どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

僕が本当の意味で生まれ変わるまで (6) -sideルチナ


 カッツェのお店で働きながら、ヨゼファとアルマとお喋りをして、たくさんのお客さんにお料理や飲み物を運ぶ。
 近所の人と挨拶をしたり、植木の上手な手入れ方法を教わったり……ここに来たばかりの日には考えられなかったぐらい、今の僕の毎日は充実してる。
 そんな時、僕にとっての大事件が起きた。

 ……お客さんに、告白されたんだ。

 十九歳だと聞いたことがあるから、僕よりひとつ年下の男の人だ。
 だけどすごく背が高くて、受け答えもしっかりしているから、あんまり年下っぽく見えない。
 彼は近くのお金持ちの家で用心棒をやっていて、ほかのお客さんから聞いた話によると、強い上に性格もきちんとしているいい若者なんだそうだ。

 僕はたまにお客さん達から冗談で声をかけられることがあったけど、それは誰が聞いても本当に冗談ってわかるものだった。
 でも、彼の真剣な顔は冗談なんかじゃなかった。だってお店を閉める時に、わざわざハンナさんにお願いして、僕と二人で話す時間をもらったぐらいだもの。

 それだけじゃなく、彼は僕の過去を知っていた。
 なんと、最初に僕をここに連れてきた、あの男の人の弟だったんだ。
 僕は牢から解放されたあともずっと監視対象になっていて、彼はお兄さんと組んで僕の様子を見ていたんだそうだ。
 だけど、そのうち……監視対象とは、思えなくなってきたんだって。

 だから彼はそれまでのお仕事を続けられなくなって、近くの商家の用心棒として働き始めた。そういう経緯だったらしい。
 そんな……それじゃあ、僕のせいで……?

「俺が勝手にやったことだ。兄貴も俺が本気だってわかってる。頑固な奴だから、今は簡単に認められないだけだ」
「そんな。ダメだよ。僕は」

 だって僕は――汚いんだ。
 すごく、すごく汚い。

 彼がお店に来てくれるようになった時、実は少し「素敵な人だな」って思いそうになることがあった。
 でもそのたびに、ダメだと自分の胸に言い聞かせた。
 僕はこんな気持ち、持ったらいけない。持つ資格がない。

 ここで暮らす日々に慣れて、大変だけど楽しいなって感じることが増えた。だから心の余裕っていうのができたのか、昔のことを思い出すことが増えたんだ。
 そうして、とことん思い知った。僕がどんなに汚い人間だったのか。

 昔、不思議なほこらで天使様の像にお願いをして癒やしの力を得たけれど、あれは僕が清らかな人間だから授けられたものじゃない。
 あれは唱えた人が僕じゃなくても、誰であっても叶えられる、そういうのだった。
 あそこで祈りを捧げる前から、僕はとうに汚い人間だったんだ。

 ――婚約者のいるティバルトと、平気で旅行を楽しんでいたんだもの。

 アデリナ様っていう婚約者がいると知っていたのに、恋人って呼ばれて特別扱いをされて、単純に喜んでいた。
 おまけに僕はティバルトだけじゃなく、誰の婚約者になったこともなく、酷い時は『四人全員』と『関係』を持ったことさえある。
 今となっては彼らみんな別人になってしまっているけれど、そういう問題じゃない。
 あの頃の僕の周りには、ちゃんと僕を導こうとしてくれた人達がいたのに、僕はその人達を全部無視して好きにしてたんだから。

 過去の自分のおぞましさに絶望しそうになる。
 一番救いようがないのは、それなのにこんな風に告白されて、嬉しいと感じてしまう自分の心だ。

「無理だよ、僕、そんな資格ない……」
「急にこんなことを伝えても、そう答えるだろうとは思った。でもすぐに決めないで、考えてくれ」

 簡単にはあきらめないから。彼はそう言った。
 ……どうしよう。考えたって、きっと同じなのに。

 その日から、彼はお店に来なくなった。
 きっと僕がしっかり考えた上で答えを出すまで、ここに来るつもりはないんだろう。

「どう言ったら、納得してくれるのかな……?」

 僕がずっと心ここにあらずだったから、ハンナさんが「しゃんとしな」って背を叩いてくれた。
 そのおかげでなんとかお仕事を続けられているけど、このままじゃいけないよね。
 僕は考え込んだら顔と行動に出るみたいだし、せめてお店が開いている時は忘れるようにしないと。

 そう頭を切り替えたおかげなのか、外のお花や植木に水やりをしている時、たまたまそれに気付いた。

 綺麗な服を着たご家族が、使用人を連れて馬車を降り、近くにある雑貨屋さんに向かって歩いている。
 仲良さそうにお喋りをしているその一家の後ろを、なんだか変な人がけているように見えたんだ。 

 思い過ごしかな? そう思いつつ気になって見ていたら、大人達が一瞬目を離した隙に、五歳か六歳ぐらいのお嬢さんがぴょこっと脇に飛び出て――ひらひら飛んでいる蝶々を追いかけようとしたみたい――その男がすかさず距離を縮めて、お嬢さんを抱え上げたんだ。
 男はお嬢さんの口を手で押さえ、懐に抱え込み、素早く脇道に入り込もうとしている。
 僕の頭は真っ白になり、気付いたら大声で叫んでいた。

「ひ、ひとさらいーっ!」

 叫びながら、手に持っていた小さめの桶を投げていた。――水やりが終わった直後でよかった!
 軽くなった桶は綺麗に飛んでくれて、男の頭にガコンと当たった。

「うわっ!?」

 男が驚いた拍子に、女の子の口から手を離した。
 途端、その子は火が付いたように泣き始め……
 あれよという間に使用人や近所の人達が駆け寄り、男は取り押さえられた。




 僕はそのご一家からすごく感謝されてしまった。
 近所の人も、ハンナさんもフランツさんも、その話を聞いたヨゼファとアルマもすごく褒めてくれた。

「すごいじゃないルチナ! お手柄だね」
「お嬢さんよかったな、何事もなくて!」
「う、うん」

 あの時は無意識に身体が動いたんだけど……でも、ほんとによかった。
 近所の人達が言うには、すごく手慣れてるから常習犯じゃないかっていう話だったもの。

 さらに数日後の朝、ハンナさんが何やら深刻そうな顔で僕を呼んだ。

「ルチナ。……落ち着いてよくお聞き」
「どうしたの、ハンナさん?」
「さっき、使いの人が来たんだよ。それで、そのね」
「うん?」
「……大公殿下の、お耳に届いてね。あんたにお褒めの言葉を、くださるらしい。で、今夜、ウチに来るってさ……」
「え……えええぇぇ!? こ、今夜!?」
「こ、今夜だよ。ど、どうしようかねえ?」

 ど、どうしよう!?


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