244 / 272
番外・後日談
ファーデンにご招待 (5)
翌日、皆を連れてファーデンの中を案内した。
屋根のない馬車を使って移動し、養成所の施設や図書館、読み書き算術の基本を教える学問所などを巡る。
村長と養成所の所長の案内で、建物の中も見学した。
「殿下や妃殿下から送っていただいた書物は、どれも大切に保管しております。原本を汚損してはなりませんので、有志がせっせと写本を作り、それを皆で回し読んでいるのですよ」
「勉強熱心で頭の良い子には高度な教育を受けさせてやりたいので、そういう子がいたら報告させていただいております」
同じタイトルの写本が何冊もボロボロになっているのを目にして、リシェルが感心しつつ微笑んでいた。
中には、小さい頃のリシェルが好んでいたような物語の写本もある。
ファーデンから上がって来る報告を、最終的に受け取るのは俺だ。実際に今まで優秀な子が何人か見つかり、本人と親の意向を確認した上で中央に呼び寄せている。
もちろん、本人がこの地に留まりたいと望めば強制はしない。
お姉様とエアハルト、母上様とヨハンも、そういう説明をどこへ行っても熱心に聞き入ってくれていた。
ただ残念ながら、子供達の集中力は途切れてしまったようだ。
「疲れたか?」
「ん……」
尋ねると、サシャが浮かない顔で俺の上着の裾をきゅっと握ってきた。
見ればフェリクスや双子達も、似たような表情をしている。
これは予想していたことだった。この子達が不真面目なのではなく、いろんな対象に興味が移りやすい年齢なのである。
集中しようと思えばできるけれど、長時間それを保つのが難しい。何より、俺達の話の内容がまだこの子達には難解で、余計退屈に感じてしまうのだ。
双子は五歳、サシャは四歳、フェリクス三歳と、めっちゃ遊びたい盛りだもんな。
フェリクス以外は既に教師がつき、読み書きの基礎や簡単なマナーを覚え、どちらかといえばみんな勉強を苦にしないタイプだ。ただし引きこもるタイプではないから、よく学んだあとはよく遊びたくなる。
子供として当然の欲求というか、やるべきことはきちんとやったあとで遊びたがる良い子達なので、俺としては「さすがお姉様達の子、俺達の子。助かるわ~」という感想でしかないが。
「そういえば普通のお子様はそうでしたね……」
「ランハート殿下を基準にしては、いくらなんでもお子様方に酷だろう」
我が家の侍従達は、俺を見つめながらそんな微妙な感想を口にしている。
おまえ達、別に否定はしないけど、そういうことは俺の聞いてないところでこっそり言いなさい。
本人の目の前で堂々と喋るとか、日頃から俺を魔王殿下怖いだなんだと言っといて、実は平気なんだろ? そうだろ?
俺は寛容な男だから、怒らないでおいてあげるがな。
それはともかく、子供達にとってつまらない思い出になってはいけない。
ファーデンは俺やリシェルにとって特別な場所だから、楽しい思い出をたっぷりと残し、いいところだなと印象づけておきたかった。
というわけで、皆でまた馬車に乗り、グランツを目指した。
ファーデンの奥にある地域で、聖域とされていた場所。俺とリシェルが昔、湖で綺麗な石を探した、思い出の場所である。
当時は泊まれる場所なんてなかったけれど、今はその手前にも宿泊所を設けているので、今夜はそこに泊まる予定なのだ。
必要な荷物は既にそちらに運ばせており、俺達はゆっくりと向かう。
道中、綺麗な川近くの道で休憩となった。
ミッテちゃんの大好きな赤い実をつける低木が、たくさん生えている場所だ。
「ら、ランハート! ピヨッ! ピチチ!」
「はいはい」
食べたいんだねわかってるよ。
俺が赤い実をぷちぷち採っていると、ムスター領名物『赤麗玉』があちこちに群生しているのを目にして、エアハルトの顔がどことなく引きつっていた。
ああごめん、高級果実がこんなに無造作になっているとは思わなかったんだな? まぁ気にしないでくれ。ぷちぷち。
あ、この実でけぇわ。色艶もいいし売りに出したら最高値が付きそう。いつもお世話になっているミッテちゃんの胃袋行きとして申し分ないな。
使用人が河原に簡易テーブルセットを用意し、母上様とヨハン、お姉様は美しい小川を眺めながら、そこでのんびりお喋りを始めた。
俺は手の平に赤い実を載せて、肩乗りミッテちゃんに食べさせてやる。
「美味しいです……!」
世間では高級果実の扱いになっているのを理解し、我が家で出す時はちまちま大事に食べているミッテちゃんだったが、ここでは遠慮なくつつつつ! と勢いよく食いついた。
「みじゅ、ひやひや!」
「冷や冷やだね! あっ、きれいな石……」
「こっちの石もきれいですわ。すてき」
「あれはおさかな!? ほらあそこ、およいでいるぞ! はじめて見た……!」
子供達は使用人に見守られながら、水の際で遊んでいる。
遊ぶと言っても、実は小川に触れること自体が初めてなので、大胆なことはしない。しゃがんで手のひらを水につけ、ぱしゃぱしゃするぐらいだ。
それでも彼らにとっては刺激的な体験であり、四人とも頬が紅潮して、目が水面のようにきらきら輝いている。
そんな子供達を、微笑ましく見守る大人達……
リシェルが俺の隣に来て、同じように視線を子供達に向けながら、肩にもたれかかってきた。
「わたし達もあんな感じだったのかな?」
「あんな感じだったんだろうなぁ」
「懐かしいね」
くすくすと振動する肩の重みが心地いい。
ほんと、皆でここに来られて良かったな。
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。