僕と愛しい獣人と、やさしい世界の物語

日村透

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新たな迷宮の攻略

14. 待機組で結果オーライ


「くそっ!」
「このぉぉーっ!」

 少年達の悪あがきをBGMに湖を眺めていたら、そう経たないうちにウォル達が戻ってきた。
 予定していた時間よりもかなり早い。

「ウォル、どうし――」
「レン、何が――」

 質問のタイミングが被ってしまい、二人してきょとんと目を瞬かせた。

「すまん。俺から話す」
「うん、どうぞ」

 仕事が優先だもんね。
 そしてウォルが語るには、『湖の迷宮』の様子が、何やらいつもと異なっていたということだった。
 普段なら深い場所に大物がうようよ泳いでいて、その気配がするはずなのに、わずかしか感じられなかったという。
 そこでウォルは深くに潜って原因を調べようとは思わず、依頼は充分に達成できたから先へ進むのはやめておこうと判断し、浅い層だけを見回る程度で戻って来たらしい。
 僕はそれを聞いて、彼の勘と鼻の鋭さ、判断能力に心の底から感謝した。

「それ正解。大正解だよウォル」
「あれが何なのか知っているのか?」
「知っているというか、似たようなことを別の土地の迷宮で何度か経験したことがあるんだ」
「前におまえが活動していたところか」

 うん、と頷いた。

「迷宮内にいるはずの魔物が大量に気配を消したり、別の層へ大移動していたり、普段と全然違う行動を取っていたら大抵は本当に何かの予兆なんだ。よくあるのは、本来の迷宮のヌシよりも遥かに強大な魔物の出現だね。あれは大勢の冒険者に招集がかかって、大規模な討伐戦に……」

 喋っている途中で「あれ?」とおかしいことに気付いた。
 いやいや待って僕、これはゲームの運営が用意する大規模イベントの話だよ。
 条件を満たせば開始できるイベントストーリーじゃなく、運営が何月何日何時頃にどこそこのマップでやりますっていう告知をして、特別なアイテムやスキルを獲得したいプレイヤーが参加するイベントだ。

 この世界の母体――と言っていいかわからないけれど――である『巡る世界の創生記』は、ほのぼの系ファンタジーが売りのゲームだった。
 だからあまりシビアなイベントにはできないし、データ容量の問題もあったから、無制限に規模を大きくすることもできない。
 そういうこともあって、運営のフィサリス・プロジェクトは、このゲームでのレイドイベントには積極的じゃなかった。
 それでも完全にゼロではなく、僕もハイランクのプレイヤーとして参加したことがある。

 要は運営がそれを計画し、配信することで始まるものなんだから、今この世界でそれが起こるのっておかしくないか?
 ……いいや、おかしくないんだろうか? ゲームから本物の世界に変わり、魔物達もランクの変動があって、獣人達には嗅覚やつがいといった本来なかったものが増えた。
 配信しなければ発生しなかったはずの『イベント』が、まさかこの世界の自然の仕組みとして起きるようになった、なんてことはあるんだろうか。

「やっぱレンって詳しいなぁ」
「デューラーもピンときてくれてよかったよ! あたし全然変だってわかんなかったもん」

 ロルフとイヴォニーに感心されてしまい、今さら訂正できなくなってしまった。
 しかもウォルや狸のおじさんまで、フンフン頷いてくれている。
 冷や汗がたらりと流れた。……うう……そ、そういうことがきっとある、ということにしておこう!
 第一、ウォルが危ないと感じたんなら、間違いないんだし!

「え、ええと。絶対に強敵が現れるとは限らないからね?」
「だが過去の例では出て来たんだろう」
「毎回じゃなかったよ。とにかく、何か大きな変化の前触れっていう可能性は、なくもないかなというぐらいで」
「黄金鹿の例もある。早急に戻ってギルドに報告しよう」

 あうあう……そうなるよね。
 でも僕の口からポロっと出ただけとはいえ、おかしなことがあれば報告するのは冒険者の義務であって基本だ。僕にとって自分よりも信頼できるウォルが引き返したぐらいなんだから、軽視する意味なんてない。

「それで、おまえのほうは何があった?」
「そうだった」

 少年達は騒ぎ疲れたのか、静かになっている。そのせいで一瞬忘れかけるところだった。
 ――と思ったら、全員ウォルを見ながら青ざめている。
 僕はまったく何も感じなかったけれど、ウォルの瞳が時々青く光っていた。どうやら知らない内に、彼はこの子達を威嚇していたみたいだ。
 ウォルのことを大人げないとは思わない。この狐族の少年達は、肝が据わっているんじゃなく、ただ単に無謀なだけ。多分今までは口先だけで運よく切り抜けてこられたものだから、まだ本格的に怖い経験をしたことがないんだ。

 僕は彼らがいつここに来て、どういう経緯で僕の魔法に捕えられることになったのかを話した。
 狸のおじさんもきっちり補足を入れてくれたおかげで、漏れなく全部説明できたと思う。
 ウォルの威嚇は、傍で見ていても明確になった。彼の表情は変わらないけれど、喉奥で鳴る低いうなり声も聞こえる。
 狐の少年達は今にも倒れそうだ。
 可哀相と思うより、僕はちょっと得意な気分になる。

「きみらがさっき、ズルだ何だとさんざん言いがかりをつけていた僕のつがい様だよ。うつむいていないで、しっかり目を合わせたらいいんじゃないの?」

 悔し紛れに反論してくるかなという予想に反し、少年達は相変わらず、顔色を悪くしてうつむいたきりだ。
 ――やべぇ、どうしよう、みたいな感情が伝わってくる。
 おまけに彼らはとうとう、あんなに見下していた僕の魔法を解くことができなかった。縄も道具も何も使っていない、純粋な僕の魔法に敵わなかったんだ。
 だけど、負けを認めるのは嫌だ。少年らしい反抗心で、まだ『兎ごとき』の僕をどうにか貶めたいという感情だけが伝わってくる。
 それがウォルをますます怒らせているというのに。

「ふん……レン、お手柄だ。こいつら、『森の迷宮』に罠をばらまいた連中だぞ」
「えっ、そうなの?」

 それはわからなかった。
 僕が驚くと、ロルフが渋い顔で頷いた。

「やっぱそうなんだ? 俺もそうなんかなと思ってたけど、デューラーが言うんなら確実だろ。罠の一部にこいつらっぽいにおいが残ってた」
「俺はそいつらの種族が『狐族』だろうとあたりをつけていたんだがな。もしかしたら罠を仕入れた商人が狐族かもしれんし、無関係の者が疑われそうで断言は避けていた」

 この二人の鼻でそう感じたんなら、もう確定でいいだろう。
 狐族の少年達はそろそろと顔を上げ、どこかふてくされた様子でそれを聞いている。
 バレたことをまずいと思いつつ、それがなんだと考えていそうだ。

 ……この子達、全然反省していないな。
 本当に何もわかっていないんだ。
 結果論だけれど、僕は『湖の迷宮』に入らず、ここでこの子達を捕まえられてよかったよ。


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