どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

パパという生き物は


 大切な家族が増えた。名前はエルーシア。
 この子の兄様達と同様、リシェルと一緒に考えて付けた。
 俺と同じ髪色の子にこう言うのもなんだが、可愛い。むっちゃ可愛い。

「嫁に出せん子がまたひとり増えてしまった……」

 エルーシアを初めて抱き上げた日、かなり本気で口走り、リシェルを爆笑させてしまった。
 そして俺は流れるようにリシェルの部屋を出禁になった。
 何故!?

「妃殿下のお身体にさわります」

 と、メイド長に怒られた。出産直後で疲労困憊こんぱいの奥さんを大爆笑させんじゃねーってことらしい。
 すんませんした。
 反省するからお願い出禁は解いて……!?
 ミッテちゃんにも「何やってるんですかあなたは」とピヨピヨ呆れられ、ヘコみつつもなんとか出禁は取り消してもらえた。



 そんなことがありつつ、エルーシアはすくすく健康に育ち、気付けば一ヶ月が過ぎていた。
 俺はメイド達の監視の中、リシェルをあんまり笑かさないよう注意しつつ、我が子の寝顔を眺めている。
 サシャとフェリクスは現在、お勉強中だ。特にこれまで弟だったフェリクスは、自分がお兄ちゃんになるんだと聞かされて、前以上に張り切るようになったらしい。

 サシャとフェリクスの二人で、すやすや眠る妹を見つめながら、『立派なお兄様になるぞ』宣言をしたそうな。
 おまえら、将来絶対いい男になるぜ……なんてことを思いながら、俺はお昼寝中のエルーシアの手を、指先でちょんとつつく。

 ちまっこい指が、俺の人差し指をきゅっと握りしめてきた。
 五本の指を全部使っても、やっと俺の指一本を握れるぐらいなんだもんなぁ。こんな小さなものがどうやって動いているのか、たまに不思議になる。
 そんな俺を優しい目で見ながら、リシェルが小さく笑った。

「ランハート、あの子達と同じことをやってる」
「いや、やるだろう? リシェルだって」
「やるね。ふふ……ごめん、この子が生まれた時のことを思い出して、可笑しくなっちゃったよ。この子までお嫁にやれなかったら、跡取り息子のフェリクスもこの家にずっといるんだし、結局は子供達三人ともいることになるじゃないか」
「別に構わないだろう? 何も問題はない気がするんだが」
「……わたしもなんだか、それでもいい気がしなくもないけれど。ノイマンが呆れた顔で溜め息をついていたから、多分やっぱりダメなんだよ、きっと」

 俺達の会話を聞いているメイド達や侍従達も、首を横に振っている。
 ダメらしい。ちっ……今から対策を考えねぇとダメか。何の対策かってそりゃあ、いろいろだよ。いろいろ。

 そんな親父の思惑をよそに、エルーシアはふにゅふにゅ寝言を漏らしていた。
 普通に寝ている時はまさに天使ちゃんなんだが、泣き声はすごいぞ。
 サシャの時は「ふみゃ、ふみゃ」だったのが、フェリクスの時は「ふぎゃあ、ふぎゃあ」になり、エルーシアは「んぎゃああぁぁ!」だ。

 なんか段階踏んでパワーアップしてね?
 喉を酷使してないか心配になるレベルなんだが、そういうことはないようだ。
 身体の調子がよくないとか異常があるわけでもなく、純粋に普通に泣いてお知らせをしているだけらしい。
 ミルクかおしめが終わったら即座にやみ、それ以外はむずかることもそんなにないから、手間はほとんどかからない。

 心配なのは俺の心臓っつうか脳みそだ。
 もしこの部屋にリシェル、サシャ、フェリクスが揃い、超ミニ天使のエルーシアが新たに加わって、ミッテちゃんがピヨと鳴いたら……
 その時俺は浄化されてしまうのか、それともいっそう暗黒面が強化されてしまうのか、自分でもわからない。 

 おのれ、封じられし我が暗黒面よ出てくるな……! みたいに俺が脳内で厨二ごっこをしていると、リシェルが「そうだ」と何かを思い出したように声を上げた。

「お父様がいつ頃こちらに来るご予定なのか、ランハートは聞いている? この時期になるといつもお手紙が来るんだけれど、今回はまだ届いていなくて」
「ヴェルク公ならいちいち予定を確かめずとも、リシェルが『この日に来てくださいね?』とお願いしたら這ってでも来るよ」

 リシェルが苦笑しながら俺の頭をぺしりと叩く。
 その瞬間、俺達を「万年新婚夫婦」と密かに呼んでいる使用人達が、こっそり砂を吐きたそうな顔になった。
 はっはっは、万年新婚、いい響きではないか。

「ごめんごめん。先日、ヴェルク公と話した予定では――」

 俺は王宮で会ったヴェルクの義父上ちちうえ様の様子を思い出し、口元がニヤニヤしそうになった。
 だって義父上ちちうえ様、ものっすごくソワついた顔で、『さりげなく』話しかけてくるんだもんよ。
 サシャの時もフェリクスの時も、ほどよい時期になったらご招待しますっつってんのに、「まだかなまだかな?」みたいな目で見てくるもんだからさぁ。
 今回催促の手紙が届いていないのは、三人目だから慣れて適当になっているんじゃなく、少しばかり自重を学んだだけだ。
 
 リシェルもそのへん、想像はついているんだろう。彼はほんわりと微笑み、俺と一緒に今後の予定を立て始めた。
 さて、次の休みはいつになるかな。


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