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ゲームと転生
5. 大事なおさらい
しおりを挟むヒヨコのミッテちゃんは、あちらの世界にせっせと『知識』を流す際、何らかの物語の形で広まるだろうと想定してはいたらしい。
だけど微妙な内容が山ほどあるので、修正が入るだろうとも予測していたそうだ。
ところがその電波をキャッチしたのは、『この会社の作るゲームでキャラクターを深読みしたらバカを見る』と有名な制作会社だった。
結果、設定やストーリーに一ミリたりと修正の入らなかった現物そのままが、BLノベルゲーム《愛と祈りの協奏曲》になったわけである。
そんな微妙ないわれのある物語の舞台は、リヒトハイム王国。大陸の中ほどにあり、領土はそこそこ広く、豊かで平和な国のひとつだ。
ランハートとして実際に暮らしてみた経験上、時代はヨーロッパの中世後期から、近代初期が混在しているような印象を受ける。異世界だから当然違う部分も多く、衛生面を大切にする感覚などは、現代の日本に近い。
基本的に魔法は存在しないものの、たまに不思議な力を持つものが出てくる。それは『天使』にまつわる何かだ。
――ミッテちゃんが「呼んだ?」と言いたげに片羽を挙げた。きみの背後の天使画が神々し過ぎて、脳がバグるからやめてくれないかな。
それはともかく、この世界の人々は、身分問わず誰もが天使を崇めていた。どの国々にも建国の物語で天使が登場しており、それが今日の天使教とも呼べる信仰のもとになっている。
――ミッテちゃんが「エヘン」と胸を張った。お願い、気が散るからヤメテ。
信仰の対象があるのに教会や神殿といった建築物がないのは、『天使は天上界から大地を見下ろすものであり、地上に王を超えるものを建立してはならない』と太古の王様の誰かが言ったからだそうだ。
――ミッテちゃんが羽をパタパタさせながら、首を横に振り振り……うん、そうだね。誰が言ったんだろうね。
世の中の仕組みは、基本的に『俺』のいた世界と変わらない。
大きく違っているのは、男性にのみ存在する第二の性別――『フェーミナ』だ。
女性の出生率がやや低めで、男女数の差を埋めるようにフェーミナが生まれてくる。そしてフェーミナであった場合、女性と同じく相続権はなく、産む側として男性に嫁がねばならない。
制作会社の独自設定と思いきや、この世界においては現実も現実だった。
それは古語で女性を意味し、法的な位置付けは女性よりもさらに下として、差別の対象になりやすい。
身体は男なのに女性を孕ませることはできず、結婚はできても結婚式はできず、首輪をつけることが義務付けられている。裕福な家ではチョーカーのような装飾的なものをさせているが、首輪は首輪だ。
装着しなければ第二性を隠匿できるかといえば、そうはならない。理由はわからないが、フェーミナは男が見れば一目でわかるのである。たとえそれが赤ん坊であっても。
さらにこの国は一夫一妻制だったが、フェーミナに限り第二夫人として迎えることが許されていた。
かつてゲーム冒頭のナレーションを聞きながらギブアップしそうになった箇所だが、ここを飛ばしたらストーリーがちんぷんかんぷんになる。何故ならば主人公のルチナ・フォン・メルクマールが、そのフェーミナだからだ。
余談だがこの世界の貴族には、名前にフォンがついている。名前付きのキャラは貴族しかいなかったため、妹に「全員フォンなら、フォン要らないんじゃね?」と言ったことがあった。そうしたら、
『この会社はね……舞台が日本でもない限り、どんな世界観のどんな人種のキャラであろうと、アラブ系だろうが中華系だろうが、貴族であれば太陽が東から昇って西へ沈むようにフォンを付けるんだよ』
という回答があった。ある意味徹底していて天晴れだな。
そんな余談はさておき、貴族の最高位であり、王の次に偉いのが公爵家だ。
リヒトハイム王国には四つの家がある。
シュピラーレ公、レーツェル公、ヴェルク公、そしてムスター公……。
どこかで聞いたのが一個ある? と突っ込むのは後だ。今そこを掘り下げたら、先へ進めなくなっちゃうからな。
では、『俺』の知っているゲームキャラと現実を、ミッテちゃんとともにすり合わせていこう。
主人公、ルチナ・フォン・メルクマール。
男爵令息。第二性フェーミナ。
はしばみ色の髪と瞳の、小柄でほっそりとした少年。『清らかで悪いことはできない天使のような性格の男の子』とキャラクター紹介には書かれていたものの、「ごめんなさい、いけないことだってわかっているけど、でも、僕は彼がいないと生きていけないんだ」とほざきながら四股ハーレムを構築したエセ天使。こんな穢れた奴をピヨちゃんと一緒にすんじゃねぇ。
