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お仕置きのお時間
182. あとは若い二人で話しな
エディットに徹底的に絞られて、アロイスは心底から反省したようだった。
私としては彼がそんなに気にすることなんてないと思っているのに、アロイス本人はもちろん、ほかの人もそうは思ってくれなかった。
「セレ様、あんたは甘いよ。きっちりこの男に怒ってやんな」
エディットは私を一瞥し、ちょっと眉尻を吊り上げた。
ものすごく迫力たっぷりだ。これなら大抵の相手は震え上がるだろう。
「つうわけだから、あたしらは先に出とくよ。コルネイユさん、あんたもだ」
「え。いや、しかし私は……」
「あんたは廊下だ。いいね」
「……承知した」
エディットさん、強い。
眼光ひとつでコルネイユさんに廊下の見張りを納得させてしまった……!
エタンがコルネイユさんの肩をポンと叩き、どことなく理解に満ちた目で廊下に促す。
このあと仲間の商売の様子を見に行くエディット親子と異なり、エタンもまた見張り組なのだ。
ずっと立って警戒するのが役目というのは、案外とても大変な仕事だと思う。
今度何らかの形で、彼らをねぎらってあげられればいいけれど。
そうして私達二人以外の人間が、逆らうことも許されず部屋の外に「ホラホラ」と追い立てられてゆく。
リュカだけが解放感に満ちた顔でホッとしているのが印象的だった。
そして私達は、宿の個室に二人きりになった。
とはいえ一応、ドアはこぶし大ぐらいの隙間を開けていて、すぐ外の廊下にはエタンとコルネイユさんが立っている。
お馴染みの魔道具を使っているので、彼らに私達の会話が筒抜けになることはない。
考えてみれば、こんな風に二人きりで向かい合うのは久しぶりだった。
今まで誰かしら傍にいたものだから、たとえテーブルを挟んでいても、アロイスと私しかいない状況は少し緊張した。
それと同時に、どうしてかこの緊張感は、胸の中に妙な懐かしさを生じさせる。
――この感覚、前世でも覚えがありますわ。……あ、もしや。
1on1だ。
いや待て、違う。アロイスは上司ではない。
打ち消した直後に「あら?」と頭が混乱した。
頭領は上司にあたらないのだろうか。
「すまん」
いきなり謝られ、あらぬ方向に行きかけていた意識が正面に戻された。
「あの、ええと、アロイス様が……」
「まずは謝らせろ。その必要はない、というのは無しだ」
苦笑とともに機先を制されてしまった。
「エディットの言う通りなんだよ。俺がとんだ阿呆だった。こちらを先になんとかしておかなければ大事になると、そればかりで頭が一杯になって……肝心のあんたを置き去りにしちまってた」
深い後悔を浮かべた顔で彼が話してくれたことによると、やはり先ほど推測した通り、私が自分の欲望のままにあれこれ女神にお願いをするとは心配していないそうだ。
おかしな祈りが叶えられている事実を隠していた理由も、『聖女』を心底辞めたがっている私に、『もろ聖女でしょ』という証拠を突きつけるのは躊躇われたからなのだと。
「ですけれど……聖女、ですの? わたくし」
「そうなるんじゃねえ?」
「まるで実感が湧きませんわ」
これだけいろいろ聞かされているのに、まだピンとこないのだ。
私が聖女?
……なにそれ、おいしいの?
多分間抜けっぽい顔になっている私に、アロイスは頬杖を突いて不思議そうに片眉を上げた。
「耳タコの質問をするけどよ。あんたは聖女お断りなんだよな?」
「お断りですの。初志は現在も揺らいでおりませんわ」
「もうロラン王国の連中が無関係になったとしてもか?」
私はフ、と視線を遠くにやった。
「付きまとい男と同じでしてよ。こちらがどれほど拒絶しても、しつこく寄ってくるのですわ。仮にわたくしが『本物』であるなどという話になれば、一度返した手の平をまたコロリと返して、正当な聖女の保護者は自分達だなどと主張を始めるのではありませんかしら。そして知らぬところで勝手に名を利用するに違いありませんの」
「……すげぇ有りそうだな」
仮にロラン王国のあの人達がおとなしくしていたとしても、彼らの同類は大勢いる。
聖女、めんどい。これしか結論が出ない。
ここまで喋って、アロイスが不思議そうにしている理由がわかった。
日頃からこんなことばかり言っているのに、私はどうやら女神様に贔屓されているのである。
「わたくしが目をかけていただいている点については疑問が尽きませんけれど、天罰が下らない点については別段おかしいことではないと思いますのよ」
「――女神を敬愛する気持ちは損なわれていないから?」
「その通りですわ」
いくら聖女をやめたい発言を繰り返していようと、私は女神を信じることまでやめる気はなかったのだから。
だってこの世界、女神様が実在していそうだなと思っていたし。
……本当、やめなくてよかった。
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