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『元』聖女、行きたくないけど方向転換
224. こう見えて国家事業
この国の名はエウラリア王国といい、私がロラン王国で受けた教育の中では、ただの一度も耳にしたことがなかった。
王国なのにメルシエ公国よりも小さく、経済力もないという話だから、歯牙にもかけていなかったのだろうと想像がつく。
丘陵地帯が多く、各地で放牧などが行われ、畑にできる平地は少ない。
基本的に自分達の食べる分を確保するのが精一杯だったため、他国に売り込めるほどの産物もなかった。
けれど、昔の王様が魔法使いに相談し、豊富で良質な水を活かした温泉を勧められ、国民総出で各地を温泉街に変身させたところ、保養地として大成功。
今でも他国と比較すれば豊かとは言えないものの、エウラリア王国の歴史の中だけで見たら、びっくりするほど豊かになったのだそうだ。
そんなエウラリア王国に入って最初の目的地に、私達は日が陰り始める前に到着した。
遠くからもくもくと白い湯気が見え、今から期待感を高めてくれる。
「素朴で素敵な村ですわね」
「セレ様、ここ村じゃありませんよ?」
「え?」
ここが村じゃない?
きょとんとしてジゼルの目を見たら、「違うんですよ」と重ねて言われた。
「ここはオーブリーヌっていう所なんですけど、村とか町とかじゃなくて、ここらへんの地域にある集落全体がそう呼ばれてるんです」
エウラリア王国は狭く人口も少ない国なので、都・町・村といった区切りがなく、おおまかな『地方』で分けられているそうだ。
しかもオーブリーヌは、メルシエ公国から入って最初に着く温泉街だから、この国でも有数の大きさなのだという。
「壁の高さって、経済力に比例しますのね……」
「ですねぇ」
「その通りですわね。個人的には、ここはずっとこのままでいてほしいと思ってしまいますけれど」
これまで通ってきた国はどこも、大きな市や町は壁に囲まれ、そこそこ立派な門があった。
オーブリーヌにも壁はあるものの、民家の塀みたいな壁で、しかも門らしき場所には扉も門番も見当たらない。
でも、だからこそ味がある。
ジゼルはその点「フーン」という感じだったけれど、これに関してはメラニーさんのほうが私の感覚に近かった。
今後もっと豊かになったとしたら、防犯やらその他もろもろを考えないといけなくなるだろう。
そうなった時、なんとかこの素朴な景色を失わず、いいところを残しておいてほしいな……と思うのだった。
オーブリーヌの温泉街に、高級宿はない。
でも、他国の基準では中ランクぐらいの宿はある。
それが通りに沿って何軒も並び、大衆食堂みたいな料理屋もあった。
外国の貴族や豪商がここを訪れた時、普段利用しない中ランクの宿の粗末さをそれなりに楽しむらしい。
彼らは自前の料理人や使用人を連れてくるから、食べ物と世話係には困らないし、なんといっても温泉が素晴らしい。
だから多少の不便さも、イベントの一種として楽しめるそうな。
アロイスの隊商に関しては、人数が多すぎて全員は泊まれない。
ならどうするのかと思ったら、集落の中に馬車泊専用の広場があり、大半はそちらで寝泊まりするそうだ。
「エディットさん達も、ここ来たらいつも馬車泊ですよ」
「ええっ? 温泉は入られませんの?」
「共同浴場があるんで、そっちに入ります。地元住民は無料で、外からの客人は料金を払えば誰でも利用できる共同浴場があるんですよ」
ちょっとそちらも入ってみたい……
でも私は宿に泊まることが確定しており、アロイスは私とジゼルとメラニーさんを相部屋として、既に料金を支払ってくれていた。
その宿にも立派な温泉があるということなので、エディット達と入れないのは残念だけれど、贅沢は言わないでおこう。
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