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エピローグ
63. エピローグ
しおりを挟む本人にはもう尋ねようがない。たまたま符号が合っていただけという可能性も、絶対に無いわけではない。
でもこれがあの人の真実だったとするならば、どうしてこの世界を選ばなかったんだろう? あの人もこの世界に愛着があったはずなのに。
ふと浮かぶのは、包容力のある笑顔と、何でも打ち明けやすい教師のような雰囲気。
――あちらの世界にお子さんがいるのかも?
あちらの世界もこちらの世界も、どちらも楽しめる空気のある人だった。吉野さんが家族や友人を大切にしている姿は、容易に思い浮かべることができる。
考えてみれば僕にしたって、いくら廃ゲーマー寄りだったといっても、ウォルがいなければこちらの世界を選択したかどうかは謎だ。異世界への憧れより、そこに飛び込むリスクばかりがどうしても浮かび、踏ん切りがつかなかった可能性のほうが高い。
僕は元来臆病で、警戒心が強く、安全圏からは出たくないタイプなのだから。
「何だ?」
「う、ううん。なんでもない」
彼の目をじっと見上げ過ぎたせいで、変に思われてしまった。危ない危ない。
ウォルと身体を繋げたのもあってか、この兎族が僕自身という実感がますます強まり、頭の中身が態度や行動に出やすくなっている。
役を演じきれないというか……多分それはいい変化なんだろうけれど、さっきみたいに返答に困ることも増えそうだし、注意しておこう。
依頼で必要になりそうなものを買い足した後、家具屋に行ってウォルの椅子やその他不足しているものを注文し、部屋に届けてもらうよう頼んだ。
「仕事は明日から本格的に取りかかる。当分忙しくなるから、今日は英気を養うことにつとめろ」
リーダーのウォルが僕ら全員の顔を見ながら言った。僕はパーティー活動の経験が浅いから、彼がリーダーでまったく異論はない。それはいいんだよ。
でもさ。そこでさ。ロルフとイヴォニーと聞き耳を立てていた店員さんまで、一斉に僕のお尻に目をやって「ああ……」って顔しないでくれないかな!?
この狼族のセリフは本当に言葉通りの意味でしかなくて、ソッチの理由じゃないんだよ! って言いたいけど言えない!
おかげさまで茹で兎の一丁上がりだ。
それにしても、アバターのデフォルト年齢二十歳から始めて二年経つから、『ロートス・クライン』は現在ウォルと同い年の二十二歳だ。
この年齢を彼らに言ったら驚愕されてしまったのは脇に置いといて、今の僕の反応は自分でも子供っぽいなと感じることが多々ある。
親密な人付き合いなんて初めてだし、こいびとができたのもはじめてだし……こら僕、こういうところだよ。
こんな感じに頭に花が咲いて、フワフワしているんだろうなと自覚してはいる。だけどひょっとしたら、兎族の『臆病で素直な気質』っていう設定も、若干仕事をしている気がしなくもなかった。
ひねくれた性格まで素直に出てしまうのは、ちょっといただけない。いくらウォルがそれでもいいと言ってくれていても、相手の好意に無限に甘えるのはダメだ。
この先ずっと、一緒にいる相手なんだから。
□ □ □
夕食を摂った後、久々に夜のデートに誘われた。
行き先は平原のいつもの場所だ。戦闘直後は広範囲の土が引っ繰り返され、地中の岩が剥き出しになっていた場所に、早くも草が茂り始めている。生命力が強いなあ。
さすがに跡地からは少し離れた場所に移動し、そこに毛皮を敷いて座った。二人並んで、あちらの世界より何倍も大きな銀の弓と、小さな光点の海を飽きずに眺める。
草の芳香。葉擦れの音。すぐ隣にいる、大切なパートナーの温かな匂いと気配。
ウォルの本質、本当の根っこの部分は、こういう夜空の下でこそ一番現われると僕は感じていた。
闇の中で輝く静謐な青。その虹彩の色は魔を祓う聖騎士に相応しく、その一方、一種の魔物のように見えなくもなかった。実際、例のゲームにおける彼の位置付けは、『人に味方する魔物』に近かったのではないかと思う。
隣の気配と同じぬくもりを、左手の薬指からも感じた。星を包み込んだ夜のような石は、今は彼の瞳と同じ、淡い光を帯びている。
僕はなんとなく、その指輪にそっと口付けていた。
夜目の利く狼には、しっかりその現場を見られていたらしい。彼は僕の頬に頬をスリスリさせて懐いてきた。
その拍子にお互いの耳が触れ合い、くすぐったくて笑みがこぼれる。
頭に移動した彼の口が僕の耳をはむはむし、言葉にできない心地良さと、ちょっと大きな声では言えない感覚に身震いする。
あんまりにも気持ちいいから、僕の耳は後ろにぺしょりと倒れていて……。
突然夜鳴き鳥の囀りが響き渡り、びっくりした耳がウォルの顔をペシリと叩いてしまった。
「ご、ごめん」
「…………」
いや、この世界ではどこにでもいる鳥なんだけど、僕の耳の精度が良過ぎて、ちょっとした物音にも反応してしまうんだよ。
さっきからピィピィ鳴くたびに耳がそっちを向いて、甘噛みを再開しようとするウォルの顎やらほっぺたやらをペシペシ叩いてしまう。
「ふっ……」
「ぷっ……くくく」
どちらからともなく笑い出し、ごろんと一緒に寝転がった。
ウォルが僕ら二人分を包む結界を張り、僕も念のために結界石を使った。
今夜はここで眠るとしよう。もう市門は閉じているから、また夜明けを待って戻るのだ。
「あ。ウォル、外はダメだからね! 絶対、やだ!」
「チッ……」
「『チッ』じゃないよもう!」
以前唐突に出された選択肢の『野外』、絶対それだろと思ったら、やっぱりだよ。
元聖騎士のくせに、なんで俗物の僕よりそういうことに抵抗がないんだ。
一昨日の昨日の今日だから、いくらなんでも三日連続でするつもりはなかったろうけど。今後のためにも、こういうのはきっちりさせておかねば。
怒った顔を作って耳をむにむに揉んでやったら、「痛ぇ」と甘く囁きながら口付けが降ってきた。
瞼を閉じて受け入れ、何度も唇をついばまれているうちに、僕はすっかり骨抜きにされてしまった。
「愛してる……」
「ン……僕も……」
僕を包み込むぬくもりを、鼓動を感じながら、僕もまた大きな背に腕を回した。
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読んでくださってありがとうございます!
ファンタジーなRPGのBLを読みたい+狼と兎のもふもふを読みたい という趣味をもりもり合体させたお話でございました。
近況ボードをご覧になった方はご存知かと思いますが、第二部の構想もあるとお伝えしたところ、ありがたくも希望してくださる方々がおり(ありがとうございます!!)一旦ここで区切り、後日また第二部を開始いたします。
一応ここが最終話として読める内容にもなっているかと思いますので、気長にお待ちいただければ嬉しいです。
開始時はまた近況ボードでお知らせいたします。
お付き合いくださってありがとうございました!!m(_ _m)
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