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番外・後日談
僕が本当の意味で生まれ変わるまで (4) -sideルチナ
ヨゼファさんとアルマさんは好きな席に座り、飲み物とお料理を注文した。
二人とも僕が初日に食べさせてもらったのと同じ、お肉とイモを煮込んだスープと、丸い形のパンを一個ずつだ。このお店の定番メニューで、安くて美味しくてお腹いっぱいになるから、頼む人が多い。
たくさん食べる人はパンの注文を増やす。このお店で出すパンは一種類だけなんだけど、お店ごとに焼き方や味わいがちょっと違うみたいで、ここのパンが好きだから来るっていうお客さんもいた。
僕が昔食べていたのは、多分最高級のとってもやわらかいパンばかりだったから、あの頃の感覚を引きずっていたら食べられなかったんじゃないかな。
だけど牢の中でカチコチの硬いパンに慣れたあとだと、ちょうど中間ぐらいのずっしりしたこのパンは、すごくやわらかくて美味しく感じる。
飲み物は香草水だ。大きな陶器の入れ物に、新鮮なお水と香草を入れておいたのをカップにそそぐ。
こうすると香りが移ってさっぱりするのと、お薬にも使われる香草だから、飲み物でお腹を壊すことがなくなるんだって。
初めて取った注文のお料理と飲み物を、ドキドキしながら二人のテーブルに運んだ。
「ど、どうぞ」
「ありがと! ん-、美味そう」
「週に一度はこれを食べたくなるんだよね」
ヨゼファさんとアルマさんは、普段はお仕事先で食べてるそうだ。
お給金を使って、だいたい一週間に一度このお店で食べるのが楽しみなんだって。
「あの。この前は、ありがとう。僕、助けてもらったのに、お礼言えなくて」
勇気を出してお礼を言うと、ヨゼファさんは優しそうな目を細めて「いいよ」と笑った。
「すごく不安そうだったし、緊張していたんでしょう? 気にしないで」
「そうそう。俺らもああいうの覚えあるしな」
アルマさんはお肉をガフガフ食べながら言った。すごく勢いよく食べてるなぁ。
今日のお肉は、鳥肉をごろっとした大きさに切ったものだ。お肉の種類で味が違うとか、煮込み方を間違えたら硬くなっちまうんだぞとか、お料理に関することだとフランツさんは饒舌になる。
昔の僕だったら、アルマさんの食べ方を下品だなって思ったかもしれない。
でも今は不思議と、美味しそうにどんどん食べるアルマさんの様子が、なんだか嬉しい。
ちなみにヨゼファさんとアルマさんは、朝食と昼食を兼ねて食べに来るそうだ。時間がお昼より早めだから、ほかにお客さんの姿はなかった。
カッツェのお店はいつも、お昼と夕方にすごく混む。
ハンナさんは「暇なうちはあの二人とお喋りしていいよ」と言ってくれている。
「美味しい……。昔はこんなに美味しい食事ができるなんて、考えられなかったな」
「な~。ホント、いい時代になったぜ」
二人はしみじみとスープを味わいながら話し始めた。
ヨゼファさんはなんと、僕と同じく下位貴族の生まれだったらしい。
だけど僕と違い、表に出ないように閉じ込められていたんだって。
そして十歳ぐらいになったら、婚約者を決められた。
――その婚約者が、暴力的な男だった。
「貴族社会ではフェーミナの扱いが本当に酷くてね、あの頃は地獄だったよ。だけどムスターの大公殿下が、当時ご婚約者だった妃殿下を大事になさっているのが評判になってさ」
どきりとした。
ランハート様と、リシェル……様。
「フェーミナだからと痛めつけるのはまずいっていう風潮に、どんどんなっていったんだ。それである日、隙を見て家を飛び出して、助けを求めたんだよ」
それまではどうやって逃げたらいいのかわからないのと、「どうせ誰も助けてくれない」っていうあきらめもあったらしい。
だけどその時は一生懸命逃げて、どこかの商家に飛び込んだ。
「私は運がよかったんだ。もしそこの人が悪人だったら、どこかに売り飛ばされていたかもしれない。でも商家の人は私を匿って、こっそりムスター領に逃がしてくれたんだ」
そして今は、この領都の商家に雇ってもらえて、お仕事をしている。助けてくれた商家は、そこと付き合いのあるところだったんだそうだ。
「実は親と婚約者に見つかって連れ戻されそうにもなったんだけれど、ムスターの傘下の貴族が間に入って、あいつらに警告してくれてさ。私の背には鞭の痕が残っていたものだから、それが暴力の証拠になったんだ。おまけに私は第二夫人の予定だったから、それも無効になって、縁を切って籍を抜くこともできた。晴れて自由の身さ」
フェーミナにはよくあること、良い人に会えてよかった、運が良かった――晴れ晴れとした笑顔で語るヨゼファさんに、僕はどんな顔をしてなんと返せばいいのかわからなかった。
……僕は、そんなこと、知らない。
ずっと大事に育てられてきた。家族はみんな僕に優しかった。
僕以外のフェーミナがどうしていたのかなんて、あの頃は何ひとつ考えなかった。
「私はアルマよりマシだったろうけどね」
「いや、俺のほうがマシだって。フェーミナ収集すんのが好きな変態だっただけで、暴力はなかったからな」
「収集!?」
ぎょっとした。
聞けば、アルマさんは生まれ育ちも平民。顔立ちが整っているからと、フェーミナ好きのお金持ちに買われたんだそうだ。
その人は趣味でフェーミナを何人も『所有』していて、綺麗に着飾らせつつ、奴隷として扱っていたらしい。
そ、そんな変な人がいるんだ……!?
「めちゃくちゃ性格の悪い奴が何人もいたから、俺はフェーミナだから可哀想とか被害者とか言えねーんだよな。特に酷かったのが、自分が一番可愛いと思ってて、まあ実際に可愛くはあったけど、とにかく我が儘な奴でさ」
褒められるのは当たり前。自分が一番優先されるのは当たり前。誰かが自分のために尽くすのは当たり前。
全部当たり前だから、お礼なんて言わない。何もしてくれない人のことを冷たい人呼ばわりする。そういう人だったそうだ。
……ちょっと、冷や汗が出てきた。
「それ以外もなんつーか、チョーアイ争いってやつ? ご主人サマに可愛がられるために、嫌がらせとか足の引っ張り合いがすごくてさ。俺は育ち悪いから『やってられっか!』って逃げて、流れ流れてムスター領に辿り着いたってわけ」
それが運命の分かれ目だった。
そのお館の主人はお年寄りでもなかったのに、食べすぎとお酒の飲みすぎが原因で亡くなった。その後、別邸に囲われていたフェーミナ達の元に家督を継いだ息子とその母親が訪れ、一人残らず花街に送られてしまった……だって。
「すげぇ陰湿な嫌がらせされたもんだから、それ聞いてもあんま同情できなかったんだよな。そーゆーやり方しか知らない育ち方をしたのは、まあカワイソーな奴らと思わんでもないけど。だからって、やられても我慢しろとか水に流せとか、冗談じゃねえ」
肩を怒らせながら、イモをもりもり食べるアルマさんに、ヨゼファさんは優しい笑みを浮かべて頷いている。
ヨゼファさんも同感なんだね。
『不安そうだったし、緊張していたんでしょう?』
『俺らもああいうの覚えあるしな』
……もしかして、ヨゼファさんとアルマさん。
僕のこと、よそから逃げてきたフェーミナだと思ってる?
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