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狩りと獲物
50. 同時攻略の裏側
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できれば怖い思いをさせたくなかったリシェルに、断腸の思いで囮となってもらうからには、当然俺はそちらに集中したい。
そうなるとエアハルトを誰が担当するかという話だが、これはアデリナお姉様が適任だった。
年齢的にも身分的にも、彼が自分の嫁ぎ先候補の筆頭というのは、お姉様も薄々察していたらしい。レーツェル公夫妻に問題があり、あまり積極的に推せる相手ではないということも。
けれどそれを含めても、母上様はエアハルトを候補に入れていた。同年代の少年と比べ努力を苦にしない性格、公爵令息に相応しいマナーも身につけ、ずば抜けた観察眼もある。レーツェル公夫妻の毛嫌いする『魔眼』は、母上様の目には美点に映っていた。
エアハルトがありもしない魔眼の呪いとやらに溺れないよう巧く育てれば、他人の甘い話に惑わされない頼もしい当主になるだろう。
「ですが逆に、そうならなければ自分の『眼』とやらを過信するあまり、簡単に騙される危険があります。彼が自分の持って生まれた才能の内容を正しく認識できないままでいたら、いつかレーツェル公爵家の隙になってしまうでしょう」
「わたくし達の家と、ヴェルク公爵家で起こったのと近いことが、レーツェル公爵家でも起こるかもしれないのね?」
「僕はそう思います。多分、お母様もそれを危惧なさっているんじゃないかと」
これはあながち嘘八百でもない。ティバルトやルチナに傾倒させないことが第一の目的だが、今のエアハルトのまま大きくなってしまったら、嘘を見抜けるからこそ付け入りやすい人間になってしまうだろう。
俺を毒殺しかけ、リシェルをあんな目に追い込んだ奴に、楽をさせてやりたくはない。
「わかったわ。具体的には、わたくしはあの方と何をお話すればいいのかしら?」
「ありがとうございます! それでは――」
ゲームでのアデリナ様は、とにかく精神面に余裕がないせいで常にピリピリし、それが表情にも口調にも出てしまっている悪役令嬢だった。だから正論を言っていても、表面的な印象で相手から怖がられてしまう状況だったんだが、今のお姉様は違う。
昔より心にゆとりがあり、本来の知性や美しい身のこなしが誰の目にもわかるようになっている。そんなお姉様を、エアハルトは無下に追い払うことなどできないだろう。
ただしお姉様が努力の末に獲得した気品も知性も何もかも、相手がちゃんと見もせずに去ってしまったら終わりだ。
「最初が肝心です。さりげなくも強引に、エアハルト殿が話を聞くしかない状況に持って行ってください」
かつて『俺』は苦情専門の部署にいたけれど、最初からそこにいたわけじゃない。まずその部署は、新入社員がいきなり放り込まれることは絶対になかった。
一般の問い合わせ対応で経験を積んだ後、上との面談が行われ、その部署で働く気はないかと打診される。そこの仕事が精神面で非常にきついことも、そのぶん給料がいいことも説明され、移るかどうかを自分で選ばせてもらえた。
俺は親父に楽をさせてやりたかったから、迷わずその話を受け、社内研修も受けてその部署へ異動したんだ。
そこで相手をするようになった『自称神様お客様』は、嘘と悪意の見本市だった。正当な苦情はともかく、クレーマーの目的は日頃の憂さ晴らしや利益を少しでもむしり取ることなので、それなりに高いスキルと知識、強心臓を持っている者でなければ相手にできない。
研修で最も重要なことと教えられたのは、ひたすら相手に謝り倒すための語彙ではなく、絶対に相手のペースに呑まれず、こちらのペースに持ち込むことだった。
それに比べたらエアハルト坊やは、ぶっちゃけ超能力者でも魔法使いでもないし、言葉の通じる礼儀正しい素敵なお子様だ。
その代わり、親の影響でムスター家の人間にいい感情を持っていない。
加えて人間不信気味で、自分に群がって媚びを売ろうとする『嘘まみれの』令嬢を嫌っている。
ムスター家の令嬢のアデリナお姉様が、いつもの調子で話しかけても、「ゆっくりしていくといい。それでは」とか言って、あっさりどこかへ行ってしまいそうだ。
「マナーとしては、『ご一緒させてもらってもいいでしょうか?』という尋ね方をするものだと思います。でも、相手の意思に委ねる問い方では、こちらへの悪意が強い場合に『断る』と拒否される恐れがあります。なので、自分はこうしますからとハッキリ宣言してしまい、エアハルト殿に断る間を与えず、さっさと座ってしまうのがいいでしょう」
お伺いを立てる言い方をしたら、必ず「嫌」と返す自称神様お客様は多かった。こっちが困るとわかった上で、わざとそう返すんだよ。
