとも違う。大きさは胡桃くらい。
 ノエルは息を呑んで宝石に見入った。

「色が変化している……。光の加減じゃないですね。宝石そのものがカラーを変えている」

 ゆるりと青から薄くなり、水色に変わる。まるで水面を見つめているようだ。

「よくぞ気がついたね。そう、この宝石は生きているのだ……」

 少し離れたところから侯爵は、宝石を取り囲んで眺める一同に告げた。
 アランとフランソワも珍しそうに凝視している。

「変わってるか? 青のままだろう」
「若干でございますね。ずっと見ているとわかりますよ。ほら、水色から青へ戻ろうとしています」

 こんな宝石は初めて見た。今まで盗まれなかったのが不思議なくらいだ。
 ノエルは台座に据えられた石版のようなものを注視した。

「これ、何ですか?」

 ショーケースに鍵を付けるのはわかるが、これは代わりに石版がくっついている。石版にはランダムにアルファベットが描かれていた。

「これこそ、『天空の星』を守る仕掛けだよ。解いてみるかね、伯爵……」

 よく見れば、枠となる大きな石版に小さな石版がカードのように嵌め込まれていた。そのひとつひとつに文字が一文字ずつ書いてある。

「空いてるとこあるね。動かせるのかな?」
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