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番外・後日談
ファーデンにご招待 (6)
グランツの手前にある宿泊施設では、先行していた使用人によって、俺達の部屋の準備がととのえられていた。
道が綺麗になっているおかげで、昔このあたりに来た時よりも、かなり時間が短縮されている。
夕飯にはまだ時間があり、俺達はさっそく湖に繰り出すことにした。
「まあ、なんて綺麗……!」
「素晴らしい景色だな」
お姉様が歓声を上げ、エアハルトは感嘆の溜め息をついている。
母上様も軽く頷いて同意を示し、ヨハンは愛用のスケッチブックを抱えて子供みたいに目を輝かせていた。
ちなみにスケッチブックは、俺の前世の世界にあった品質のものはもちろんないけれど、スケッチ用の紙を束ねて綴じたやつは既にあるんだ。
「きれー!」
「ねえさま、きれいな石ころがたくさんありますよ!」
「ほんとうね! すてき……!」
「水もすごくきれいだ……!」
子供達も大歓声。川で遊んでいた時のように、何人もの大人が見守る中、水辺に近付いてきゃっきゃと喜んでいる。
そんな子供達の様子を眺めながら、エアハルトが俺に近付いてきた。
「ランハート、感謝する」
「ん? 突然どうしました?」
「あの子達がとても楽しそうだ。……コンラートもフレデリカも素晴らしい子なのだが、私のもとで幸せに過ごせているだろうかと、時々気になっていてな」
「なんだ、そのようなことですか」
心配無用だと笑い飛ばそうとしたが、エアハルトの目は真剣だった。
「私は少々、かなり、硬い自覚はある。あの子らは息が詰まる思いをしていないか、それだけが心配なのだ」
あ~、なるほど~……そういや、そうだったな。
エアハルトはレーツェル家で、それはもう厳しく育てられた。前レーツェル夫妻に支配された家の中で、さぞ息苦しい子供時代を送ったことだろう。
「あの子達はあなたの愛情をきっちり理解していますし、のびのび育っておりますよ。そうでなければ、僕が手厳しく指摘していますからね。それはもう容赦なく」
身内だからって、この俺が遠慮してオブラートに包むと思う?
そう言い切ってやると、エアハルトの目に安堵が浮かんだ。
コンラートとフレデリカが去年よりますます良い子に育っているから、逆に心配になっちゃったのかね。背伸びして大人っぽくふるまいたい年齢になっている、ただそれだけだからほんとに心配無用だよ。
「さて。――リシェル、僕らも遊ぼうか」
リシェルににっこり笑いかけると、彼は瞬時に俺の意図を察して笑い返してくれた。いつものほんわかした微笑ではなく、イタズラ小僧っぽい笑みがこれまた魅力的だ。
もはや俺達の行動に慣れっこのカイとノアは、遠い目になりつつ止めはしない。それをいいことに、俺とリシェルはぽいぽいっとブーツを脱ぎ、目を丸くしたエアハルトに構わず堂々と水の中に足を踏み入れた。
「あ~、気持ちいい! この瞬間が最高だな!」
「天気が良くてよかったね」
俺とリシェルが裸足でパシャパシャやりながら、綺麗な石ころ探しを始めたのを見て、子供達も目を真ん丸にしていた。
しかしすぐにサシャとフェリクスが「わたしもー!」「ぼくもー!」とブーツを脱ぎ脱ぎ。
「絶対に走るなよ、転ぶぞ!」
「二人とも気をつけなきゃダメだよ!」
「はーい!」
「あーい!」
しかし彼らはわかっているのかいないのか、今にも走り出しそうだ。
俺とリシェルがすぐに二人のもとまで行くと、サシャは俺の、フェリクスはリシェルの足にそれぞれきゅっと抱きついてきた。
「わあ! おみず、きもちいいです……!」
「おみじゅ、ひやひや~」
向こうで使用人達が胸を撫で下ろしている。
いやぁ、すまんね、ハラハラさせて。
「あ、もう。二人とも、ズボンを折り返してないね? 濡れてしまっているじゃないか」
リシェルがフェリクスのズボンの裾を見て、慌てて折り返してやっている。
見ればサシャも同様だった。まぁ濡れてしまったものは仕方がないと俺も折り折りしてやると、サシャがしょぼんとしてしまった。
「ごめんなさい……」
「ん? いや、次からは気を付けなさい。それと、濡れたズボンをそのままにして水の中に入ったらダメだぞ? 水を含んだ布は重い。そのままだと足を取られて危ないからな」
「はい」
真剣に頷くサシャが可愛い。フェリクスもリシェルに同じことを言い聞かせられ、やはりこっくりと頷いている。あ~可愛い。
気を取り直して、水遊び再開だ!
「おとうさま……」
「おとうさま……」
「う……」
おお、あちらでエアハルトが双子の上目遣い攻撃を食らっているな? いやぁそいつらのソレ、強力だろ~? 却下するには鋼の意思が必要だな。
案の定パパは敗北し、双子達もいそいそと靴を脱いで湖に突入してきた。
俺達が立っているのはかなり浅い場所で、あっちに行くと急激に深くなるから絶対に行くなと言い聞かせた。
それともちろん、大人がいる時でなければ水遊びをしてはいけない。これは俺が命令という形で、使用人全員にも言い含めている。
というわけで、我が子が転ばないように支えながら、一緒に綺麗な石ころ探しをした。
エアハルトは俺達の真似をしてコンラートに付きっ切りになり、フレデリカはなんとスケッチブックを使用人に預けたヨハンが背中を支えてやっている。
フレデリカのお子様ドレスはもともと大人の女性より丈が短めで、さらに裾をきゅっと縛って濡れないようにしていた――のはいいんだが、そんなことよりヨハンおまえが転ぶんじゃねぇぞ?
エアハルトもヨハンもこういうのは初体験だから、内心はしゃいでいるのが見て取れるな。
しかしふと、エアハルトが真顔になってぼそりと言った。
「……ところで、ランハート? この石は……」
「綺麗な石ですよ?」
「…………」
赤い実に引き続き、ムスター名物の綺麗な石でございます。
『天の雫』という素敵な名前がついております。
気に入ったのがあれば一個持ち帰ってもらってOKですよ~。
「お母様……。わたくし、今日この時ほど、殿方になりたいと思ったことはありませんわ……」
「母も同感ですよ……。それはともかくヨハンたら、自分が転びはしないでしょうね? 危なっかしいこと……」
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