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新たな迷宮の攻略
25. ギルドに報告
しおりを挟む天気が一度も崩れなかったのも幸いしたんだろう。
おかげで土や草に紛れてもなお、ハッキリ嗅ぎ取れるほどにおいが鮮明に残っていた。
僕らがネーベルハイムに戻る途中で、ロルフと狸のおじさんに接触した何者かの痕跡。
狐族の少年達とも違い、それでいてニナと近い何か。
――ニナの兄達だ。
においで相手の感情を察するのは、本人と直接向かい合っている時だけじゃなく、こういう何かに残っているにおいでも大雑把に察することができた。
ぴりぴりとした警戒臭。道中で知人とすれ違ったとか、そんな状況じゃなかったのは確かだ。
ウォルはニナを肩に担ぎ、びっくりしている彼女に構わず、僕らに「行くぞ」と声をかけて走り出した。
僕とイヴォニーも、すぐそれに続いて走り出す。
行き先は予定通りネーベルハイム市だ。
何者かのにおいは不自然に現れ、そしてまた不自然に消えていることから、自分達の存在を隠蔽する何かを持っていたのは間違いない。
ロルフ達は襲撃されたんだろうか。この場所からなら僕らに伝えに来るよりも、ネーベルハイム市に直接向かったほうが近いと判断したかな。
パーティ内ではイヴォニーの持久力が一番少ないとはいえ、ウォルは彼女が体力切れになるほどの速度は出さなかった。
やがて僕らの目の前に、ネーベルハイム市の市門が見えてきた。
「マジぬかったぜ……! ごめんデューラー!」
「おれっちもすまねぇ……足手まといになっちまってよう」
ギルドに到着するなり、案の定、ロルフと狸のおじさんがウォルに謝ってきた。
彼らはちょうどギルド長に報告をした直後だったらしい。
ウォルがニナを床に降ろすと、ギルド長のキーファーさんが「ん? なんだその嬢ちゃんは?」と見下ろしてきた。
ニナがびびっ! と硬直したかと思うと、僕の背にささっと隠れた。
「ニナ? 大丈夫だよ、この虎族のおじさんは怖くないからね?」
「ほんと? 噛まない?」
「噛まない噛まない」
「おいこら、おめぇらよ」
いかつい虎族のキーファーさんが情けない表情で情けない声を発したので、ニナは「あれ、ほんとだ」と瞬きをした。
「そうそう、このおじさんは見た目によらず優しいから、このぐらいで怒ったりしないんだよ」
「うん、わかった」
「おまえら、そこまでにしとけ。話が進む前にギルド長がヘコんだら困る」
「ん、ごめんウォル」
「はぁい」
「おめぇらよ……」
そんな一幕はあったものの、僕らはギルド長専用の部屋に案内された。
改めて腰を落ち着け、ロルフや狸のおじさんから話を聞く。
「既にギルド長が指名手配してくれてっけどよ。悪い、あのガキどもに逃げられちまった。仲間がいたんだ」
それはほとんどが予想通りだった。
ネーベルハイム市まであと半分を切った頃、何者かの襲撃を受けたらしい。
咄嗟に感じたにおいや姿から、歳の頃は二十歳になるかならないかといった男が二人と、十代半ばぐらいの少年がひとりいたという。
いずれも狐族で間違いないそうだ。
「魔道具か、種族の固有能力を使ったんじゃねえかと思う。直前まで全然、音もにおいもなかったんだ。死角からいきなり現れて、煙みたいなのに巻かれてよ……」
「ロルフは咄嗟に応戦しようとしたんだが、俺っちがガキに斬られそうになっちまってな」
「斬られそうになった?」
ウォルが念を押し、ロルフとおじさんは二人とも頷いた。
「刃物を抜いて、おっさんに斬りかかってた。あれは幻術じゃねえ。俺がそいつの剣を弾いてたら、背後から大人の狐族のほうがぬっと現れて、何かやったんだと思う。衝撃も何もなかったんだが、意識が薄れてきて……」
「ありゃあ狐族の幻術に、眠りの魔道具の効果を乗っけてたみたいだぜ。手に持ってるこのっくらいの道具を、ロルフの背後から近付けてんのが見えたんだ」
おじさんは親指と人差し指で円を作った。そのぐらいの大きさならどこにでも隠し持てる。
そして狐族の煙の中は、相手にとって有利な環境だった。聴覚も嗅覚もすべて鈍くなり、ロルフと狸のおじさんは不意打ちをくらって意識を奪われた。
その際、薄れる意識の中で「このボケ! 殺っちまったらあとがやべぇだろ!」と、酷く叱責する声が聞こえたらしい。
つまりもともと殺意はなく、一番血気盛んな若い少年が予定外に刃物を抜いてしまったようだ。
「で、目が覚めたらあいつらはドロン。……ま、馬を盗むのは失敗したみてーだが」
「たりめぇよ。俺っちの相棒がやすやすと奪られるもんかってんだ」
狸のおじさんの馬って、「馬?」ていう疑問符が付くからなぁ。牙とか生えてるし。
この世界の馬は全部がああいうのじゃなくて、穏やかな普通種の馬と、狸のおじさんの相棒みたいな猛獣寄りの馬に分かれているんだ。
で、そいつらはどうも、一度はおじさんの馬と荷車を盗もうと試みたらしい。
ところが、馬本人(?)の強い抵抗に遭って断念したようだ。
だから馬も幻術と魔道具を駆使して眠らせ、全員で姿を消した。その際、ロルフとおじさんの金子袋も抜き取るのを忘れずに。
ロルフとおじさんは取り急ぎネーベルハイム市に戻り、冒険者ギルドに駆け込んで事の次第を伝えた直後、僕らが戻って来たというわけだ。
「さいあく……クソ兄貴……!」
ニナが唸った。身内がそんなんじゃ罵りたくもなるよな。
この一件だけで、ニナの兄達は片手の指じゃ収まらない罪を積み上げている。
「魔法や固有能力を私闘で使ったことも罪になるし、魔道具はおそらく盗品。ロルフが止めたから事なきを得たとはいえ、ガキの一人が実際に斬りかかっているから立派な殺害未遂になる」
険しい顔でキーファーさんが言い、ウォルが続けた。
「ロルフはそうそう油断するタイプではないし、今回は狸のおっさんも余計な真似はしていなかった。思った以上に、ニナの兄貴どもは悪質だったみたいだな」
ニナはぎりぎり歯をきしませる。
歯が悪くなっちゃうよと止めながら、僕は心から彼女に同情した。
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