聖女転生? だが断る

日村透

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ついに皇国へ

93. 特産品とリスクヘッジ

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 平たい円錐形で、かぶる部分との部分に境目がない。
 前世で読んだ昔話の絵本に、雪の中お地蔵さんにかぶせてあげたらいいことがあった……みたいなお話があったと思う。
 あの絵に描かれていたのとそっくりだ。

 あれよりもが広めで、やや平たい。
 店内には普通の『傘』も置かれているみたいだけれど、ジゼル達が「ここだけ」と言っていたこの品は、『笠』だ。
 差すのではなく、かぶって使うもの。

「こんなのもありますよ、セレ様」

 ジゼルが店内の壁にかけられていたマントみたいな布を取り、使い方を見せてくれた。
 笠をかぶり、その上から布をさらにかぶっている。
 ……垂れぎぬ、だったっけ? あれとは違うものだけれど、似た感じになった。
 あれは日よけとか虫よけだったはずだけれど、これの用途は完全に雨を防ぐものだ。

「この笠とか、この布とか、全然水を通さないんですよ」
「ここらへんで雨の日に外出なきゃいけなくなった時、かなり重宝するんス。ただしこれを着込んだら顔が全然わからなくなっちまうってんで、この町以外では禁止されてるんスよね」

 不審者や犯罪者が、自分の姿を隠しやすくなってしまうからか。
 でもここでは、瘴気まじりの雨を防ぐための最強装備と。
 あ、でもその瘴気がなくなってしまったとなると、この笠屋さん、どうなるんだろう……?

「そういえば親父さん、この笠と布どうすんの? あっちの瘴気、もうなくなっちゃったけど」

 カウンターからこちらをずっと睨んでいる、店主さんと思しきおじ様がいるんだけれど、ジゼルがさらっと尋ねてしまった。
 まさに私もそれを知りたかったとはいえ、そんなにズバリと訊いてしまっていいのかしら。

「噂になってっけど、やっぱ消えちまったんだな……」
「そうだよ。こいつら、売れなくなりそう?」

 ハラハラしている私をよそに、店主さんは特に怒鳴ることもなくぶっきらぼうに答えた。

「おめーの心配はいらねぇよ。一般人が使っちゃあまずいってだけで、兵士さんはよそでも使っていいんだ」

 おじ様が私の護衛兵達に目をやると、彼らはそれを受けて、私を見ながら小さく頷いた。

「ここ以外でも、雨天での野外の作業時に重宝するのです。強風の際は利用できませんが、その場合はどのみち建物からもそうそう出ませんので」

 どうやらこの笠は皇国兵が定期的にまとめて購入しているらしく、売れ残りが大量に発生、なんてことにはならないようだった。
 それを聞いて他人事なのに安心した。

 ジゼルが試しに、私にも笠と布をかぶせてくれた。
 紐やベルトで前を閉じることができて、視界を完全に塞がないよう、顔の前にだけは布がかからないようにしている。
 それだけでなく、外側からは真っ黒に見えていた布は、中からだと二~三割ぐらいうっすら周りを見ることができた。
 どういう素材を使った生地なんだろう。
 ただこれでも、前以外は見にくいんだけれど。

「笠の上にこの布までかけましたら、視界が悪くなりませんかしら?」
「悪くはなりますが、服がほぼ濡れませんので動きが鈍りません。背後から急所を狙われにくいという利点もあります」

 あ、それはすごく大きなメリットだ。
 濡れたら体温が下がって体力を奪われるし、死角からこっそり近付かれて急所をひと突き、なんて心配も少なくなる。

 かぶる笠以外に、差して使う傘も見せてもらったけれど、やはりどれも雨傘だった。
 結局何も購入せずに店を出るのは心苦しかったけれど、店主のおじ様は気にするなと笑い飛ばして見送ってくれた。
 私のことは初対面だとおそるおそる丁寧に接してくる人が多いのに、リュカやジゼルが懇意にしているだけはあり、豪快で肝の太い人だった。





「次はあっちの通りの店に行きましょうか」
「いやジゼル、あっちに行くのはやめとこうぜ。こっちのがいいだろ」
「なんでさ?」

 道の分岐点で、リュカとジゼルの意見が割れた。

「あっちに並んでる店、まずいだろ。今は」

 リュカに言われて、ジゼルは少し考え込む。
 そしてすぐに頷いた。

「あぁ、そうなりそうだね。じゃ、やめとこう」
「……何かよくないお店ですの?」

 気になって訊いてしまった。
 二人は顔を見合わせたあと、私を見下ろしてやや声を潜める。

「前にちらっとお話ししたと思うんですけど、ここいらには変異した植物とか生物を狩って、素材にして売る奴が結構いるんです」
「で、それ取り扱ってねー店が、あっちの方面には多いんスよ」

 ――百害あって一利なしと思っていた瘴気で、実は意外と儲けている人々がいる。
 そういえばそんな話を聞いたのだった。それらは瘴気抜きをしたり、神官に浄化をしてもらうことで素材として扱えるようになるんだっけ。
 つまりそういう商売をしていた人達は、瘴気が消え失せたことで稼ぎがゼロに……?

 大丈夫なのそれ? と青くなりかけたけれど、リュカとジゼルはドライだった。

「一点集中の商売はこういうことがあるんで、普段からいろんなもんを仕入れとくようにするのは商売の基本なんスけどね。儲けてる時にいい気になって、そーゆーのを全然やってなかった奴らの自業自得っスよ」
「セレ様は無関係なのに、難癖つけてくる奴がいるかもしれません。リュカの言う通り、近付かないほうがいいです」

 ……そういうこともあるのかぁ。




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