家族から愛され大切に守られ、特に山も谷もなく生きてきた幸せ者であり、断じて『薄幸の』美少年ではない。しかし、こいつの取り巻きは何故か全員そこのところを勘違いして、庇護欲を覚えるようだ。
攻略対象その一、ティバルト・フォン・シュピラーレ。
シュピラーレ公爵家の一人息子。華やかな金髪と青紫色の瞳を持つ。メインヒーロー。
婚約者がいながら、「真実の愛を見つけたのだ」とほざいてルチナに走った浮気野郎。しかもそれを婚約者に詫びるどころか、「おまえは強いから一人でも生きていけるだろう。だがルチナは私がいなければ生きていけないのだ」などと寝言を口走り、ルチナを責めた彼女に激昂して婚約破棄、断頭台に送り込んだ外道。
攻略対象その二、エアハルト・フォン・レーツェル。
レーツェル公爵家の一人息子。黒髪と金の瞳。ティバルトの親友。
嘘を見抜ける魔眼を持って生まれたために身内から恐れられ、寡黙で人付き合いを好まない人間に育った。ティバルトやルチナは『嘘がない』ために親しく付き合い、二人を攻撃する婚約者の令嬢を敵と見做した。
彼の人格形成に大きな影を落としたであろう魔眼の真相については、結局ゲームでは明かされなかった。ミッテちゃんに訊いたら、「表情や声の抑揚から偽りを看破する、並外れた観察眼ですね。それを周囲が勝手に魔眼と呼んで恐れただけです」だそうだ。合掌。
攻略対象その三、ヨハン・フォン・ムスター。
ムスター公爵家の当主。深緑色の髪と瞳を持つ。ティバルトの婚約者の父。
浮気の被害者である娘の傷口に「おまえの言い方がきついのもいけないよ」だの「おまえの態度も改めなければ」だのと塩をすり込み、さらには加害者のルチナと不倫。「きみと一緒にいると心がやすらぐ」なんぞと甘く囁きながら、娘と同年代の少年に縋りつくおぞましいシーンは鳥肌が立った。
攻略対象その四、リシェル・フォン・ヴェルク。
ヴェルク公爵家の一人息子。第二性フェーミナ。
白金の髪に天色の瞳の、ルチナとは比較にならない美青年。何故かティバルトに恋をし、婚約者の令嬢とは『ルチナが邪魔』という点で意気投合した悪役令息。
子供の頃ヘンタイ野郎にヤられてしまう。しかもそのヘンタイ野郎に「バラされたくなければいい子にしろ」と脅され、成長してからもしばらく関係が続いていた。ルチナとのいちゃいちゃより、そいつに凌辱されているシーンのほうが多いし長い。
他のルートでは断罪されそうになった令嬢を見捨てて逃げ、百合ルートや逆ハーレムルートではルチナのために彼女を裏切るのだが、いずれもちゃんと幸せになれた描写が一切なくて憎めなかった。
結局あのヘンタイ野郎はどうなったんだ?
いつ断罪されるんだとジリジリしているうちに、全ルートが終わってしまったんだが。
「されていませんからね、断罪。一回も」
なにいいいっ!? あのドクズが放置!?
「リシェルがその男のことを打ち明けた相手は、ルチナだけです。彼は『ヴェルク家の醜聞になるから秘密にして欲しい』と望み、ルチナは『リシェルがそう言うのなら』と何もしませんでした」
待て待てぃ! 言われたからって本当に放置すんなよ!? 露見させずに地獄を見せてやりゃあいいだけだろうが!
公爵家の人間が四人も揃ってんだ、いくらでも手段はあったろうに。そんな甘ったれた調子で、子供を痛めつけて脅迫するクズに、のうのうとクズライフを謳歌させてやったわけか。
リシェルは長年脅迫されてきたせいで、「絶対に隠し通さなければ」から頭が抜け出せない状態だったんだろうしな。客観的なアドバイスをしてやれる第三者の位置に、ルチナを置いてしまったばかりに……。
やっぱり、こいつのことはいまいち責められない。なんとかしてやりてぇな。
――でもって、最後のメインキャラは。
悲劇の悪役令嬢、麗しのアデリナ・フォン・ムスター様。
ムスター公爵家の一人娘。銀の髪に水色の瞳を持ち、『氷の淑女』や『冷徹な魔女』と呼ばれる、気高く誇り高い女性。
婚約者には浮気され、父親には不倫され、諸悪の根源を糾弾したら寄ってたかって『愛を理解できない非道な悪女』と理不尽な罵倒を浴びせられ、最終的に断頭台送りとなる悲劇の令嬢……。
さて。我慢に我慢を重ねてきたが、ここで大事なおさらいをするとしよう。
俺は誰かな?
はい、ランハート・フォン・ムスターです。歳は五つです。公爵家のお坊ちゃまです。
つまり。
アデリナ様の、弟である。
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