「それから、通常は名乗ってから用件を伝えるものでしょうけれど、その順番を逆にしてください」
「逆に?」
「はい。お時間は大丈夫ですかだの、話を聞いていただけますかだの、そんな一般的な確認も飛ばしてください。僕に頼まれて話しかけたと、まず最初にお伝えしてしまい、次にお姉様のお名前を名乗っていただくのがいいでしょう。エアハルト殿の中の重要度は、ムスター家の令嬢の名前ではなく、『僕の用事』になります」
リシェルやお姉様はとても記憶力が良く、聞いた言葉はだいたい憶えられるそうなんだけれど、普通の人は長々と喋られても、その全部を憶えることなんてできない。電話対応の際には、自分の頭の中で瞬時に要点をまとめ、いかに簡潔に伝えるかが勝負だった。
何より、こちらに好意のない相手は大抵、話をきちんと聞きたがらない。だからこそ短時間で、伝えたいことをしっかり相手の耳へ入れるために、無駄な発言は極力削り落とす。
その会話の中でも、特に相手の印象に残りやすいのは、一番最後に口にした言葉ではない。
冒頭、一番初めに口にした言葉だ。
「あとは決して嘘をつかずに、お姉様のペースでお願いします」
俺とリシェルの身に起こったこと、それからエアハルトのそれが魔眼ではないことを、お姉様の言葉で伝えてもらう。一度聞く姿勢になれば、『嘘のない』お姉様の話はきちんと届くだろう。
「わたくしはお母様やランハートほどにはわからないけれど、嘘をついたらそんなにお顔に出るものなの?」
「案外出ますよ。目線や仕草などでも、『あ、この人は嘘をついているな』ってピンとくること、お姉様もあるでしょう? エアハルト殿はきっと、人一倍それに気付きやすい目を持って生まれた上に、日頃から周りを疑って観察することが多かったのではないでしょうか」
母上様によれば、レーツェル公夫妻自体が疑り深い性格だそうだから、息子のエアハルトも自然とそれを真似て、余計に鋭くなってしまったのかも。
多分『俺』も『耳』に関しては、人より少しばかり良い耳を備えて生まれたんじゃないかな。さらに年齢も性別も職業も違う人の言葉を、毎日ひたすら何十件も聴き続けることで、鋭さが磨かれたんじゃないかと思う。
周りの人間の顔色を窺い、ずっと耳を澄ましてきたのは五歳以前の『ランハート』も同じだ。だから相手が嘘をついているか否かを当てるぐらいなら、俺にとってもそこまで難しいことじゃない。
「例えば声って、表情がそのまま出るんですよ。しかめっ面をして、心から楽しそうな声を出すのって難しいでしょう?」
「そうね……想像してみたら、とっても難しそうだわ」
「笑っていると声も笑い、怒っていると声も怒り、バカにした顔を作れば声もバカにした声になるんです」
例えば「あ、この神様お客様、なんか都合の悪いこと隠してやがんな?」とかね。
けれど、嘘を吐いた動揺が微塵も表に出ない者だっている。エアハルトが自分の魔眼とやらを信用し過ぎたら、そういう輩には騙されてしまうだろう。
自分の目を過信してはならない、絶対ではないんだと自覚すれば、持って生まれた能力と正しい付き合い方ができるようになるんだ。
エアハルトは、この話をにわかには信じられないだろう。
けれど、お姉様の言葉を無視することはできない。
お姉様はこれまで彼の周囲にいた奴らと違い、『嘘を口にしない』のだから。
そんなわけでエアハルトくんはお姉様に完全にお任せし、俺はフロイデ某の狩りに取りかかった。
フロイデ某は自分がこの館に詳しいと思っているようだが、毎年ここに来ている親父さんや警備の騎士達のほうが詳しいに決まっている。
奴にバレずに尾行することは結構簡単だった。バウアー男爵が使用人や警備の騎士の位置を調整し、わざと人目の少ない廊下を作ることで、フロイデ某の歩くルートを誘導したんだ。
リシェルには、公爵令息を狙う悪人を釣りたいこと、部屋に連れて行かれたらどうするか、そのあたりを実は来る前に伝えてあった。
『わたし、やる。わたしもできるなら、やりたい』
リシェルは決意に満ちた顔で頷いてくれた。緊張や恐怖より、自分も役に立てるかも、という気持ちのほうが強かったようだ。
ものすごく後ろ髪を引かれつつ、打ち合わせ通りにリシェルを一人にしたんだけれど……。
俺が離れて少しすると、リシェルは令嬢グループに絡まれ、予定外のことで怯えるはめになった。あんの小娘ども~。
遠目でもドレスに見覚えがあった。アデリナお姉様と一緒にいた令嬢どもだ。
どうやらお姉様がエアハルトの攻略に向かい、ちょうどいいとリシェルへ絡みに来たな?
おかげでフロイデ某がチャンスとばかりに餌に食い付いたんだが。
おまえら、呑気な令嬢生活を送れるのは今日までと思っとけよ?
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