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番外・後日談
母上様、さすがです
読みに来てくださってありがとうございます!
話中で「誕生日いつ?」となるかもしれませんので、お子様達の誕生日を載せておきます。
サシャ:12月初旬
フェリクス :8月初旬
エルーシア:5月中旬
コンラート:1月下旬
フレデリカ:1月下旬
--------------------------------
サシャとフェリクスが無事に重大任務『おつかい』を終え、俺達は楽しく茶会をした。
彼らが運んだ最後の荷物――大量に菓子を入れた籠の中には、クッキーだけじゃなくマフィンやパウンドケーキといった、水分を含むしっとり系の菓子もあった。
とどめに、梨を砂糖で煮た瓶詰め、シロップ入り。
全部合わせたら、あの子達の腕力だと一人では持てない重さになる。
その場で持つことはできても、運ぶことが困難な重さなのだ。
それでもサシャはフェリクスに重いものを持たせまいと、頑なに自分だけで運ぼうとするか。
それとも?
結果は、兄弟が協力して運んできた。
彼らの成長にじ~んときたのは、俺だけではなかろう。
達成感に満ちた顔で菓子を頬張る子供達に、我も我もと菓子をあげたがって止めるのが大変だったぜ。
当然のごとくサシャとフェリクスはおねむになり、リシェルはミッテちゃんを自分の肩に乗せ、子供達と一緒に昼寝用の部屋に行った。
ヨハンはいそいそと自室に戻った。お昼寝の様子を絵に収めるべく、スケッチブックを取りに行ったのだ。
リシェルの寝顔をヨハンに見られるっつうのは、ほんのちょっぴりムカつくんだがな……まあ、ヨハンにとってはリシェルも自分の息子という感覚だし。
そもそも我が子という感覚を理解できるようになったのがたいしたもんなので、俺は広い心で許してやっていた。
許してあげるから、リシェルとサシャとフェリクスとヒヨコのお昼寝絵は、線画だけじゃなく色も付けてくださいね――と。
そして今、この場には母上様と、末っ子のエルーシアを抱っこする俺、そしてエルーシアの世話係の使用人のみが残った。
ソファに座ったまま抱っこをするのは、俺が楽なだけじゃなく、見守る使用人達も安心する。
茶会の間は一度も目を覚まさなかったお姫様は、つい先ほどぱっちり瞼を開けて、今は俺をじーっと見上げていた。
何やら口をもむもむさせている。腹が減っているわけではなさそうなんだが、どうしたんだろう。
この部屋に残っている菓子の匂いがわかるのかな?
俺達が普通の声量で喋っていても、この子は一度眠ったらそうそう起きない。腹減りかおしめの時に泣くぐらいで、話し声それ自体に驚くことがほとんどないのだ。
ミッテちゃんいわく、ここが安心できる場所だと理解できているから、らしい。
うーん、嬉しい。可愛い。
微笑みを誘われ、以前より伸びてきたエルーシアの髪をちょいちょい撫でていると、母上様が向こうのソファで俺達を眺めながらぽつりと言った。
「不思議なものですね……」
「はい?」
顔を上げると、母上様は言葉通り、不思議そうな表情でエルーシアを見つめている。
「おまえがサシャとフェリクスぐらいの年齢であった頃は、あの子達とは随分と様子の違う子供でしたよ」
「……そうですね」
そりゃ違いますよ母上様。
もしも命の危機になってなきゃ、多分俺は年相応のお子様ぶりっこをしていたと思いますし、あんなちびっこ普通はいませんて。
しかし母上様のお言葉には続きがあった。
「わたくしの幼き頃は、もちろんおまえほどではありませんでしたが、判断力や言葉遣いなどはおまえとさして変わらぬ子であったと記憶しております。ですから以前は、子供とはそれが標準なのだと思っていたのですが」
――母上様ぁ!?
それ、標準と違います! 普通と思ったらいけないやつですから!
なんか久々に母上様の発言で顔が引きつりそうになっちゃったぜ。
「サシャとフェリクスは、とても優秀な子供達ですよ。いとこの双子達も賢いですし」
「ええ、それは見ていてわかりました。ですから、どうやらわたくしの認識がおかしかったのだと理解したのです」
よ……よかった!
さすが母上様。そこで「この子達はどうも期待できませんね」とはならず、己の認識がズレているのではと自己分析してくださったとは。
うーん、なんかゲームの悪役令嬢アデリナ様を思い出しちゃったぞ。
俺が死の床から逃れるまで、お姉様は毎日スパルタ教育を受けていた。自分がムスター家を背負って立たなきゃいけないプレッシャー、朝から晩までみっちり勉強漬けの日々……
そのせいで成長した時には、高貴なる氷の淑女ができあがっていたわけなんだけど。
あれやっぱり、母上様自身の子供時代が基準になってたんだな……ははは。
いや、お姉様にとっちゃ笑いごとじゃねえ。
過ぎ去りし過去だからこそ、笑顔で話せる笑えない話ってやつ。
でもそんなスパルタ教育に、ぎりぎりでもついて行けていたお姉様もマジすげぇ人だわ。
母上様とお姉様に比べたら、俺なんてフツーの人です。
フツーなんですよ? ミッテちゃん聞こえてます~?
「それにしても、ヨハンは遅いですね?」
「ん? そういえばやけに遅いですね」
「何をしているのでしょうか、まったく……少し様子を見てきます」
母上様は呆れた顔で優雅に立ち上がり、部屋を出て行った。
「天使達のお昼寝が終わってしまうじゃないか。何をぐずぐずしているのだろうな、ヨハンお祖父様は」
な? とエルーシアを覗き込んだら、「あうー」と返事が戻った。
おまえもそう思うよなー?
ところがその後、呼びに行ったはずの母上様まで戻ってこなくなった。
戻ってきたのは、どういうわけかヨハンの執事だ。
俺が子供の頃に住んでいた部屋が、今はヨハンの部屋になっており、母上様の部屋もその近くにある。
だからヨハンの執事と言いつつ、彼は母上様の命令で動くことがよくあり、俺は何かトラブルでもあったのかと身構えた。
「一大事にございます」
「何事だ?」
「ヨハン様の例のお部屋の件、とうとうイゾルデ様の御目に触れましてございます」
「…………」
……あー。ひょっとしてあれ?
目で尋ねたら、執事はこっくりと頷いた。
ヨハンくんの、秘密のお部屋。
彼のアトリエの奥にあるそのお部屋は、とある氷の女王様の横顔や、斜めアングルの顔や、すっきりとした後ろ姿や、とにかくそんな美しいお姿の絵でいっぱい。
なんでもヨハンの奴、スケッチブックを取りに行ったついでに、懐かしくなって昔の絵を眺め始めたらしい。
もうちょっと、あと一枚と眺めているうちに、気付くと母上様の姿絵を何枚も取り出して……
ちょうどそんな時に、ヨハンを呼びに来た母上様。
なんか使用人達が焦って自分を止めようとするので、怪しいぞと察した母上様は、ヨハンおまえ何やってんだとアトリエに突撃。
見ちゃった! バレちゃった!
そんな感じだったそうだ。
「放っておけ」
「かしこまりました」
執事は丁寧に一礼し、きびきびとした足取りで退室した。
俺は小さなお口をもむもむしているエルーシアの観察に忙しいのである。執事はヨハンにきっちり、そう伝えておいてくれることだろう。
しかしその後、俺は真っ赤な顔のヨハンに泣きつかれた。
「イゾルデが部屋にこもって出てこなくなってしまったんだよどうしよう!?」って、知らねえよ!!
てめぇで何とかしろ!!
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