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番外・後日談
ムスター家のお姫様 -sideリシェル
わたしの大切な宝物、エルーシア。
ランハートにそっくりな、綺麗な深緑の髪と瞳の、とても可愛らしいお姫様だ。
「うーっ。あうっ。あーっ」
「ん? そうか。うんうん」
籠のベッドの中で、エルーシアが元気に足をぱたぱたさせている。
その横に椅子を置き、ランハートが笑み崩れながらうんうん頷いてあげていた。
エルーシアは自分が注目してもらえているとわかるのか、その目はしっかりランハートを見ていて、どことなく喜んでいるようだった。
ランハートの肩にはミッテちゃんもいて、「ピヨ?」と小首を傾げながら赤ちゃんの顔を覗き込んでいる。
とても素敵な光景に、わたしの口元もゆるむのをこらえきれなかった。
■ ■ ■
エルーシアが生まれた時、ちょっとした騒ぎになった。
サシャの時も、フェーミナが二代続けて生まれたということで、だいぶ話題になったらしい。
でも、エルーシアの時はもっと大騒ぎだった。
何故? と驚いていると、ノイマンが教えてくれた。
「もともと女子の出生率の少なさから、女子の誕生は喜ばれやすいものでございました。兄弟が複数名おりました場合、全員が男子という家庭の割合が多いのです。ですが妃殿下の御子様の場合、フェーミナの公子様と、跡継ぎの公子様、さらに姫君という風に、『全員』が揃ったことになります。これは非常に珍しいことでございます」
なるほど、だから皆、あんなにびっくりしているんだね。
……身も蓋もないことを言ってしまうと、いまだにフェーミナの誕生を隠している家が多くて、珍しく見えてしまうだけなんだろうけれど。
ランハートと、ランハートの通訳でミッテちゃんもたびたび言っている。
『フェーミナの貴族がこんなに少ないわけがないんだよ』って。
実際、視察で民の姿を見るとよくわかるんだ。ファーデン以外の町や村を目にする機会は何度もあり、そこではわたしと同じように首輪をした人をよく見かけた。
その割合は、明らかに貴族よりも多い。
ランハートの影響力が強くなる前までは、貴族の前に出したら危ないからと、民もフェーミナの子を隠す傾向があったらしい。
それは文字通り、一時的に視界から隠すという意味合いが強く、貴族がいなくなれば普通に表に出てこられたそうだ。
ただし、そうやって隠さないといけない面倒な存在とは思われていて、平民のフェーミナも暮らしにくくはあったみたいだね。
男なのに産む側なんて情けないってバカにする男なんかも、身分の上下問わず一定数いると聞くし。
だけどわたしに仕えてくれている侍従やメイド達の話によると、前よりも彼らが過ごしやすくなっているのは間違いないそうだ。
「わたくし、弟がフェーミナですからよくわかりますわ」
「わたくしも、町にフェーミナの甥が住んでおりますのよ」
ああ、そうだね。彼女らにも親兄弟がいるのだから、当たり前にフェーミナの肉親がいるんだ。
バウアー男爵家のウィリス殿とも交流を続けているけれど、彼も明らかに変化を感じていると言っていた。
わたしとランハートが仲良くしている姿を社交界の人々に見せ、他の大公家もそれをごく自然に受け止めているところを見せる。
そこには演技なんて必要ない。だってどの家とも本当に仲が良いのだから。
エアハルト義兄様は、甥っ子のサシャを可愛がってくれている。
わたしの弟ルーディとシュピラーレ家のカール様も、ランハートを兄と慕っているから、やっぱりサシャは可愛い甥っ子に見えるそうだ。
そしてわたしのお父様は、孫にでろでろ……我が家に来たら時々、お義父様と孫を取り合っている。
争いが過熱しそうになったら、お義母様が扇を閉じて手の平をピシリ。そうすると一瞬でおとなしくなるんだけれどね。
お義母様のあれ、本当にどうすればあんな風にできるんだろう? わたしが真似しても、あんな空気を裂くみたいな鳴り方はしないんだ。
ぺそっ、て変な音になる。恥ずかしいから一度でやめた。
ランハートは大喜びしてたけど、もうやらないよ……侍従達にも「それは会得しないでください」って真剣な顔で止められたし。
――話がずれた。
つまり、こういう姿を見せることで徐々に、着実に貴族達の意識も変わってきている。
それを実感するたび、狭く怖い場所から明るい場所に解放されていった頃のことを思い出して、胸がいっぱいになるんだ。
■ ■ ■
「あっ、うっ。むー!」
「うんうん、それで?」
エルーシアが足をぱたぱたさせながら、一生懸命ランハートに何かを伝えようとしている。
何を伝えたいのかはわからないけれど、ランハートは愛おしそうに頷いてあげていた。
ちゃんと聞いてくれているとわかると、多分それだけで安心するんだろうね。
そうでなくとも、ランハートは赤ちゃん言葉を察するのが上手だ。
前世で妹さんを育てたことがあるらしく、わたしよりも子育てがうまい。
ちょっと悔しいけれど、頼もしいんだよね。
サシャやフェリクスが言葉を覚え始めた頃も、わたしが全然理解できなかったことを、彼はほぼすべて聴き取っていた……なんてことがよくあった。
耳がいいんだと言っていたけれど、あれにはアデリナお義姉様やエアハルト義兄様も感心していたな。
だってランハートは、普段聞いていない双子達の言葉も聴き取れて、意味を理解していたんだから。
赤ちゃん自身、何かを伝えたいけれど何を伝えたいのかわからない、っていう感情になる時がよくあるというのも、ランハートが教えてくれた。自我が芽生え始めた頃なんだって。
そういうのをしっかり受け止めてくれるものだから、子供達はみんなランハートが大好きなんだ。
ふふ、少し妬けるな……って、ちょっと待って。
ランハートの肩で、白いヒヨコがピヨピヨ、と小首を傾げた。
エルーシアが「あうーっ」と何かを言った。
まさか。
まさか?
「ランハート……まさか、全部、ミッテちゃんが……?」
「……!」
ランハートがこちらを見て、「あっ、バレた」みたいな苦笑いをした。
やっぱり!
全部!
ミッテちゃんが『通訳』してたんだ!
今の今までそれに気付かなかったわたしも鈍いと思うけどね!?
「ずるいよ!?」
「いや、そのう、あのな?」
「あー? ううー?」
「ピ、ピヨ?」
急に詰め寄ったわたしにランハートが慌て、その光景に使用人達もエルーシアもきょとんとしている。
「ランハート? ……ミッテちゃん禁止」
「うっ……!?」
「ミッテちゃんも、ダメだからね?」
「ピヨ……」
とびきりの笑顔で言い渡すと、わたしはランハートにくるりと背を向け、エルーシアの顔を覗き込む。
この子はわたしが『お母様』だと感覚的に理解し、好いてくれているらしく、微笑みながら呼びかけると嬉しそうにきゃっきゃっと笑い返してくれるんだ。
……それも以前ランハートが教えてくれたんだけれどね?(絶対ミッテちゃんの通訳だ!)
背後でランハートが謝っているけれど、許してなんてあげないよ。
当分は。
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読んでくださってありがとうございます!
次回もsideリシェルになりそうです。
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