悪役聖女に転生? だが断る

日村透

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聖女達の反逆

249. 何もできない人々と、何とかしてのける人の差


 ミュリエルの偵察により、ロラン王国の現状がどんどん浮き彫りになった。
 どこへいっても民の顔色は暗く、明らかに神殿や王宮に怒りを抱えていたものの、行動に出るには至らない。
 これはみやこだけでなく、他の町でも同様だったそうだ。

 民の頭は「何かあっても聖女様がなんとかしてくれる」でり固まっていたせいで、いざ聖女に頼れない状況に陥った時、どうしたらいいのか本気でわからなくなっている。
 それは神殿も同じことが言えた。
 何かあれば聖女を矢面に立たせればいいという頭でいたから、聖女なしで切り抜けないといけなくなった今、隠しきれないほどボロがボロボロ出てしまっているのだ。

 だからあっちの神殿もこっちの神殿も、山賊(仮)の根城になっているわけで……
 本当に、可愛いミュリエルが奴らに捕獲され、焼き鳥にされなくてよかった。

「怖かったですわねミュリ。でももう大丈夫、わたくし達が守ってさしあげてよ……!」
「ウン……! セレ、タノモシー!」

 うるうるきらきらと輝く、黒すぐりのような瞳と見つめ合う。
 そんな私達に、無粋な生ぬるい視線を送ってくる者などいない。
 アロイスだって「任せろ」と深く頷いてくれている。

「女神は実に良い目印をくださった。陛下と親父殿にも報告しておこう」

 ほんとよねー。助かるわー。

 それから気になったのが、「作物が育ちにくくなっている」という点。
 人々の目には見えずとも、生えている植物に影響が出始めているのだ。
 瘴気それ自体に触れたわけではいないからか、ゆっくりとしたペースみたいだけれど、ミュリエルいわく見渡す限りの地面が「トッテモヤバイ」感じだったそうだ。

 いずれどんな作物も、育ち切る前に枯れてしまうようになる。
 その頃には人体への影響も避けられないだろうから、いよいよあの国は崖っぷちなのだ。
 なのにこの事態の元凶とも言える神官達は、なんとかして国外脱出できないかと、相変わらずそればかりに頭と時間を費やしている。

「本っ当に変わりありませんのね! そろそろ『懲りる』ということを学ばれたらいかがなのかしら!? 民の中で真っ先に倒れるのは、自ら善し悪しを判断できない小さなお子様と考えたら到底放置はできませんけれど。あの方々まで助けることになるのは業腹ごうはらでなりませんわ!」
「ホントそういうのむかつきますよね! 客の中にもいるんですよ、自分が商品ダメにした原因のくせに、被害者の中に紛れて一緒に助けてもらう奴。あれは腹立ちます!」
「わかるわぁ。あたしに解呪依頼してくる客にもいるのよ~。呪われた奴が実は元凶で、しかも反省しないのよねぇ」
「仮にロラン王国全土の瘴気群化を阻止できた時は、奴らに手柄を主張させんようにしておかないとな」
「それがよろしいでしょうな」

 ひとしきり盛り上がり、最後に一番気になる情報がミュリエルの口から語られた。

「リリ様が……?」
「ウン。『ルリ』ダッテ。タニンノフリ、シテタ」

 最初は、もしや私達の知らないところで入れ替わったのかと思った。
 けれどミュリエルによれば、そこにいたのはリリ本人で間違いないという。

「やるわねぇ、リリ様……。多分、ロラン王や大神官の奴ら、自分達でリリ様を消して『ルリ』という子を出そうとしたんだわ。あいつらなら絶対そうするわよ」

 メラニーさんがニヤリと笑みを浮かべた。
 失礼ながら、悪役聖女セレスティーヌより悪役がしっくりまりそうな顔だと思ってしまった。

「そんなことができるのか?」
「いいえ、アロイス様、それは不可能ね。これは魔法使いの領分なの。魔道具や霊薬だけで、素人がどうにかできるものじゃないのよ」

 メラニーさんの言う通りだ。
 神官は浄化や守護に特化しており、魂の交換やら消滅やらという怖い話題は、完全に専門外。

「つまりリリという娘、奴らのそれを逆手さかてに取って、入れ替わった演技をしているんだな」
「ほほう? そしてそれがうまくいっていると。意外とからめ手の使える娘だったのでしょうか」

 アロイスとヒューゴさんの言葉に、私は出会った頃のリリを思い出した。
 考えてみれば彼女は最初、周りの人々が喜びそうないい子ぶりっこをしていたのだ。
 私の目には不自然でしかなかったけれど、本来の主人公を知らない人々の目には、違和感とは映らなかった。

 ――自我を出さず、完全に主人公を演じる作戦ですわね? あの頃はわざとらしいと感じましたけれど、それはきっとリリ様本来の性格や表情を前面に出していたから……だとすれば案外、完璧に演じていらっしゃるかもしれませんわ。

 しかも周囲に信じさせるには、長期間その状態を続けなければいけない。

「かなりの忍耐力を必要とするはずですのに。それをやってのけたのでしたら、素直に称賛すべきことですわね」

 私はミュリエルの顔を見つめた。


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