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新たな迷宮の攻略
30. 目的地までの足
しおりを挟む冒険者ギルドを出る前に、さっそく受付に寄った。
ギルド長のキーファーさんは残念ながら不在だったので、例の村の建て直しに関して出資の意思があることを伝えてもらうようお願いした。
まだ村をどうするかが確定していない段階では、ちゃんとした手続きは進められない。でもキーファーさんのあの様子だと村の解体に前向きだったから、僕としては背中をしっかり押させてもらい、前向きなまま実行してほしいと思っている。
「運び屋は市門の前にいるはずだ。……ああ、もう着いているな」
ウォルが市門の方角を見ながら言った。
僕らはまだ建物の中にいるのに、においでわかったようだ。
この世界で運び屋というのは、怪しい品を運ぶ人のことだけじゃなく、いわば個人タクシーやバスみたいな役割をする職業のことも含まれる。
野宿ドンと来いな獣人であっても、できれば屋根付きの足が欲しいし、収獲があればたくさん持って帰りたい。
僕らはそういう時、狸のおじさんに足を頼むことが多かった。でもほとんど近場に限定される上に、おじさんの本業は商人だ。危険が想定されるところには一緒に行けず、予定が合わないことも少なくない。
そうでなくともおじさんは前の馬車がダメになり、一時しのぎの荷車を使っている。どの道今回はお願いできないから、ウォルは別の運び屋に依頼してくれていた。
僕は初めて会うことになるけれど、信頼できるいい運び屋らしい。
冒険者ギルドの建物を出ると、市門はすぐそこだ。
ウォルが手前の広場を指で示し、「ほら、あいつだ」と耳打ちする。
「え……」
一台の馬車が横向きで停まっている。
いや、あれは馬車じゃない。牛車だ。
馬ではなく、それはもう立派な角を持つ黒々とした水牛。
この世界の動物って、馬とか牛とか普通の名前で呼んでいいのか迷う見た目をしているのに、ほかの呼び名がないからそう呼ぶしかないというパターンが結構ある。
あのすごく強そうな牛も、ゲームの設定では『水牛』って書かれていたからなぁ。
その御者席に座っている獣人の姿に、さらに目が点になった。
ついさっき話題に出したばかりの、熊獣人の男だったのだ。
「『黒熊亭』の主人の弟だ。見て想像つくと思うが、真面目で腕もいいぞ」
「へえ……!」
道理で、時々姿を見かける『黒熊亭』のご主人に似ていると思った。種族が同じだからそう感じたのかと思ったけれど、実際に肉親だったのか。
名前はグイドさんと言うらしい。年齢は三十代前半だそうで、とにかく体格の大きいお兄さんだった。
太っているのではなく、服を着ていてもはっきりとわかる腕から肩、首への盛り上がった形は、どう見ても筋肉。
あの上腕の太さ、僕のウエストといい勝負なんじゃ……?
両手装備の大剣を片手で軽々と振るう重戦士、もしくは大槌で岩をも粉砕する破壊屋と言われたほうがしっくりとくる。
でも性格は『黒熊亭』のご主人と似ているのか、寡黙で愛想はない。無駄なお喋りはしない仕事人という雰囲気だ。
それから、頭が良さそうな感じがする。肝も据わっていそうだ。
冒険者登録をしたら、すぐハイランクになれるんじゃないか?
だけど『黒熊亭』のご主人と同じように、そんなことは他人がごちゃごちゃ言わなくとも、本人や身内が理解しているだろう。その上で、冒険者よりもやりたい仕事があっただけだ。
それに健康そうに見えて、実は怪我の後遺症があって続けられなくなった元冒険者もいる。
ギルド長のキーファーさんだって、魔物に左目をやられて引退した過去があった。
冒険者同士でなくとも、「どうしてその仕事を選んだか」という問いを発する時は注意しなければいけない。
「おじさん、おはよ~!」
「おっさん、今回よろしくな!」
イヴォニーとロルフの元気いっぱいな挨拶に、内心「うっ」と呻いた。
三十代前半はおじさんじゃない、と思うんだけどな……多分。
グイドさん自身は気にしていないようで、よかったと言っていいのか。
考えてみればイヴォニーとロルフも、相手が不快になっていればそんな呼び方はしないのだった。
本気で嫌がっている時はにおいで感情を察せられる獣人、こういう時は便利でいいとつくづく思う。本気で嫌がっていないのがバレバレで困る時のほうが多いけど……って、それは関係ないから脇に置いておけよ僕。
ちなみにウォルに聞いたところ、グイドさんは戦える非戦闘員なんだそうだ。
それは『非戦闘員』と呼んでいいものだったっけ?
振り回す系や遠距離系の武器は得意ではなく、軽くて持ち運びやすいということで、よく使うのはナックル。
拳で吹っ飛ばす系だったか。
重量級の特大パンチで、岩をも砕く熊族の拳闘士が容易に浮かぶ。
ともかく戦闘面においても頼もしい、今回の僕らの仕事にはぴったりの運び屋さんである。この水牛も単体で強そうだ。
遠慮なく馬車――ではなく牛車に乗せてもらうと、中はそこそこ広く、狸のおじさんの荷車よりスペースがある。
当然ながら売り物など積んでおらず、純粋に僕らを乗せて、ここと目的地を往復するのに必要なだけの準備をしているのだ。
新たなエリアへ向かうことの不安より、どっしりとした安心感に包まれ、僕らはネーベルハイム市を出発した。
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