ヘブンズトリップ

doiemon

文字の大きさ
24 / 25

真実

しおりを挟む
 太一には、警察のやっかいになったことを省いて、今回のことを話してやった。
 すっかりストーリーテラーになった俺は声を低くして、心霊番組の語り口調で、暗い山道を車で走ったことなどを大げさに話した。
 話を聞き終えた太一は、「思い出したら今日寝られないかも」とずいぶん怖がっていた。
 その後、
若い小児科の先生が俺たちの側に来た。
 「太一君、お母さんも来たみたいだから、診察室でお話しよう」
 「は~い」
 陽気に返事を返した太一はヒョイと椅子からジャンプして先生の後をついていく。
すぐにまた振り返り、こっちを向いた。表情は固い。
 「フミ君。お兄ちゃんにも話しておいて、友達だから」
 「ああ、わかった」
 そういってまた歩き出し、先生と一緒に歩いた先には太一の母親と思われる女性が立っていて、先生に軽く会釈をした後に三人とも診察室に消えていった。

 ずっと、キーボードをカタカタ打っていた史彦の手は止まり、口を開いた。
 「手術するんだって」
 「えっ?」
 俺はすぐに悪いことを想像してしまった。
 「腫瘍が大きくなって、危険な状態だって。転移する可能性だってある」
 俺は太一に何も言葉をかけてやれなかったのが悔しくてたまらない。あいつは笑顔をで俺たちの前から歩いていった。数日会わなかっただけで、たくましくなったのはあいつのほうかもしれない。
 きっとあいつのことだから、お母さんに心配かけないようにとして、医者にどんなことを言われても、涙をこらえて笑顔を見せるだろう。
 「俺たちにできることは少ないぜ。あいつが戻ってきた時に前と変わらず迎えてやればいい」

 「お前、学校行ってないんだって?」
 「あっ?」
 とぼけた様子で返事をする史彦。
 「そろそろちゃんと出席しとかないと、本当にやばくなるぞ」
 「うん、ああ。そうだろうな」
 全然、聞いていないような曖昧な声しか出さない。
 「休んでる間、ずっと家にいたのか?」
 「いや、例のこと調べるために図書館行ったりしてた」
 ただサボってたわけじゃない。その理由を聞いて俺はこいつの行動を否定することはできなくなった。

 「お前のこと、太一に聞いたぜ。ケンカでこの病院にかつぎこまれたって」
 いきなり触れられたくない話題に変えられて、たじろいだ。
 「ケンカじゃねえよ。あいつベラベラしゃべりやがって」
 「ひとりでケンカする根性あるんだな」
 「ひとりじゃなかったよ」
 「えっ? そうなのか」
 自分で答えて、イヤなことを思い出してしまった。俺は自然と包み隠さず自分が降りかかった悲惨な出来事を話した。
 ヤクザみたいな連中に一方的にからまれて、殴られて気絶したこと。
 友達が一緒にいて、先に逃げてしまったこと。
 警察には俺しか関わっていないことにされたこと。
 学校に行ってもその友達とはしゃべらなかったこと。
 史彦は薄っぺらい反応しかしなかったが、俺はそのことを話したら、少しだけ楽になった。
 学校に行って、自分の胸のうちに挟まっていたものが、よりきつく引き締めらた。
 それが今、スーッと痛みもなく、上に抜けていったような感覚になった。
 
 「明日以降は学校に行くよ」
 俺が聞いたわけでもないのに史彦はそう言った。
 史彦だって何も考えてないわけじゃないだろうし、俺もうなずいただけですぐに病院を出た。
 
 何日か後の放課後、帰り際の俺の前に史彦が現われた。以前の俺なら史彦のみたいな学年でも変わり者扱いされているやつに話しかけられることとは嫌がっただろう。けど今の俺にはそんな変なプライドを守る必要もない。
 思っていたら、史彦のほうが周囲を気にしてコソコソと話始めた。
 「どうだった?」
 「何が?」
 「警察に本当のことを言わなかった友達二人のことだよ」
 楠木と川田のことだ。あれ以来、口を交わすこともないけど、煮えくりかえるような感情も特にわいてこない。
 「いや、別に何にも話してないけど」
 「何とも思ってないんだ」
 「そういういうわけじゃないけど」
 「じゃあ、仕返しでもする?」
 「えっ?」
 「ちょっと面白いこと見つけたんだ」
 史彦はニヤニヤしながら話を続けた。
 「あいつら放課後に誰もいない職員用のトイレでタバコ吸ってたよ。あそこのトイレは生徒は使わないから様子を確かめに後をつけてみた。そしたら一番の奥のところから煙が上がってて、においがした」
 「そうか、あいつら構内でずいぶん大胆なことするようになったな。それで、仕返しってどうするんだ?」
 俺はあんまりおどろかなった。
 「上からバケツで水でもかけてやれば?」
史彦の提案してきた仕返しの方法は単純すぎて、仕返しと呼ぶのも恥ずかしいほどだった。
 「それじゃ、すぐばれるだろ。追いかけてきたら、出口は一つだぜ」
 その時は乗り気じゃなかった。
「大丈夫だよ。あのトイレは一階だし、奥に中庭に通じる窓があるから、そっから逃げれば、バレないと思う」
 俺は首を縦に振ったつもりはなかった。 
「じゃあ、決まりだな」
 成り行きというより、史彦が楽しそうにしているのが気になった。
 コイツ学校でもこんな楽しそうな顔するんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...