こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子

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第三章

王都の審査会

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 イディアの王都は絢爛さと粗雑が攪拌された都会だった。人混みの中を馬車や力車が走り、軒を連ねる商店は天井まで商品が積まれている。喧噪溢れる街の中心部に、豪華な宮殿や閑静な公園が広大な敷地に佇んでいた。カースト上位のクシャトリヤやバラモンの居住区だ。街を囲むように質素な家々が建ち並び、平民のヴァイシャや隷属民のシュードラが生活している。

「ルウリぃ。僕もう吐きそうだよ。何でこんなに人が多いの?」

 パナは肩でぐったりとしていた。初めて王都を訪れたので無理もない。ルウリも遠い王都に来たのは初めてで、人や物の多さに驚いた。街は人混みだらけで、どこへ行っても肩がぶつかるほどだ。村人全員が顔見知りのエルナ村とは大違いで、一週間かけて辿り着いただけあって同じ国内とは思えない。

「もう大丈夫よ。ここからは人が少ないわ。宮殿の区域みたいね」

 本日は審査会が行われる日だ。
 審査会場である宮殿前の広場には、星玉師たちが続々と訪れている。いずれも腕に覚えがありそうなベテランの者が多く、登録所に並んだルウリは一番年下のようだった。
 受付の女性が登録を済ませる星玉師たちに声をかける。

「登録して頂かなければ審査会には参加できません。以前不合格となった方はこちら側にお並びください」

 一度不合格になると後回しにされるようだ。
 新規の列に並ぶ星玉師たちは皆、誇らしげに顔を上げている。自信があるのだろう。
 ルウリはそっと、自らが選んだ星玉が入った腰袋に手をやる。
 黒いもやを解放したシダルの葉が内包された星玉。
 それに、貝が内包された星玉がもうひとつ。こちらは市場から購入したものだ。
 ラークは、一度も工房を訪れてくれなかった。
 けれど、今日はこの場に来ているのではないだろうか。
 辺りを見回したけれど、ラークの目印である純白のローブはどこにも見えない。列が進み、順番が来てしまった。咄嗟にルウリは受付の女性に話しかけた。

「あの、友人がまだ来ていないのですが、先に登録だけを済ませてもよろしいですか?」
「では連名でどうぞ。許可証を確認させていただきます」

 名簿に名前と支部を記載する。ルウリは名前の欄に、ラークの名も連ねて書いた。
 とりあえず名前だけでも記入しておけば、もしラークが遅刻しても対応できる。
 許可証を差し出すと、女性は指紋を照合した。

「お返しします。御友人の支部も北部ですか?」
「ええと……わかりません」
「では許可証を拝見した時に確認致します。後ほど忘れずにお持ちください」

 はい、と頷いて列を後にする。
 ラークも許可証を持っているはずだ。鉱山での一件を思い出す。
 番兵がむけた、汚いものを見るような視線。
 どうしてだろう。ラークの態度は、侮蔑を向けられるような類いのものではなかった。許可証に何かあるのだろうか。
 審査会までは未だ時間があるので、星玉師たちは街へ戻っていく。ルウリは公園を散歩することにした。荒涼とした大地が多いイディアだが、ここは瑞々しい緑が溢れている。
 さらりと風が吹いて、紅い髪が攫われる。ルウリは髪に挿した簪を、すいと外した。
 簪の先に挿した星玉は、黒ずんでいた。これはルウリが星玉師に成り立ての頃に作成したものだった。鉱山で発掘した鉱石と時を同じくして、黒いもやに包まれてしまった。

「ねえ、ルウリ。どうしてあいつの分も登録したのさ」

 羽をはばたかせたパナは、乱れたルウリの髪の毛を更に掻き回す。

「だって、ラークもラクシュミに興味がありそうだったもの。今日、必ず来ると思うの」
「来るのは勝手だけどさぁ。あいつ、何もしてないじゃない。星玉ふたつ持ってきたけど、ひとつはあいつの分なんだよね?」
「そうだけど、パナはラークのこと嫌いなの?」
「僕はルウリ以外の人間はみんな嫌い」

 つんとくちばしを空に突き出している。その仕草に、ルウリはくすりと笑いを誘われた。
 パナのように精霊が人嫌いというのは至極当然のことである。
 神・人・精霊が住まうイディアでは、異なる種族が交流することは滅多にない。人は人同士、精霊は精霊同士が固まって暮らしている。ルウリ自身もパナ以外の精霊とは出会ったことがないので、精霊や神たちがどんな生活を送っているのか知る由もない。
 時折耳にするのは、神への畏怖、精霊への侮蔑。
 人の世界で行われているカーストの身分制度と同じように、神より下等な人、人より下等な精霊という順位が敷かれているようだ。それも人が決めただけで、神や精霊がどのように思っているのか定かではない。
 皆が仲良くすれば良いのにと、ルウリは思う。
 身分など気にせず、互いの人柄を知ろうと歩み寄ることはできないのだろうか。
 それを大人に話したら、笑われたあと「大人になればわかる」と言われたことがある。
 何がわかるのだろう。
 冒険をせず狭い世界で、手近な人々と交流して生きるのが得策だと悟ることだろうか。
 けれど既に、ルウリの元にはパナがいた。
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